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インボイスで事務作業が激増、経理も一般社員もイライラ…政府は企業を非効率にしたいのか
2023年11月23日 08時14分

多くのフリーランスや個人事業主から反対があった「インボイス制度」ですが、反対運動も虚しく10月1日から施行されました。特段混乱もなく導入されたようにも思われましたが、施行から1カ月が経ち、経理担当者だけでなく一般社員からも、事業者番号の有無の確認や事業者番号を毎回システムに入力するなど事務の煩雑さが増したと声があがっています。

当初は、インボイス制度導入についてあまり影響がないと思われていたサラリーマンについても大きな影響が出ているということです。インボイス制度が導入されることで税収は増えるかもしれませんが、それに伴う事務負担やコストを負担させられるのは国民です。

益税は許さないという点だけが強調され、それに掛かる事務的負担やコストについてはあまり議論されてきませんでした。果たして、これだけの事務負担やコストを掛けるだけのメリットはあったのでしょうか。(ライター・岩下爽)

多くのフリーランスや個人事業主から反対があった「インボイス制度」ですが、反対運動も虚しく10月1日から施行されました。特段混乱もなく導入されたようにも思われましたが、施行から1カ月が経ち、経理担当者だけでなく一般社員からも、事業者番号の有無の確認や事業者番号を毎回システムに入力するなど事務の煩雑さが増したと声があがっています。

当初は、インボイス制度導入についてあまり影響がないと思われていたサラリーマンについても大きな影響が出ているということです。インボイス制度が導入されることで税収は増えるかもしれませんが、それに伴う事務負担やコストを負担させられるのは国民です。

益税は許さないという点だけが強調され、それに掛かる事務的負担やコストについてはあまり議論されてきませんでした。果たして、これだけの事務負担やコストを掛けるだけのメリットはあったのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●インボイス制度の導入で増えた事務負担

インボイス制度は、適格請求書(インボイス)での請求でないと、消費税の仕入税額控除ができなくなるというものです。納税する消費税は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除して算出するため、仕入税額控除が認められないと消費税の負担が大きくなります。

適格請求書(インボイス)として認められるためには、これまでの請求書の要件に加え、①事業者登録番号、②適用税率、③税率ごとに区分した消費税額等を記載する必要があります。

そのため、経理担当者は、請求書が届いた場合、まず、事業者番号の記載がある請求書と事業者番号の記載がない請求書を振り分けなければなりません。そして、税額計算や記帳方法を分けるなど作業が多くなります。その他、インボイスの要件を満たしているかどうかの突合作業や事業者番号に間違いがないかを確認する必要があります。

また、適用税率が、8%と10%の2種類あるので、その区分が正しいかと税額の計算に間違いがないかを確認しなければなりません。

さらに、消費税額を計算して1円未満の端数が生じる場合、請求書毎に処理しなければならないため、その確認も必要になります。端数処理の方法については、相手先企業と「四捨五入」にするのか、「切捨て」にするのか「切上げ」にするのかを決めておく必要があります。その上で、消費税額の合計額毎に端数処理をしなければなりません。

●システム対応へのコスト負担

クラウドの会計サービスを使う企業も増えてきましたが、セキュリティの問題などもあるため、特に大企業では、独自の経理システムを導入しているところも多くあります。今回のインボイス制度の導入によって、これらシステムの改修が必要になり、システム担当者と経理担当者がシステム開発会社などと何度も打合せを行い、多くの時間が費やされました。中には、連日、残業続きで嫌気が差し、退職した人もいます。

当然、システムの改修費用も発生しますし、改修後のシステムの操作方法についても周知する必要があります。これらの対策にどれだけの時間とコストがかかったかはわかりませんが、相当の額であることは間違いありません。

●経理以外の一般社員にも大きな影響

インボイス制度は、フリーランスや経理担当者が大変になるだろうということは誰もが予想していました。しかし、実際には、それら以外の人にも影響が及んでいます。適格請求書(インボイス)での請求でないと消費税の仕入税額控除ができないため、一般社員も会社からインボイスに対応している企業と取引するように言われるところもあるからです。そのため、取引をする際は、相手がインボイスに対応しているかをいちいち確認しなければなりません。

また、①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業などは、領収書をもって適格簡易請求書として利用することができるため、これらサービスを利用する場合にもインボイスに対応しているかを確認する必要があります。

飲食店や小売店を利用する度にインボイスに対応しているかを聞くことは手間だけでなく心理的な負担もあります。相手方から嫌な顔をされることもあるでしょう。買いたい物が特定の店にしかなく、その店がインボイスに対応していないと買いたい商品が購入できないこということにもなりかねません。こんな非効率なことをしていては、日本は益々労働生産性が低くなってしまいます。

タクシーについては、手を挙げて車を停めてから、運転手にインボイス制度を導入しているかを確認し、インボイスに対応していなければ「いいです」と乗車を拒否しなければなりません。タクシーを停めてから断ること自体、運転手に失礼だし、税金を取るために、なぜ、こんな馬鹿げた対応を社員がしなければならないのでしょうか。

●経済を低迷させる行政による過剰な規制

以上のとおり、インボイス制度は、フリーランスや個人事業主を窮地に追い込むだけでなく、企業に多大なる事務負担とコストを負担させています。

インボイス制度の導入によって税収は多少増えるかもしれませんが、事務負担やコストの増加については何ら考慮されていません。少なくとも事業者にとってインボイス制度を導入するメリットは何ひとつ無く、負担だけが増えています。

会計管理ソフトを提供するLayerXの調査によると、インボイス制度を導入することで、全国で毎月約3400億円分のコストが増える可能性があり、年間で4兆円を超える負担になるとの試算結果が出ています 。

一方、インボイス導入により、年間約2480億円の税収増になると政府は試算していますので、仮に4兆円のコストが掛かるとすれば大幅な赤字です。わずかな税収増のために、フリーランスの仕事を奪い、経理やシステム担当者に大きな負担を掛け、一般社員にも負担を掛ける意味があったのでしょうか。

インボイスに限らず、日本では、ほとんどの業種で行政による規制がなされており、許認可を得るために膨大な資料を準備しなければなりません。その後も報告書の提出や立入検査を受けるなど行政対応に係る負担は相当大きいと言えます。このような現状を見ると、行政による過剰な規制が、日本経済を低迷させているのではないかとさえ思えます。

本来であれば、日本経済が右肩上がりで伸びていくような政策を行い、税収も増えるというのが望ましい形ですが、内閣人事局の創設によって、官僚の幹部人事は政治家に握られてしまったため、わかりやすい成果を挙げようとする役人が増えるようになりました。

その結果、出世したい財務官僚たちは将来のことよりも目先の手柄が欲しいために、「税収増」というわかりやすい成果を求めるようになりました。官僚の民主的統制は大事なことですが、短期的な視点だけでなく長期的な視点を持って政策に取り組むことが求められます。そうでなければ、日本は衰退の一途を辿るのではないでしょうか。

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