異様な悪臭を放つマンション住人に出て行ってもらいたい──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者は、マンションの同フロアにある「汚部屋」に悩まされているといいます。階段のすぐそばにある部屋のため、出入りには必ず通らなくてはいけないようで、そのたびに「腐葉土」のような悪臭がするそうです。
この部屋の住人はごみの「収集癖」があり、悪臭のほか、ゴキブリなどの虫の発生原因にもなっているようで、別のフロアに悪影響を及ぼしトラブルにもなったそうです。
また、部屋の腐った床板から水漏れが発生した際の修理費用なども払わず、管理組合から何度も注意しているものの一向に改まらず、頭を悩ませています。
マンションは賃貸ではなく「分譲」で、この部屋の住人は、そのマンションの「区分所有者」にあたるそうです。
これだけの迷惑を被っていることから、相談者としては、なんとかして出て行ってもらいたいと考えているようです。何か方法はあるのでしょうか。瀬戸仲男弁護士に聞きました。
●分譲オーナーでも他の住人に迷惑をかけて良いわけではない
——この迷惑をかけている住人に対処するために、どういった手段が考えられるでしょうか。
分譲マンションの持ち主は、「区分所有者」といい、区分所有法という法律のルールを守ることになります。
区分所有法には、ほかの区分所有者に迷惑をかける区分所有者(迷惑オーナー)に対するペナルティの条項があります。区分所有法57条、58条、59条の3カ条です。順番に見ていきましょう。
まず、区分所有法57条は次のとおり規定しています。
「(共同の利益に反する行為の停止等の請求) 第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。 2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。 3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。 4 前三項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。」
この57条1項に規定されている6条1項には、次のように規定されています。
「第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」
今回のケースにおいて、迷惑オーナーの行為は、この6条1項の禁止行為に該当するものです。したがって、57条1項を根拠として、「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」は、迷惑オーナーに対して「ごみの収集をして汚部屋にする行為」の停止や、結果の除去、予防措置を請求できます。
この「共同の利益に反する行為の停止等の要求」の方法は、「訴え」の方法ではなくても構いませんが、「訴え」の方法による場合は「集会の決議」が必要であり、管理規約ではできません(57条2項)。
この場合の集会決議は「普通決議」で足り、「特別決議」は必要ありません。また、集会決議をする前に、迷惑オーナーに対して「弁明する機会」を与える必要もありません。
この「普通決議」の点と「弁明の機会不要」の点が、次の58条、59条の場合とは異なる点です。
●専有部分の「使用禁止」を請求することもできる
迷惑オーナーに対して、57条の要求をおこなったとしても、事態が改善されない場合は、58条によって、迷惑オーナーに対して「専有部分の使用の禁止」を請求できます。
区分所有法58条は次のとおり規定しています。
「(使用禁止の請求) 第58条 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。 2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。 3 第1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。 4 前条第3項の規定は、第1項の訴えの提起に準用する。」
使用が禁止される範囲は「専有部分」に限らず、「共用部分」「敷地」「付属施設」も含まれます。
58条の場合は、「特別決議」(区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数)による集会決議が必要であり、請求方法としては、集会決議の前に必ず「弁明の機会」を与えることが必要です。さらに、必ず「訴え」の方法によることが必要です。
このように、58条の専有部分使用禁止の要求の場合は、(1)訴えの方法、(2)特別決議(4分の3)、(3)弁明の機会という厳しい要件が規定されています。なぜでしょうか。
専有部分の使用禁止は、迷惑オーナーにとって自分の財産である専有部分の使用ができなくなることですから、これは日本国憲法29条の「財産権の保障」に抵触するおそれがある事態ですので、要件が厳しくなっているわけです。
なお、58条の訴えの提起に当たっては、事前に57条の請求をおこなうことが要件とされているわけではありません。
●最終手段として「競売」を請求することも考えられる
また、最終手段として、迷惑オーナーの所有部分につき、競売請求をすることができるという規定もあります。
区分所有法59条は次のとおり規定しています。
「(区分所有権の競売の請求) 第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。 2 第57条第3項の規定は前項の訴えの提起に、前条第2項及び第3項の規定は前項の決議に準用する。 3 第1項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から6月を経過したときは、することができない。 4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。」
今回のケースで、相談者は「迷惑オーナーを追い出すことはできるのか?」と考えていますから、この59条が解決策ということになります。
59条の場合は、58条の場合と同様に、(1)訴えの方法、(2)特別決議(4分の3)、(3)弁明の機会という厳しい要件が規定されています。
これらの要件の他に、59条には「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」という要件が規定されていますので、いわば「59条は最終手段」ということになります。
なお、仮に競売の申し立てがされたとしても、迷惑オーナーが自ら競落すれば「元の木阿弥」状態になりますが、どうしたらいいでしょう、という不安もありそうですね。
59条4項には、競売を申し立てられた迷惑オーナー自身や迷惑オーナーの替え玉(迷惑オーナーの資金で買い受けようとする輩)は、買い受けの申し出(競売参加)が禁止されていますので、安心してください。