東京・歌舞伎町の「トー横」に出入りしていた女子中学生がビルから転落して死亡した。
2年前、「トー横」に通っていた16歳の長女を同じように失った男性は、このニュースに言葉を失った。娘の死後も現場に通い続け、ようやく真相をつかんだばかりだった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「むごい死に方をさせた人に一矢報いたい」 父の原動力
浩三さん(42歳/名字は非公表)は2023年3月、長女のあきこさんを亡くした。付き合っていた彼氏とともにホテルの上から飛び降り、下半身がない状態で発見されたという。まだ16歳だった。
「どうしてこんなことに…」
原因を探る中で、あきこさんが東京都新宿区歌舞伎町にある新宿東宝ビルの周辺、通称「トー横」と呼ばれるエリアに出入りしていたことを知った。
「娘をトー横に殺された」。そんな思いがこみ上げてきた。
それ以来、浩三さんは仕事帰りなどの時間を見つけてはトー横に通い、トー横キッズと呼ばれる若者たちに声をかけ続けている。
「原動力は復讐心でした。娘にあんなにむごい死に方をさせた人に一矢報いたいという気持ちです」
顔見知りになったトー横キッズと話す浩三さん(右)(2025年10月23日、東京・歌舞伎町で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●2年半通い続けてた末にたどり着いた"答え"
それから2年半、浩三さんはようやく"答え"を見つけたという。
「あきこがトー横に通うようになってできた彼氏が、トー横に出入りしていた男に『タンクの中に入って薬剤をはがす仕事』をさせられていたようなんです。しかも、保護服などの十分な安全対策もないまま、若い従業員たちの監督までさせられていた。
彼氏はもともとホストをしていたんですが、その仕事に関わるようになってから周囲に『仕事がきつい』『死にたい』と話していたようです。そして、あきこと2人で飛び降りた。別々のトー横関係者2人から同じ話を聞いたので、間違いないと思います」
この"仕事をさせていた男"は、別の事件でトー横の少年を監禁したとして、すでに逮捕、起訴されている。
「ようやく、心の中で何かストンと落ちる感じがしました。変な大人さえいなければ、トー横キッズたちが死ぬことはないんです」
復元されたあきこさんのスマホには、亡くなる直前まで彼氏と見られる人物とやり取りしていた記録が残っていた
●また少女が転落死、それでも「何も変わらない」現場
トー横の周辺では、市販薬を大量に摂取する「オーバードーズ」や薬物の売買、性犯罪などのトラブルが絶えない。
10月13日の夕方には、トー横に出入りしていたとみられる女子中学生(14)がビルから転落し、死亡した。トー横キッズによると、この少女は当時、友人と一緒に飛び降りようとしていたという情報もある。
「友だちが亡くなっているのに、ここに来ている子どもたちは何も変わらない」
トー横周辺で警備にあたるスタッフからそんな話を聞いたという浩三さんは、「怖いですよね。この場所は本当にぶっとんでいます」とつぶやいた。
様々な事情や背景を抱えた人たちが集まる街、歌舞伎町(2025年10月23日、東京・歌舞伎町で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●「トー横をなくすのは難しい」第二の居場所を
トー横を取り巻く環境の深刻さは、「支援」と称して入り込む大人たちが相次いで摘発されていることにも表れている。
それでも浩三さんは前を向こうとしている。
「警察の取り締まりが厳しくなったことで、悪い大人たちが次々と捕まり、以前よりは平穏な状態になりました。今のトー横は"管理者不在の混沌"という感じですね」
今ではトー横キッズの中にも顔見知りができ、現地を訪れると声をかけてくれる子もいる。
「『もう嫌気がさしました』と言ってトー横を離れた子から『ありがとうございました』と連絡をもらったときは、うれしかったですね」
娘を亡くして以来、時間を見つけてはトー横を訪れているという浩三さん(2025年10月23日、東京・歌舞伎町で、弁護士ドットコムニュース撮影)
小さな出会いが、子どもたちの運命を大きく変えることもある。そんな瞬間を見てきたからこそ、娘と同じ最期を迎える子どもたちを一人でも減らしたいとの思いは強まる。
「本当はトー横という場所をなくしたい。でも現実的には難しいですよね。だからこそ、トー横に代わる"第二の居場所"をつくるのが目標です」