電車内で女性に痴漢したとして、東京都迷惑防止条例違反に問われた男性被告人に対して、東京地裁は11月19日、拘禁刑8カ月(求刑1年)の実刑判決を言い渡した。前科8犯の「常習痴漢」として裁かれた被告人の法廷での発言をたどる。(ライター・渋井哲也)
●「故意ではない」と主張したが・・・
起訴状などによると、被告人は今年8月中旬の朝、東武スカイツリーライン西新井駅〜北千住駅の電車内で、被害女性の後ろに立ち、着衣の上からお尻に自身の陰部を押し当てたとされる。
被告人質問で、被告人は「結果的に女性のお尻に自分の股間を押し当てたことは認める」としつつ、「故意ではない」と述べ、事実関係は争わなかったが、痴漢の意図は否定した。
しかし、東京地裁の小野裕信裁判官は有罪を言い渡した。
被告人はこれまでにも同様の条例違反や強制わいせつで有罪となり、服役経験もある。2022年には痴漢で懲役10カ月、執行猶予5年の判決を受けていた。
小野裁判官は「複数の同種犯罪を繰り返し、執行猶予中であり、前回の有罪判決から3年を経たずに本件犯行に及んでいる」と指摘。「『当初から痴漢を予定していたわけではない』という供述を踏まえても、非難の程度は変わらない」と断じた。
●被害女性「1分以内に背後から当たった」
公判では、検察官が被害女性の陳述書を朗読した。
「西新井駅から乗車して1分も経たないうちに背後から『モノ』が当たりました。はじめは気のせいかと思い、ドアのほうへ移動しましたが、それでも当たっていました。
それが3、4回続き、『痴漢だ』と思いました。離れようとすると、犯人が私の足の間に足を入れ、さらに強く押し当ててきました。視線を向けると、ようやくやめました」
女性はその日、引っ越し後初めて東武スカイツリーラインを利用したという。役所の転出・転入手続きを1日で済ませるため、朝7時40分台の電車に乗った。
通勤時間帯の上り線が混雑することは、被告人も認識していたようだ。
●「電車を避ける」と誓った過去…しかし通勤電車へ
前回の裁判で被告人は「(今後は)電車は避ける」と述べていた。それにもかかわらず、混雑する通勤電車に自ら乗り込んだ。早朝に電車に乗った理由を尋ねられると、次のように説明した。
「仕事を始めるために住所変更の手続きをしようと立川市役所へ行くつもりだった。前の仕事先に忘れ物を取りに行く必要もあった。また、その日のうちに埼玉県で転入手続きをするため、朝早く出かけた」
女性を避ける意識について問われると、事件当日は「普通に乗っただけ」と答えた。
●「結果的に押し当てた」曖昧な説明
なぜ、股間を押し当てたのか──。そう尋ねられると、被告人は「結果的にそうなってしまった」と回答。「最初から痴漢しようとして電車に乗ったのか」と問われると否定した。
混雑した車内で偶発的に接触することはあり得る。しかし、女性の足の間に自分の足を入れている点など、積極的な動作が認められる。
その理由を聞かれると、「記憶にないが、そうだったかもしれない」と曖昧な供述をした。腰を引かなかった理由については「下手に動くと(痴漢と)誤解されると思った」と不自然な弁解を述べた。
●犯行当日、性玩具を所持
さらに被告人は事件当日、性玩具の「ピンクローター」を携帯していた。これについては「前日、友人にもらったもので、そのまま持っていた」と説明。「使うつもりだったのでは」と問われると「違います。痴漢の意図はありません」と否定した。
検察側からは「股間が当たっていた認識は?」と問われると、「あります」と答えたが、「当たった状態で動かしたのか?」という質問には「故意はない」と述べた。
●治療に通う約束も守れず
被告人は常習的に痴漢を繰り返しており、前回裁判では治療の必要性について自身でも言及し、「病院に通う」とも話していた。しかし、判決後は一度も通院していなかった。
その理由を問われると、「服役中の家賃は借金になっている。そのため、(借金返済を優先して)通えなかった。借金がなくなれば通いたい」と述べた。
痴漢行為をしないため「電車を利用しないつもり」とも語ったが、実行できていない。「本気度」を聞かれると、「経済的な問題を無視すれば、一切、電車を使わないつもりです」と答えた。