4833.jpg
池袋母子死亡事故、能力低下の高齢ドライバーに「運転させない制度」づくりが急務
2019年04月29日 08時10分

東京・池袋で暴走した自動車にはねられ、母親と3歳の女の子が死亡した事故で、高齢ドライバーへの批判が高まっている。この事故で自動車を運転していたのは、87歳の男性だった。報道によると、男性は最近になって足を悪くして、歩く時はつえを使用していたという。

内閣府の「平成28年交通安全白書」によると、75歳以上のドライバーによる死亡事故は、75歳未満のドライバーと比較して、免許人口10万人あたりの件数が2倍以上になっている。その要因は、ハンドルなどの不適切な操作による事故が最も多く、次いで前方不注意や安全不確認となっている。

また、ハンドルなどの誤操作による事故のうち、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故は、75歳未満では死亡事故全体の0.7%に過ぎないのに対し、75歳以上では5.9%と高い割合となっている。

高齢化にともない、高齢者の運転免許保有者は増えるばかりだ。2016年末の運転免許保有者数は約8221万人で、前年同期に比べ約6万人が増加。75歳以上の免許保有者数は約513万人で、これは75歳以上人口の約3人に1人にあたる。

高齢ドライバーの特徴としては、「視力等が弱まり、周囲の情報を得にくくなり、判断に適切さを欠くようになる」「反射神経が鈍くなり、とっさの対応が遅れる」「運転が自分本位になる」などがあり、認知症の懸念も指摘されている。

一方で、免許証の返納はなかなか進まない。今後、高齢者による死亡事故を減らすためには、現行制度のままでよいのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

東京・池袋で暴走した自動車にはねられ、母親と3歳の女の子が死亡した事故で、高齢ドライバーへの批判が高まっている。この事故で自動車を運転していたのは、87歳の男性だった。報道によると、男性は最近になって足を悪くして、歩く時はつえを使用していたという。

内閣府の「平成28年交通安全白書」によると、75歳以上のドライバーによる死亡事故は、75歳未満のドライバーと比較して、免許人口10万人あたりの件数が2倍以上になっている。その要因は、ハンドルなどの不適切な操作による事故が最も多く、次いで前方不注意や安全不確認となっている。

また、ハンドルなどの誤操作による事故のうち、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故は、75歳未満では死亡事故全体の0.7%に過ぎないのに対し、75歳以上では5.9%と高い割合となっている。

高齢化にともない、高齢者の運転免許保有者は増えるばかりだ。2016年末の運転免許保有者数は約8221万人で、前年同期に比べ約6万人が増加。75歳以上の免許保有者数は約513万人で、これは75歳以上人口の約3人に1人にあたる。

高齢ドライバーの特徴としては、「視力等が弱まり、周囲の情報を得にくくなり、判断に適切さを欠くようになる」「反射神経が鈍くなり、とっさの対応が遅れる」「運転が自分本位になる」などがあり、認知症の懸念も指摘されている。

一方で、免許証の返納はなかなか進まない。今後、高齢者による死亡事故を減らすためには、現行制度のままでよいのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●「移動の自由」より、被害者の「生命・身体の自由」の保障

池袋の母子死亡事故をはじめ、高齢者ドライバーによる深刻な交通事故は後を絶ちません。高齢者にも憲法上、「移動の自由」が保障されていますが、被害者の「生命・身体の自由」の保障と衝突する場合、後者の保障をより重視すべきではないでしょうか。

今回のような悲惨な事故が起きれば、被害者の生命が絶たれ、取り返しのつかない被害が生じて遺族を苦しめるとともに、加害者となった高齢者も、刑事責任を問われ、社会的制裁を受け、深く傷付くことになります。 自動車には2年ごとに車検を通して安全性を確認することが義務付けられているわけですが、運転者には運転能力の検査が義務付けられていないのは、考えてみればおかしいことです。 現在の制度では、75歳以上の運転者は、免許更新の際に認知機能検査を受ける必要があり、認知機能検査を受けて「記憶力・判断力が低くなっています」という判定結果だった場合、さらに専門医の診断を受けるなどし、認知症と診断された場合に限って、免許の停止・取り消しの対象となります。

しかし、運転技能に関する実技検査は行われておらず、講習の際に60分の指導があるのみですから、仮に講習の際に運転技能上の問題が発見されても、更新自体は行われてしまいます。

●免許有効期間、「75歳以上は2年間、80歳以上は1年間に」

75歳以上の高齢者については、認知機能検査だけでなく、自動車運転に必要な「認知・判断・操作」それぞれの段階での能力(状況判断力やとっさの反応力、運転操作技能等)の検査を受けることを義務付け、一定の基準をクリアできなかった場合や検査を受けなかった場合には、免許の停止・取り消し事由とするといった、より踏み込んだ制度改正が必要ではないでしょうか。

また、現在、71歳以上の運転免許証の有効期間は3年間ですが、例えば75歳以上は2年間、80歳以上は1年間というように、状態の変化しやすい高齢者の特性に応じ、免許更新までの期間をより短くすることも検討すべきではないでしょうか。

運転能力が十分でないとされ、免許を取り上げられてしまう高齢者にとっては、特に地方では自動車がないと生活が大変不便だという問題も、もちろんあります。しかし、そうした問題には、危険な状態のままで無理に自動車を運転させるのではなく、乗合バスの料金優遇、介護タクシー利用チケットの配布、医療機関への送迎、生活用品の宅配サービスなど、自治体や民間事業者が協力して不便を減らしていく方向で対応すべきだと思います。

また、周囲の家族が見ていて高齢者の運転に危険を感じ、免許証の自主返納を促しても、高齢者自身が自分の運転技術に自信を持っているなどプライドが高く、なかなか周囲の意見を聞き入れないということもあるようです。

例えば、かかりつけ医や、介護保険の訪問調査員などが、家族の意見も参考にして、高齢者の認知・身体能力等に照らして自動車の運転に不安を感じた場合には、高齢者に対し免許の自主返納を勧告できる制度なども導入すべきではないでしょうか。高齢者も、医師や自治体職員などから客観的に指摘されると、聞き入れる可能性が高まるように思います。

●長年の経験と自信が「過信」に変わることが危険

高齢者は、長年事故を起こさずに運転してきたという経験に基づく自信があります。高齢になればなるほど自らの運転に自信を持っているという調査結果も出ています。しかし、人間の身体は、視力にしても認知能力にしても操作技能にしても、加齢とともに衰えていくもので、消耗品です。自信がいつの間にか過信に変わり、事故につながることが危険です。

定期的な検査の結果、客観的に運転能力が一定水準を下回ったと判断された高齢者には、車を運転させない制度作りが急務だと考えます。

同時に、自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時の加速抑制装置などの先進安全技術の発展・普及も推し進め、例えば60歳以上の方が自動車を購入する際には、そのような先進安全技術を登載した自動車の購入を強く推奨するといった取り組みも必要でしょう。

今回の池袋母子死亡事故のような悲惨な事故を社会全体で受け止め、高齢者による深刻な交通事故を減らすべく、積極的な取り組みを進めていくべきだと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る