刑務所を出た人らを受け入れる「更生保護施設」や「自立準備ホーム」で、国からの委託費が不足し、運営が危機に陥っている。
その原因となっている法務省の「予算不足」について、同省が全国の保護観察所などに出した具体的な指示内容がわかった。
法務省は、2025年度末に「2億6000万円以上の不足額が生じる見込み」と試算。全国平均で、施設が受け入れる対象者一人当たりの委託日数を「65・3日以内」に抑えるよう求めていた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●今年8月までの傾向続けば「年度末に2.6億円以上が不足」
弁護士ドットコムニュースは、「更生保護委託費の一層厳格な執行管理について(事務連絡)」と題された文書を入手した。
法務省保護局の総務課長と更生保護振興課長が10月9日付で、全国の保護観察所長と地方更生保護委員会委員長に宛てたものだ。
文書によると、今年8月末時点の速報値で、更生保護施設や自立準備ホームに委託した「実人員」は、昨年度の2057人から1852人へと約10%減少した(前年同月比)。一方で、対象者の「平均委託日数」は2日ほど増加し、「延人員」の減少はわずかに留まった(同じ月の比較で昨年度「21万9171人」から今年度「21万2997人」)。
法務省は、2025年度から委託費単価が引き上げられたことに触れて、「8月までの執行傾向が継続した場合には、本年度末時点で2億6000万円以上の不足額が生じる見込みとなっています」と説明。
また、更生保護施設の収容実績が減っている中で、予算上の委託実人員や委託日数と、収容実績との間に「著しい乖離がある」として、補正予算や他の予算の流用は見込めず、今後も当初の予算内で対応する必要性があると強調している。
そのうえで、10月以降は「一人当たりの平均委託日数を全国平均で65・3日以内にすることを目安にすること」を求めている。
●本人の食費負担、問題なければ「宿泊のみに切り替え」
更生保護施設や自立準備ホームの利用者には、帰る家や頼れる親族などがいない人が多いため、法務省は文書で「被保護者の状態にかかわらず委託期間や食事付宿泊期間を一律に設定しないこと」とも要求している。
本人に食費を負担させても自立退所に支障がないと認められる場合は「宿泊のみの委託に切り替えること」や、自立退所が可能と判断できる対象者については「必要に応じ、通所又は訪問による支援の実施を検討すること」などと指示している。
最後に、委託費の現状や今後の方針について、施設関係者などに対して丁寧に説明し、理解と協力を求めるよう促している。
●現場からは「治安が悪化するだけ」の声
こうした方針に対して、現場からは不安や怒りの声が相次いでいる。
「ただでさえ委託費は足りていないのに、今回の指示に施設側が耐えたれたら、来年度以降も予算をそのままにされるか、さらに減らされるのではないか」
「施設が受け入れる人は高齢者が多いので、委託日数が長くなることは避けがたい」
また、「防衛費は兆単位のお金を増やそうというのに、数億円の委託費は切り詰める。これでは犯罪が増え治安が悪化するだけではないか」と嘆く声もあった。
法務省は文書の中で、「今後の委託の適正化により、自立準備ホームへの委託延人員が20パーセント削減されることを見込んでいる」としているが、ある施設の関係者は危機感を隠さない。
「自立準備ホームは潰れてもいいと考えているのではないか」