受刑者や出所者を支援するNPO法人の理事長だった男性が、支援対象の女性に性的暴行をしたとして準強制性交等罪に問われた裁判で、東京地裁は8月29日、懲役8年(求刑・懲役9年)の判決を言い渡した。被告人は「同意があった」などとして無罪を主張していた。
●「ほぼ面識のない被告人を自ら性交に誘うのは想定しがたい」
NPO法人「マザーハウス」の理事長だった五十嵐弘志被告人(逮捕時59歳)は2023年5月、支援していた女性(当時25歳)に「悪霊がついているから清めなければいけない」などと告げて性的暴行を加えたとして逮捕され、準強制性交等罪で起訴された。
事件は、別の事件で執行猶予付きの有罪判決を受けた女性を、マザーハウスが支援する過程で起きたとされる。
伊藤ゆう子裁判長はこの日の判決で、検察官の取り調べに対して被害者の女性が供述した話の信用性を認めた。
その内容によると、女性は「除霊が必要」という言葉を信じ、五十嵐被告人がベビーオイルを使ってマッサージしてくるのに応じていた。
しかし、胸を直接舐められるなどの行為にエスカレートしていくのに驚き、「頼れるのは被告人しかいない」といった思いもあり、抵抗するのを断念し、性交に同意する旨の返事をしたという。
これに対して、被告人側は「女性からの誘いに応じて同意を得て性交した」と主張した。
裁判所は「(被告人は)女性が今後の生活の支援者であるNPO法人の理事長であり、年齢差も相当あり、ほぼ面識のない被告人を自ら性交に誘うのは想定しがたい」などとして、被告人の供述を退けた。
●「規範的意識が欠如していると言わざるを得ない」
五十嵐被告人は過去にも性犯罪で服役歴があり、直近の出所から10年以上経っているが、東京地裁は同種の前科3犯を有していることなどから「規範的意識が欠如していると言わざるを得ない」と非難した。
判決は、懲役8年としたうえで、未決勾留570日を刑期に算入した。
●東京地裁、判決要旨を配布せず
刑事裁判では、メディアが正確に報じるため、事前申請すれば判決要旨が配布されることがある。
弁護士ドットコムニュースは今回、東京地裁に提供を申請していたが、認められなかった。理由は明らかにされていない。