離婚するときは、NISA口座で増やしたお金も精算して分けないといけないのでしょうか?ーー。離婚協議中という相談者から、弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられました。
相談者は、10年ほど前から始めたNISA口座を運用していました。当初は数十万円程度だった評価額が、気がつくと数百万円にまで膨らんでいました。しかし、この投資については妻には一切話していませんでした。
ところが離婚協議の過程で、妻がこのNISA口座の存在を知ることになります。妻は「夫婦で築いた財産なのだから、当然財産分与の対象になる」と主張しています。実際のところ、妻が主張するように分ける必要があるのでしょうか。
●株式の価値の評価は、原則として裁判が終わった時点が基準
まず、NISA口座で運用されている株式が財産分与の対象となるかですが、民法第768条の財産分与は「当事者双方がその協力によって得た財産」を分与するものです。
夫婦の一方の名義であっても、婚姻中に夫婦の協力によって取得された財産は実質的共有財産として分与対象に含まれます。
妻に内緒で投資していたとしても、投資資金が婚姻中の収入から拠出されていれば、その収入は夫婦の協力によって得られたものですから、NISA口座の株式も原則として財産分与の対象となります。
株式の評価時点については、話し合いで決まればその時点で良いのですが、決まらなかった場合は、裁判が終わった時点(調停の成立した時など)を基準とするのが一般的です。これは、財産の評価は実際に財産分与が行われる時点で行う方が公平であると考えられているためです。
●別居が続いたあと離婚した場合はどうなる?
別居していた期間が長期化し、その後離婚した場合には、また違った問題が生じます。
別居した場合、その後は夫婦で共同して財産を形成していないことになるため、「別居時」を基準として財産分与を検討するのが一般的です。
そのため、特に別居期間が長期にわたり、たとえば株価が大幅に上昇した場合には、別居時を基準とすると公平を欠くことがあります。
このような場合、裁判所は別居時と裁判が終わった時点の両時点の平均値を用いるなど、公平性を確保するための調整を行うことがあります。法律上は、裁判所が「一切の事情を考慮」して分与額を決定することができるため、個別の事案に応じた柔軟な対応が可能とされています。
なお、別居後に一方当事者が意図的に財産を減少させるなどした場合は、その減少について責任のない他方当事者に不利益とならないよう配慮がなされます。
●このような場合に考えられる対応策
このような株式の評価時点を巡る争いが生じた場合の対応策としては、以下のようなものが考えられます。
まず、当事者間での話し合いによる解決を図ることが考えられます。別居時と現在の評価額の中間値を採用したり、評価基準日を双方が納得できる時点に設定したりする方法があります。
話し合いでの解決が困難な場合は、家庭裁判所での調停を申し立てるのが一般的です。 調停では、調停委員が中立的な立場から解決案を提示してくれるため、感情的な対立を避けながら合理的な解決を図ることができます。
また、株式の評価について争いがある場合(上場していない場合など)は、専門家である弁護士などに相談することで、より適切な解決策を見つけることが必要になることがあります。