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役所が生活困窮者を排除、「自己責任論」で肯定していいのか 新たな「共助」の必要性
2019年10月31日 09時15分

台風19号による広域的な被害が発生した10月12日、東京都台東区の避難所でホームレスの人たちの利用を拒否する事態が生じた。だが、生活困窮者の支援者によれば、彼らが受ける排除の一つに過ぎないという。反貧困ネットワーク埼玉や全国青年司法書士協議会で支援活動を行ってきた広瀬隆(ひろせ・たかし)さんに、生活困窮者を取り巻く環境を聞いた。(ライター・浅野勇貴)

台風19号による広域的な被害が発生した10月12日、東京都台東区の避難所でホームレスの人たちの利用を拒否する事態が生じた。だが、生活困窮者の支援者によれば、彼らが受ける排除の一つに過ぎないという。反貧困ネットワーク埼玉や全国青年司法書士協議会で支援活動を行ってきた広瀬隆(ひろせ・たかし)さんに、生活困窮者を取り巻く環境を聞いた。(ライター・浅野勇貴)

●あと1日発見が遅れていれば、死んでいた

――ホームレスの人たちは助けてもらえないのでしょうか。

避難所における拒否はあってはなりません。行政は民間が達成できない「公」を担うからこそ、生活困窮者にとって一番頼れる相手であるはずです。そこで排除されては、行くところが無くなってしまいます。

また、路上生活者が危機に直面しているのは災害時だけではありません。彼らは常に住まい(ホーム)がない(レス)状態で、人知れず熱さ寒さに苦しんでいます。あの日はその象徴的な日であったに過ぎず、毎日災害に遭っているようなものです。

鮮明に覚えているのが、埼玉県内の公園で具合の悪い年配の路上生活者の方と出会ったケースです。医者に見せたら「あと1日遅れたら死んでいたよ」と。その後、生活保護申請の支援をして、その方は住居を確保することができました。

ところが、生活保護申請はスムーズにいかないことが多くあります。生活保護の申請方法自体は難しくありませんが、役所は申請させないよう説得を試みることもあり、支援者が付き添って本人を手助けしなければならないことがあります。

別の路上生活者の方のケースです。その方は路上生活に耐えかねて、きょうだいの単身用アパートに避難しました。その翌日に生活保護の申請をしたら、「あなたはきょうだいの支援を受けて暮らしているじゃないですか」と拒まれてしまいました。申請の支援をしていた私が半日かけて説得し、受け付けてもらえました。

また、生活保護を利用すれば終わりではありません。単身用アパートに入居したことにより、かえって孤立することもあります。「アパートに入居したら本当のホームレスになった」とこぼす元路上生活者の方もいました。最低限の生活を確保できても、関係性の貧困は残ったままなのです。

●不十分な公助を支援団体が穴埋めしている

――生活困窮者を助けるべきなのは誰ですか?

助けると言っても、自助・共助・公助があります。共助は地域コミュニティの崩壊が進んでいますので、機能不全に陥っている場合も多いです。

自助ですが、自分で自分を助けられない人が増えています。失業率が高くなくても、有職者に占める非正規雇用の割合が高いのが現状です。危機に備える蓄えがありません。残りは公助しかありません。

ただ、公助を求めても、役所が財源不足や人材不足の問題を抱えていることや、自己責任論によって役所の排除を社会が許容する嫌いがあります。特に、自己責任論はやっかいです。困窮に陥った契機は、親の貧困であり、高齢や障害であり、ひとり親家庭になったことであることが多いのです。貧困は構造的な問題であり、自己責任論だけで説明するのは無理があります。

不十分な公助を支援団体が穴埋めしています。それぞれの得意を生かした支援を行い、その存在意義は十分すぎるほどありますが、「民間人が出てくる前に役所がやるべき」と感じます。「公」は市民の生命・身体・財産を守るために、税金を徴収しているのですから。

●京アニ事件、じくじたる思い

――支援団体の穴埋めで足りますか?

私は司法書士の資格を持っていますが、司法書士単独では貧困問題に抜本的に対処することがなかなか難しいと感じます。だからこそ、支援団体には様々な得意分野を持つ人が集まっていますし、一つ一つのケースに知恵を出し合っています。しかし、社会に存在する生活困窮者の全てに対応することは不可能です。

――支援団体だけでは足りないということですか?

災害時は危機を共有しやすいのですが、隣人が生活困窮者かもしれないという危機は、見えづらさゆえに共有されにくいのです。「隣人への共感」を失っています。ただ決して、隣人と監視しあうようなムラ社会は望んでいません。目指したいのは、異質な人も排除されない社会です。具体的な答えが出せなくて理想論かもしれませんが、構想しなければ実現しません。

人が生活困窮の問題を抱え、そのやり場のない気持ちが自分に向かう者と、他人に向かう者がいます。私がショックだったのは、京都アニメーション放火事件です。彼の自宅は私の事務所と同じ自治体にありますが,このような事件が発生する前に何か適切な支援に繋げることができなかったのか、じくじたる思いがします。

その個人を非難することは容易いですが、そこで終わらず、社会のあり方として間違っているところがないか考えたいですね。

【ライタープロフィール】 浅野 勇貴(あさの・ゆうき) 民放テレビ局勤務を経て、「福祉と法」や「家族と法」に関する講演活動や教育ビデオ制作の活動を行う。

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