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「年末調整は税への関心を失わせる愚民化政策」民間税調の青山学院大学長、税制を斬る
2018年02月03日 08時58分

政府が2018年度税制改正の大綱をまとめたのを受け、弁護士や大学教授らでつくる民間税制調査会は2018年1月15日、政府大綱に対する見解をまとめ、発表した。この中で高所得のサラリーマンに対する増税は明確な根拠を欠き、新たに導入される「国際観光旅客税」と「森林環境税」について無駄遣いに終わる懸念を表明している。

弁護士ドットコムニュース編集部は1月31日、民間税調で共同代表を務める三木義一・青山学院大学長にインタビューを実施した。三木氏は税法に詳しい弁護士でもある。主なやり取りは以下のとおり。

政府が2018年度税制改正の大綱をまとめたのを受け、弁護士や大学教授らでつくる民間税制調査会は2018年1月15日、政府大綱に対する見解をまとめ、発表した。この中で高所得のサラリーマンに対する増税は明確な根拠を欠き、新たに導入される「国際観光旅客税」と「森林環境税」について無駄遣いに終わる懸念を表明している。

弁護士ドットコムニュース編集部は1月31日、民間税調で共同代表を務める三木義一・青山学院大学長にインタビューを実施した。三木氏は税法に詳しい弁護士でもある。主なやり取りは以下のとおり。

●税への乏しい関心、全員が確定申告するしかない

ーー税そのものについて民間税調としてまず強調したい点は何ですか

「まず政府が信頼されていれば、もっと国民の税に対する意識は高まる。そして国民の方としても、憲法が『国民主権』を定めているのだから、主権者として『我々が税制を決めていくんだ』という気概がほしい」

ーー現状、税について国民は積極的に関心をもっているのでしょうか

「残念ながら、そういう状況にはない。確かに、消費税の引き上げ議論については国民の反発は大きい。でもそれは毎回の買い物で負担が実感できるから。世間の多くはサラリーマンで源泉徴収と年末調整により、税金を納めたり還付されたりしている。このため、日々の消費税の負担よりはるかに大きな額の税金を払っていても、なぜか自覚できない。税を決めるのは、いまだに『お上』だと思っている人も少なくない」

ーーどうしたらより多くの国民が税金に関心をもつのでしょうか

「年末調整をやめて、全員が確定申告するようにすることからスタートするしかないかな。サラリーマンも給与所得控除を思い切ってやめて、仕事上必要なものは広く経費として確定申告できるようにすれば、税負担の意味や重さを自分のこととして考えるようになると思う。年末調整によって税への関心を結果的に失わせてしまっているのは、一種の愚民化政策とも言える」

●国際観光旅客税と森林環境税は無駄遣いの懸念大

ーーそれでは、今回の政府税制改正大綱はどう受けとめていますか

「中途半端な増税をやって、大きな議論を避けている印象。財政が逼迫していて高所得者にある程度の負担増を求めるのは理解できるが、利子や配当収入が大きい一部の富裕層に対する課税について強化する議論がなかったのは残念だ。

そして源泉徴収に慣れたために税金について考えがあまり及ばないサラリーマンが増税される。年収850万円超の所得がある会社員は増税となるが、この数字を決める過程で明確な根拠もなく、バナナのたたき売りのように決まった。公平・公正な課税を目指す観点からどのように見直していくべきかという基本的な戦略を欠いたものと言える」

ーー今回、国際観光旅客税と森林環境税が盛り込まれました

「久しぶりに導入されるこの二つの新税はともに無駄遣いに終わる可能性が高い。まず、国際観光旅客税は、いわゆる『出国税』のことで、日本を出る際に一律1000円を徴収するが、日本国内の観光産業振興のために使うというのはおかしい。

国境を超えてまた戻るかどうか分からない外国人からも徴収するのであれば、支出先はODAなど国際連携向けとするのが筋ではないか。そもそも外国人旅行客はそれぞれの行き先でサービスに対価を払い、その際に税負担をしている。ここに上乗せして税金を徴収する根拠は薄い」

ーー森林環境税についてはいかがですか

「既に長野県などいくつもの自治体で法定外税として類似の税金が導入されている。環境保全という誰もが反対しにくい建前で必要ない税が徴収され続けていくリスクが高い」

●軽減税率についてのコメント、新聞にばっさり削られる

ーー税制で今後の大きな節目となるのは10%への消費税の増税でしょうか

「まずこれまで2度も延期され、今回3度目の延期がされる可能性は払拭できない。また、10%への引き上げと同時に導入される軽減税率については問題が極めて大きく、導入そのものに反対だ」

ーーなぜでしょうか

「軽減税率を適用するものを細かく決めるにあたって、政府への陳情合戦になってしまう。軽減税率の適用をエサに、票をもらうという構図だ。そして税務調査も大変な労力がかかり非効率だ。

そして、例えば軽減税率の適用が見込まれる食品でみれば、低所得者よりも高所得者の方が多く購入し、それによる軽減額は高所得者の方が多くなり、逆進性解消にはほとんど効果がないからだ」

ーー低所得者のためになっていないということですか

「本当に低所得者のためを思うなら、給付付き税額控除の導入を検討するべきだ。その方が陳情合戦も起きず、労力も格段に低い」(給付付き税額控除とは、税金から一定額を控除する減税。控除額の方が大きい場合にその分を現金で給付する。例えば納税額が20万円で給付付き税額控除が25万円の場合、差額の5万円が現金でもらえる)

ーーメディアも軽減税率には賛成の声ばかりですね

「新聞が軽減税率の対象になるよう報道し、軽減税率の批判をしなかった。メディアの論調は様々だけど、この点についてはほとんど一致しているように感じる。また、よくメディアから税制に関するコメントを求められるが、軽減税率についてのコメントはばっさり削られる(苦笑)。メディアがそういうことをしてはいけないと思うのだけどね」

【プロフィール】三木義一(みき・よしかず)青山学院大学長、弁護士、専門は税法等。

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

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