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乙武さんの「銀座の屈辱」で議論沸騰 「車いす」を理由に入店拒否できるか?
2013年05月20日 18時50分

『五体不満足』などの著作で知られる作家の乙武洋匡さんが、東京・銀座の飲食店に予約して出向いたところ、車いすでの入店を断られたことをツイッターで明かし、議論を呼んでいる。

乙武さんのツイートによれば、予約していたイタリア料理店に「車いすだからと入店拒否された」とのこと。エレベーターが止まらない階に店舗があるため、店員に下まで降りてきて抱えてもらえないかと頼んだが、断られてしまったそうだ。ツイッターで61万人のフォロワーをもつ乙武さんが、この出来事について「銀座での屈辱」とツイートすると、ネットユーザーが店を一斉に批判。店主がツイッターで謝罪する事態となった。

店主はツイッターやホームページで、当日の状況や店の形状など、対応できなかった事情を釈明するとともに、今後は「車椅子の方は事前にご連絡ください」という但し書きを、店の情報を告知している各媒体に掲載する方針を明らかにした。一方で、ツイッターで店の名前を出して批判した乙武さんに対して、「弱者を気取った強者による横暴だ」と非難する声もあがっている。

たしかに、公共空間の一つである飲食店には、障害者を含めたすべての人が過ごしやすい環境が求められているといえるだろう。だが、すぐには対応できない事情がある店舗もあるはずだ。では、今回のケースのように、車いすでの入店を断ることは、なんらかの権利侵害にあたるのだろうか。また、「車いすの客はお断り」などの掲示をしておけば、入店を拒否できるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●障害者基本法は「障害を理由とした差別」を禁じている

「憲法14条は、法の下の平等をうたっており、障害者基本法4条は、『何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない』と規定しています」

秋山弁護士はまず、憲法と障害者基本法に言及して、障害者に対する差別が禁じられていることを示す。では、障害者を不当に扱うと、ただちに違法になってしまうのだろうか。

「憲法14条は、今回のような民間の問題に直接適用されるものではなく、障害者基本法4条も、多分に理念的な規定ではあります。ただ、これらの規定の趣旨に照らし、民間の問題であっても、障害を有することを理由とした不合理な差別を行えば、人格権を侵害する不法行為(民法709条)として、損害賠償義務を生じさせることがあり得ます」

「障害を有することを理由とした不合理な差別」とは、具体的にどんな場合が考えられるだろうか。

「たとえば、店内のスペースの広さなどから、物理的には車いすの客でも十分に利用可能であるにもかかわらず、『車いすの客はお断り』といった掲示を出して、車いすであることを理由に一律に入店を拒否するようなケースが考えられます。そのような場合には不法行為として、損害賠償を請求される可能性があるといえるでしょう」

●店側の言い分にはそれなりの「合理性」がある

では、今回の乙武さんの「入店拒否」は、そのような「不合理な差別」にあたるのだろうか。

「今回のケースでは、店側は障害者であることを理由に一律に入店拒否をしているわけではなく、事前に車椅子であることを連絡してもらえれば対応するが、事前に連絡してもらえないと物理的に対応が困難である、と言っているようです。そうすると、店側の言い分にはそれなりの合理性があるものといえ、障害を有することを理由とした不合理な差別とまでは言いにくいように思います」

このように秋山弁護士は分析している。また、乙武さんの主張についても、次のように冷静な見方を示している。

「乙武氏も、店の対応が違法と言っているわけではなく、店側の接客業としての対応や言い方を主に問題にしているように見受けられます」

ネットユーザーを紛糾させた今回の事件だが、障害者に対するサービスはどのようにあるべきかを、改めて考える機会としたいものである。

(弁護士ドットコムニュース)

『五体不満足』などの著作で知られる作家の乙武洋匡さんが、東京・銀座の飲食店に予約して出向いたところ、車いすでの入店を断られたことをツイッターで明かし、議論を呼んでいる。

乙武さんのツイートによれば、予約していたイタリア料理店に「車いすだからと入店拒否された」とのこと。エレベーターが止まらない階に店舗があるため、店員に下まで降りてきて抱えてもらえないかと頼んだが、断られてしまったそうだ。ツイッターで61万人のフォロワーをもつ乙武さんが、この出来事について「銀座での屈辱」とツイートすると、ネットユーザーが店を一斉に批判。店主がツイッターで謝罪する事態となった。

店主はツイッターやホームページで、当日の状況や店の形状など、対応できなかった事情を釈明するとともに、今後は「車椅子の方は事前にご連絡ください」という但し書きを、店の情報を告知している各媒体に掲載する方針を明らかにした。一方で、ツイッターで店の名前を出して批判した乙武さんに対して、「弱者を気取った強者による横暴だ」と非難する声もあがっている。

たしかに、公共空間の一つである飲食店には、障害者を含めたすべての人が過ごしやすい環境が求められているといえるだろう。だが、すぐには対応できない事情がある店舗もあるはずだ。では、今回のケースのように、車いすでの入店を断ることは、なんらかの権利侵害にあたるのだろうか。また、「車いすの客はお断り」などの掲示をしておけば、入店を拒否できるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。

●障害者基本法は「障害を理由とした差別」を禁じている

「憲法14条は、法の下の平等をうたっており、障害者基本法4条は、『何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない』と規定しています」

秋山弁護士はまず、憲法と障害者基本法に言及して、障害者に対する差別が禁じられていることを示す。では、障害者を不当に扱うと、ただちに違法になってしまうのだろうか。

「憲法14条は、今回のような民間の問題に直接適用されるものではなく、障害者基本法4条も、多分に理念的な規定ではあります。ただ、これらの規定の趣旨に照らし、民間の問題であっても、障害を有することを理由とした不合理な差別を行えば、人格権を侵害する不法行為(民法709条)として、損害賠償義務を生じさせることがあり得ます」

「障害を有することを理由とした不合理な差別」とは、具体的にどんな場合が考えられるだろうか。

「たとえば、店内のスペースの広さなどから、物理的には車いすの客でも十分に利用可能であるにもかかわらず、『車いすの客はお断り』といった掲示を出して、車いすであることを理由に一律に入店を拒否するようなケースが考えられます。そのような場合には不法行為として、損害賠償を請求される可能性があるといえるでしょう」

●店側の言い分にはそれなりの「合理性」がある

では、今回の乙武さんの「入店拒否」は、そのような「不合理な差別」にあたるのだろうか。

「今回のケースでは、店側は障害者であることを理由に一律に入店拒否をしているわけではなく、事前に車椅子であることを連絡してもらえれば対応するが、事前に連絡してもらえないと物理的に対応が困難である、と言っているようです。そうすると、店側の言い分にはそれなりの合理性があるものといえ、障害を有することを理由とした不合理な差別とまでは言いにくいように思います」

このように秋山弁護士は分析している。また、乙武さんの主張についても、次のように冷静な見方を示している。

「乙武氏も、店の対応が違法と言っているわけではなく、店側の接客業としての対応や言い方を主に問題にしているように見受けられます」

ネットユーザーを紛糾させた今回の事件だが、障害者に対するサービスはどのようにあるべきかを、改めて考える機会としたいものである。

(弁護士ドットコムニュース)

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