6007.jpg
遊園地の記念写真サービス 「見本」をスマホで撮影したら万引き?
2013年08月19日 17時56分

「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」。遊園地で働いているという人物が、ネット掲示板「はてな匿名ダイアリー」に寄せた投稿が議論を呼んでいる。

遊園地でジェットコースターなどのアトラクションに乗ると、急降下の絶叫ポイントなどで乗客の写真を撮影し、乗客が望めば有料でプリントアウトしてくれるサービスがある。なかには、販売ブースにディスプレイを設置し、そこに「撮影した写真」を見本として展示しているところもある。

ところが一部の客が、そのディスプレイをスマートフォンなどで勝手に撮影し、お金も払わずに去っていくのだという。こうした客に対して、この投稿者は「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」「売り物の見本だから展示してるのに、そんな事もわからないんですか?」と激怒している。

確かにそれでは商売あがったりだろうが……。これは「万引き」と言えるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。

●刑法の「窃盗罪」に当たるかどうかが問題

「万引きは、刑法でいう窃盗罪です。つまり今回の論点は、ディスプレイに表示された見本を写真に撮ることが、刑法の窃盗罪(刑法235条)に当たるかどうかですね。

窃盗罪の定義は『他人の財物を窃取』することです」

――他人の物を盗ると、窃盗罪だということ?

「そうですね。もともと、この窃盗罪の対象として想定されていたのは『有体物』だけでした」

――有体物だけ? 形のないものを盗っても、窃盗にはならないということ?

「そうです。だから、かつては『電気』など有体物ではない財産について、窃盗罪の対象になるのかが、裁判で争われていた時代もありました。

この電気窃盗の問題は、明治40年の現行刑法制定時に、刑法245条で『電気を財物とみなす』という規定を置くことで、立法的に解決が図られました。

つまり、電気だけ特別扱いで、窃盗罪の対象にするということです。そのほかの『有体物でないもの』は、相変わらず窃盗罪の対象ではありません」

――ということは、今回のケースに当てはめると?

「それが『有体物を盗む行為』ではない以上、他人が撮影した写真を無断で撮影しても、刑法上の窃盗罪には該当しないものと考えられます」

――それでは、「万引きだ」という指摘は、的外れだったということ?

「そうですね。少なくとも『万引き』ではありません。しかし、決して合法だとは言い切れません。注意が必要です」

――違法になる場合もある?

「そういうことです。たとえば、遊園地側が写真撮影を禁止することを明示しているにも関わらず、隠し撮りすれば、民事上の不法行為責任を問われるかもしれません。

また、もしその見本が『著作物』とみなされるようなものであれば、著作権法違反になる可能性もあります」

なるほど、撮影が問題とされる可能性は、否定できないということだ。それにしても、誰もが携帯やスマホを持ち歩き、ひっきりなしに記念撮影をするこのご時世。遊園地というハレの場所で、(間接的なものとはいえ)自分自身の姿を撮影してはならないというのは、かなり無理がある気がするが……。

(弁護士ドットコムニュース)

「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」。遊園地で働いているという人物が、ネット掲示板「はてな匿名ダイアリー」に寄せた投稿が議論を呼んでいる。

遊園地でジェットコースターなどのアトラクションに乗ると、急降下の絶叫ポイントなどで乗客の写真を撮影し、乗客が望めば有料でプリントアウトしてくれるサービスがある。なかには、販売ブースにディスプレイを設置し、そこに「撮影した写真」を見本として展示しているところもある。

ところが一部の客が、そのディスプレイをスマートフォンなどで勝手に撮影し、お金も払わずに去っていくのだという。こうした客に対して、この投稿者は「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」「売り物の見本だから展示してるのに、そんな事もわからないんですか?」と激怒している。

確かにそれでは商売あがったりだろうが……。これは「万引き」と言えるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。

●刑法の「窃盗罪」に当たるかどうかが問題

「万引きは、刑法でいう窃盗罪です。つまり今回の論点は、ディスプレイに表示された見本を写真に撮ることが、刑法の窃盗罪(刑法235条)に当たるかどうかですね。

窃盗罪の定義は『他人の財物を窃取』することです」

――他人の物を盗ると、窃盗罪だということ?

「そうですね。もともと、この窃盗罪の対象として想定されていたのは『有体物』だけでした」

――有体物だけ? 形のないものを盗っても、窃盗にはならないということ?

「そうです。だから、かつては『電気』など有体物ではない財産について、窃盗罪の対象になるのかが、裁判で争われていた時代もありました。

この電気窃盗の問題は、明治40年の現行刑法制定時に、刑法245条で『電気を財物とみなす』という規定を置くことで、立法的に解決が図られました。

つまり、電気だけ特別扱いで、窃盗罪の対象にするということです。そのほかの『有体物でないもの』は、相変わらず窃盗罪の対象ではありません」

――ということは、今回のケースに当てはめると?

「それが『有体物を盗む行為』ではない以上、他人が撮影した写真を無断で撮影しても、刑法上の窃盗罪には該当しないものと考えられます」

――それでは、「万引きだ」という指摘は、的外れだったということ?

「そうですね。少なくとも『万引き』ではありません。しかし、決して合法だとは言い切れません。注意が必要です」

――違法になる場合もある?

「そういうことです。たとえば、遊園地側が写真撮影を禁止することを明示しているにも関わらず、隠し撮りすれば、民事上の不法行為責任を問われるかもしれません。

また、もしその見本が『著作物』とみなされるようなものであれば、著作権法違反になる可能性もあります」

なるほど、撮影が問題とされる可能性は、否定できないということだ。それにしても、誰もが携帯やスマホを持ち歩き、ひっきりなしに記念撮影をするこのご時世。遊園地というハレの場所で、(間接的なものとはいえ)自分自身の姿を撮影してはならないというのは、かなり無理がある気がするが……。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る