マッチングアプリで出会った女性5人から現金計183万円を騙し取ったとして、詐欺罪に問われた20代の男性被告人に対して、大阪地裁は懲役3年(求刑:懲役4年)の実刑判決を下した。
明治安田生命のアンケート(2024年)によると、直近1年間で結婚した夫婦の出会いのきっかけでは、マッチングアプリが1位となるなど、その身近さや信頼性は高まっているが、一方で悪用した事件も増えている。(裁判ライター・普通)
●「職業:経営者」「年収:2000万円以上」などと記載していた
被告人は、ややふくよかな体格。身柄拘束を受けていることもあるだろうが、髪の色はまばらで、やや乱雑としており、身なりにあまり整った印象を抱かず、事件内容とのギャップに驚いた。
起訴状によると、被告人はマッチングアプリで自身を経営者と偽り、交際関係になれば資金援助すると約束して、その信用保証の名目として現金を騙し取った疑い。
同じような手口で、被害に遭った女性は5人。断続的ではあるが約2年に渡って犯行がおこなわれた。
検察官側の証拠によると、被告人は高校中退のあと、職業を転々として、事件当時はバーテンダーとして働いていた。複数のマッチングアプリを使い、プロフィール欄に「職業:経営者」「年収:2000万円以上」などと記載して女性との出会いを求めた。
50万円を騙し取られた被害者の女性(25歳)によると、出会った日に「交際したら対価として毎月100万円を払う」と提示されたという。
しかし、「前に会った女性に、すぐ逃げられたので、保証金を預けてほしい」と70万円を求められた。すぐに用意できないと伝えると、消費者金融へ行くように促され、コンビニATMで融資手続きをさせられた。
1社からすぐ50万円の融資があると、「そういえば、100万円を援助する人は、保証金も100万円なんだった」などと言われ、再度、融資手続きを進めたが、2件目で引き出すことができず、50万円だけ被告人に手渡したという。
後日、連絡が取れなくなったことで、騙されたことに気付いたが、同じアプリで、自身を騙した男と同様のプロフィールを掲載している別のアカウントを見つけた。
パパ活を持ち掛けられたため、連絡を重ねて、約束した場所に被告人が現れた。返金を求めると、逃走したため警察に通報。この女性は「お金を返してくれれば、刑罰まで求めなかった」と供述している。
●名前の知らない男に「山に埋める」と脅された
弁護人からの被告人質問では、5件の起訴事実を改めて認め、パパ活詐欺を始める経緯が確認された。
事件以前、働いていたバーで女性従業員と交際するも、その後に破局。女性は店を退職することになるが、その女性への紹介料が得られなくなるとして、因縁をつけてきた男性がいたという。
弁護人「因縁をつけられ、身の危険を感じたのですか」
被告人「数人に囲まれて、『責任をとれないなら山に埋める』と脅されて」
弁護人「それに対してあなたは」
被告人「金を払うので許してほしい、と言いました」
それで300万円の借金を背負うことになったというのだ。詐欺行為同様、あまりに唐突な話の展開と思わなくもないが、身分証の写真や実家の住所を知られたことで報復を恐れたと語る。
現金のあてがなかったところ、通り名は知っているが、本名を知らないその男性から犯行手口を伝授されて、今回の事件で詐取した金銭はほとんど男性に渡したという。取調べにおいては、起訴された5件のほかに、余罪の1件も自ら述べた。
その後、勤務先の上司が残りの金額を工面してくれたことで、男性との因縁は解消できたという。社会復帰したら、親戚に借金してでも被害者に弁償する意向を示し、大阪を離れて新たに弟と生活を始める意向を明らかにした。
弁護人「もう少し早く相談したりして、犯行を止められなかったんですか」
被告人「実家の住所も知られていて厳しかったです」
弁護人「今はその考えはどうなりましたか」
被告人「留置所に友人が来てくれて『何で相談してくれなかった』と言われ、抱えこまないようしようと考えるようになりました」
●「警察に正直に相談しても聞いてくれないと思って」
検察官からは、計画的な犯行であることを示すための質問があった。
被告人は、男性の指示で複数のアカウントを作成したという。
なりすまし防止のため、身分証明や電話番号の登録が必要なサイトの場合は、事情を伝えず、知人のものを勝手に使って登録した。使用した個人情報の中には、今後一緒に住む予定の弟のものもあった。
検察官「警察に相談していないのはなぜですか」
被告人「正直に話しても聞いてくれないと思って」
検察官「どうしてそう思うのですか」
被告人「(余罪の件で)逮捕されたとき、すべて疑ってかかられ、侮辱してきたりもして、警察に対する信用のなさからです」
検察官「しかしその結果として、詐欺行為を行い、逮捕されたわけですが」
被告人「噂で男性の周囲に半グレがいると聞いていて、実家に迷惑をかけられないと思い」
そのための警察であると検察官がいくら説いても、最終的に被告人には届かなかった。
最後に裁判官からは被害弁償の状況を確認された。借金は上司に肩代わりしてもらったが、被害者への被害弁償の肩代わりまでは考えられなかったという。
裁判官「財産犯なので被害弁償が重要となるが、どうしても無理なのでしょうか」
被告人「保釈もできず、裁判まで期間も短くてできませんでした」
起訴されてから、この日の期日まで、すでに半年近くが経過していた。
●「被害弁償が一切おこなわれていない」
検察官は論告において、身分を偽り、不特定の女性を食い物にする行為は卑劣であると厳しく非難した。発覚を免れるために、他人の携帯番号を用いるなど、計画性も悪質であるとして、懲役4年を求刑した。
弁護人は、脅されての犯行であり、動機に酌量の余地があると主張。また被害弁償を目的とした保釈の申請が認められず長期の身体拘束となっている点、実刑では弁償がさらに遅れる点、受刑者同士の親交を深めて別の犯罪につながる可能性などから執行猶予を求めた。
判決は懲役3年の実刑判決となった。巧妙な手口で、被害者の数も多く、被害金額合計も多額に渡っており、被害弁償が一切おこなわれていないことなどから、裁判所は実刑は免れないと判決の理由を説示した。