6375.jpg
LINEが始めた「要約ニュース」 著作権や報道責任の問題はどうなってる?
2013年08月02日 16時25分

驚異的な成長を遂げるソーシャルメディア「LINE」がニュース事業に参入した。7月18日にスマートフォン専用のニュースアプリ「LINEニュース」をリリースしたのだ。最大の特徴は、マスコミが報じたニュース記事を独自に「要約」して、短いまとめ記事としていることだ。利用者にはありがたいサービスといえそうだが、ネットでは疑問の声もあがっている。

まとめると、疑問は大きく2つに分けられる。1つ目は「権利」の問題。元のニュース記事は各社が労力をかけて作成したものだ。それを引用・要約(改変)し、元記事にはないイメージ写真をつけるのは、著作権的に問題ないのだろうか。

2つ目は「責任」の問題だ。LINEニュースでは編集部スタッフが記事の要約に当たっているが、人の手が加わる以上、ミスが起こり得る。その要約に誤りがあった場合、誰が責任を取るのだろうか。また、編集ミスにより、引用元であるマスコミのイメージが損なわれた場合、マスコミ側がLINEに損害賠償を求めることはできるのだろうか。

これらの疑問について、著作権問題にくわしく、著作権をテーマにしたブログを運営している柿沼太一弁護士に聞いた。

●要約が「単なる事実」のまとめなら、著作権法上は問題ない

「まず、元となるニュース記事については、作成した各社に著作権があります。記事をそのまま引用することは記事の『複製』(著作権法21条)に該当します。また、要約することは通常『翻案』(著作権法27条)に該当します。複製や翻案をする権利は著作者が持っていますから、原則として複製・翻案をしたいなら著作者である報道各社から許諾を受ける必要があります。

LINEニュースが各社から許諾を受けているのかどうかははっきりしませんが、仮に受けているのであれば、著作権法上は当然問題ありません」

――では、許諾を受けていなかったとしたら?

「許諾なく、記事を複製するのはダメです。しかし要約の場合、必ずしもすべてが著作権侵害になるとは限りません。著作権侵害がなければ、許諾も不要です」

――要約が著作権を侵害しないケースとは?

「『要約』といっても、それが『単なる事実』であれば、著作物性はないとされています。したがって、元記事から創作性が認められる表現部分を削ぎ落として、事実部分だけを抽出して利用した場合には、著作権侵害にはならないと考えられます。

実際にLINEニュースがどんな要約をしているのか、実例を見てみましょう。たとえば8月1日に掲載されたものでは、福島第1原発の敷地内にある観測用井戸の水位が上昇していることを報じる記事について、《福島第1原発の観測用井戸の水位が上昇している問題で、東電は31日、工事中の『土の壁』を超え、汚染水が海に漏れる可能性を明かしました》と要約しています。

この要約部分は『単なる事実』のみを伝えていると言えます。このように、LINEニュースの場合、要約の内容が『単なる事実』となるように工夫されているように見受けられます」

――LINE側で付けた「イメージ写真」については?

「元記事には無いイメージ写真を付けることをどう考えるかですが、要約がそもそも著作権侵害にならない形なのであれば、元記事との関係で問題は生じないでしょう。

しかし、ニュース記事を読む人に誤解を与えないため、写真が『イメージ写真』であるなら、そのことを明記する必要があるでしょうね」

●要約に間違いがあれば、責任は当然LINEニュースにある

――それでは、要約が間違っていた場合、責任は誰が負う?

「LINEニュースでは、要約部分の下に元記事の作成主体(例:MSN産経ニュース)が表示され、同ニュースの元記事へのリンクが張られています。

もし仮に要約に誤りがあり、その結果、元記事の作成者が信用毀損などの損害を被った場合には、当然LINE側が賠償責任を負います」

―― 一方、元記事自体に問題があった場合、それに基づいて「要約」を作った側の責任は?

「元記事がプライバシー権侵害や名誉毀損的表現を含む記事だった場合、その要約を行うことは、被害者に対して、元記事の作成者と同様の責任を負う可能性があります」

なるほど、「事実のみ」の要約は著作権侵害にこそならないが、報じる側としての責任はしっかりと生じるということだ。ネットニュースは「誰が取材しているのか」「誰が書いているのか」「誰が責任を取るのか」が、読者に見えにくい傾向がある。伝える側がその区別をきちんと明示すべきなのはもちろんだが、ニュースを受け取る側も、その点についてきちんと意識しなければならない時代になったと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

驚異的な成長を遂げるソーシャルメディア「LINE」がニュース事業に参入した。7月18日にスマートフォン専用のニュースアプリ「LINEニュース」をリリースしたのだ。最大の特徴は、マスコミが報じたニュース記事を独自に「要約」して、短いまとめ記事としていることだ。利用者にはありがたいサービスといえそうだが、ネットでは疑問の声もあがっている。

まとめると、疑問は大きく2つに分けられる。1つ目は「権利」の問題。元のニュース記事は各社が労力をかけて作成したものだ。それを引用・要約(改変)し、元記事にはないイメージ写真をつけるのは、著作権的に問題ないのだろうか。

2つ目は「責任」の問題だ。LINEニュースでは編集部スタッフが記事の要約に当たっているが、人の手が加わる以上、ミスが起こり得る。その要約に誤りがあった場合、誰が責任を取るのだろうか。また、編集ミスにより、引用元であるマスコミのイメージが損なわれた場合、マスコミ側がLINEに損害賠償を求めることはできるのだろうか。

これらの疑問について、著作権問題にくわしく、著作権をテーマにしたブログを運営している柿沼太一弁護士に聞いた。

●要約が「単なる事実」のまとめなら、著作権法上は問題ない

「まず、元となるニュース記事については、作成した各社に著作権があります。記事をそのまま引用することは記事の『複製』(著作権法21条)に該当します。また、要約することは通常『翻案』(著作権法27条)に該当します。複製や翻案をする権利は著作者が持っていますから、原則として複製・翻案をしたいなら著作者である報道各社から許諾を受ける必要があります。

LINEニュースが各社から許諾を受けているのかどうかははっきりしませんが、仮に受けているのであれば、著作権法上は当然問題ありません」

――では、許諾を受けていなかったとしたら?

「許諾なく、記事を複製するのはダメです。しかし要約の場合、必ずしもすべてが著作権侵害になるとは限りません。著作権侵害がなければ、許諾も不要です」

――要約が著作権を侵害しないケースとは?

「『要約』といっても、それが『単なる事実』であれば、著作物性はないとされています。したがって、元記事から創作性が認められる表現部分を削ぎ落として、事実部分だけを抽出して利用した場合には、著作権侵害にはならないと考えられます。

実際にLINEニュースがどんな要約をしているのか、実例を見てみましょう。たとえば8月1日に掲載されたものでは、福島第1原発の敷地内にある観測用井戸の水位が上昇していることを報じる記事について、《福島第1原発の観測用井戸の水位が上昇している問題で、東電は31日、工事中の『土の壁』を超え、汚染水が海に漏れる可能性を明かしました》と要約しています。

この要約部分は『単なる事実』のみを伝えていると言えます。このように、LINEニュースの場合、要約の内容が『単なる事実』となるように工夫されているように見受けられます」

――LINE側で付けた「イメージ写真」については?

「元記事には無いイメージ写真を付けることをどう考えるかですが、要約がそもそも著作権侵害にならない形なのであれば、元記事との関係で問題は生じないでしょう。

しかし、ニュース記事を読む人に誤解を与えないため、写真が『イメージ写真』であるなら、そのことを明記する必要があるでしょうね」

●要約に間違いがあれば、責任は当然LINEニュースにある

――それでは、要約が間違っていた場合、責任は誰が負う?

「LINEニュースでは、要約部分の下に元記事の作成主体(例:MSN産経ニュース)が表示され、同ニュースの元記事へのリンクが張られています。

もし仮に要約に誤りがあり、その結果、元記事の作成者が信用毀損などの損害を被った場合には、当然LINE側が賠償責任を負います」

―― 一方、元記事自体に問題があった場合、それに基づいて「要約」を作った側の責任は?

「元記事がプライバシー権侵害や名誉毀損的表現を含む記事だった場合、その要約を行うことは、被害者に対して、元記事の作成者と同様の責任を負う可能性があります」

なるほど、「事実のみ」の要約は著作権侵害にこそならないが、報じる側としての責任はしっかりと生じるということだ。ネットニュースは「誰が取材しているのか」「誰が書いているのか」「誰が責任を取るのか」が、読者に見えにくい傾向がある。伝える側がその区別をきちんと明示すべきなのはもちろんだが、ニュースを受け取る側も、その点についてきちんと意識しなければならない時代になったと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る