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珍しい名字のせいで子どもがいじめに…「大工」「肴屋」など変更が認められたケースも
2021年01月26日 10時04分

「珍しい名字のせいで子どもがいじめられています。名字を変えることはできないのでしょうか」。弁護士ドットコムに、このような相談が寄せられています。

近年では、奇抜な「キラキラネーム」を改名したいという声が聞かれるようになりました。名前ではなく名字も、いじめられている、恥ずかしいなどの理由で変更することができるのでしょうか。

林誠吾弁護士の解説をお届けします。

「珍しい名字のせいで子どもがいじめられています。名字を変えることはできないのでしょうか」。弁護士ドットコムに、このような相談が寄せられています。

近年では、奇抜な「キラキラネーム」を改名したいという声が聞かれるようになりました。名前ではなく名字も、いじめられている、恥ずかしいなどの理由で変更することができるのでしょうか。

林誠吾弁護士の解説をお届けします。

●名字を変更するには「やむを得ない事由」が必要

ーー名字の変更をすることはできるのでしょうか。

名字の変更をするには、家庭裁判所に「氏の変更許可の申立て」をおこなう必要があります。家庭裁判所は、名字の変更を求める申立てを審理し、「やむを得ない事由がある」場合に名字の変更を許可します(戸籍法107条1項)。

家庭裁判所に名字の変更が認められた後は、本籍地か住所地の役場に届出をします。これで、変更された後の名字が戸籍に記録されることになります。

ーー「やむを得ない事由」とは具体的にどういうことなのでしょうか。

これについて、昭和59年7月12日の大阪高裁判決では、以下のような一定の解釈を示しています。

「右にいう『やむを得ない事由』とは、氏が珍奇・難解・難読で、他の者に読むことが困難で、社会生活上著しい困惑と不便を与える場合とか、同姓同名者がいるため混同され社会生活上著しい支障があるような場合のように、当人にとつて社会生活上氏を変更しなければならない真にやむを得ない事情があるとともに、その事情が社会的客観的にみても是認されるものでなければならない場合をいうものと解せられる」

このような解釈に照らすと、今回の相談にあるような「蛇口」(へびぐち)という名字の変更は、実際に名字のせいでいじめを受けているなど「社会生活上著しい支障がある」ことを証明できれば、認められる可能性があるでしょう。

●「大工」「肴屋」…名字の変更が認められたケース

ーー過去に名字の変更が認められたケースは、どのようなケースでしょうか。

たとえば、以下のような例があります。

(1)「赤畑」という氏が、共産党機関紙の「アカハタ」を連想させ、日常生活に不便を被ることを理由に変更が認められたケース(福岡高裁宮崎支部決昭和29年2月22日)
(※昭和29年当時の社会情勢も多分に反映されていると思われます。現在も同じような理由で許可決定が出るかは疑問です)

(2)「大工」という氏は、珍奇なものとはいえないが、特定の職業を指称することは明らかであり、社会生活上の不便と苦痛を被り、人格も傷つけられることで嫌悪感を抱くこともあったことを理由に変更が認められたケース(那覇家審昭和50年9月13日)

(3)「肴屋」(さかなや)という氏は、特定の職業を連想させ、笑いの対象となり、小学生の子どもも学校や塾などでからかわれるなどの事情から、変更が認められたケース(長崎家審昭和61年7月17日)

(4)「大楢」という氏は、発音すると「オナラ」に聞こえ、滑稽かつ珍奇といえることを理由に変更が認められたケース(岐阜家審昭和42年8月7日)

そのほか、他人の子として出生届・認知がなされ、長年特定の名字を使って生活をしていたところ、認知の無効が認められたことにより戸籍の訂正がなされ本来の名字に戻ったものの、長年使用していた名字への変更を申し立てた事件においても変更が認められています。本来の名字よりも長年使っていた名字が優先された、というケースです(東京高決昭和57年8月24日)。

●「簾」「佃屋」…変更を申し立てるも認められなかったケース

ーー名字の変更を申し立てたものの、認められなかったケースもあるのでしょうか。

あります。たとえば、以下のような例があります。

(1)「簾」(みす)という氏は、当用漢字ではなく読み書きが難しいけれども、この程度の難読・難書であれば少し努力すれば容易に克服できることを理由に変更が認められなかったケース(大阪高決昭和26年10月12日)

(2)「佃屋」(つくや)という氏は、誤読がされやすいものの、混乱を招くほどの誤読ともいえないことを理由に変更が認められなかったケース(東京家審昭和43年10月3日)

(3)「立仙」という氏は、外国人風ではあるが、外国人と間違えられる可能性は高くはなく、社会生活上困難を来さないことを理由に変更が認められなかったケース(東京高決昭和37年12月7日)

(弁護士ドットコムライフ)

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