フジテレビとフジ・メディアHDは、中居正広さんが元女性社員に性暴力をくわえた一連の問題をめぐり、改革案を発表した。
その中でも「編成・バラエティ部門の解体・再編とアナウンス室の独立」に注目する。詳細が明らかになるのはこれからだろうが、運用次第ではテレビ業界の問題点の改善につながる可能性を秘めていると思う。
すでにテレビ業界内でも改革プランは注目を集めている。現役のアナウンサーの目にどう映っているのか。あるテレビ局の女性アナウンサーが匿名を条件に答えた。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
●新設の「コーディネーター」に期待
アナウンス室の独立に関連して、番組との調整役を果たす「コーディネーター」という職種が新設されるという。これは評価できる。
私が取材した女性アナ(以下、Aアナ)も「前からこういうマネージャー的な人がいてくれたらいいなと思っていた」と期待感を口にする。
各局のアナウンス部署で番組との調整役を担うのは「デスク」と呼ばれる人物だ。通常はベテランのアナが務め、アナウンサーのシフトを管理している。
現状では、デスクは「番組からの依頼を管理して割り振るだけ」の存在に近い。
「あまりに無理な依頼」であれば断ることもあるが、さほど「積極的な調整役」として機能しているとは言いがたい。
キャスティング側となる番組制作部署だが、実はアナウンサーの能力に関する情報が少ない。アナのイメージや人気だけを根拠になんとなくキャスティングされる傾向がある。
その結果として「若くてかわいい人気アナ」ばかりが起用され、実力はあっても人気がなければ出演チャンスすら訪れない。
アナウンサーにとっては「なんとかして自分の人気や知名度を上げなければ」という無言のプレッシャーとなる。
局のアナウンサーは社員でありながら出演者という独特な立ち位置にある。そして、それが「弱さ」を生んでいると言える。
そこにコーディネーターが存在するとどうなるか。アナウンサーは個人で番組制作部署と向き合わなくて済むようになるかもしれない。
たとえば、アナウンサーが自らを売り込み、仕事をつかむための「営業」目的で、嫌な飲み会に参加させられたりしなくて済むかもしれない。
コーディネーターは、芸能事務所の営業やマネージャーのように「このアナウンサーにはこんな得意分野がある。この仕事には彼女が適任ではないか」と売り込みや情報提供の役割も期待される。
結果的に「有名なアナだけに仕事が来るということがなくなるかも」(Aアナ)というわけだ。
●アナウンス室の独立だけではあまり意味がなさそう
なお、改革案では、アナウンス室を編成局から独立させるというが、独立自体ではあまり意味があるように思えない。
Aアナも「そもそもテレビ各局では、アナウンス室は今でも独立してるようなもの。独立したところでキャスティング権限がアナウンス室に来るとは思えない」と話す。
しかし、これがアナウンス「室」がアナウンス「局」に変わり、あたかも「ひとつの芸能事務所」のような組織になるならそれは意味があるだろう。
アナウンス局の中に「コーディネート部」のような部署が新設され、その中にマネージャー的なコーディネーターが多数在籍して活動するイメージだ。
フジテレビならば、在籍するアナウンサーの数を考えると「5人〜10人のコーディネーターがいるならいいのでは」(Aアナ)。
●テレビ番組のキャスティングの透明化も
もうひとつの改革の柱である「編成・バラエティ部門の解体・再編」については、実はそれほど期待値は高くない。これまでも各局で、ことあるごとに編成・制作部署の組織改編がなされてきたからだ。
名称を変えても、人事異動をするだけならあまり意味はないと思える。
改革案の公表にあたり、フジテレビの清水社長は「面白くなければテレビじゃない、からの脱却」を口にしたが、ある意味で「面白くなければテレビじゃない」は普遍の真理だ。脱却する必要はまったく無いと思う。
大切なのは「いかに透明な過程で面白いテレビを作るか」だ。
キャスティングにおける透明性を確保することが大切であって、「キャスティングをオーディションとか入札制にする」(Aアナ)といったレベルのドラスティックな改革が必要だ。
もっと言えば、テレビ番組の企画選考の過程はあまりにブラックボックスすぎる。
もっと公明正大に「番組企画の公募と、透明な選考過程の公表」をすべきだ。
そのために制作部署を全面改革し、番組制作の方策を根本から見直すのだとするならば「編成・バラエティ部門の解体・再編」も意味を持つだろう。
●外部スタッフはどうする?
最後にもうひとつ。大切なのは「被害に遭うのはアナウンサーだけではない」ということだ。
局員全員が被害者になる可能性があるし、外部スタッフも守られなければならない。テレビ業界で働いているのは局員だけではない。
その観点での施策が、今回あまり見えてきていないのが残念だ。