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「政治活動はしません」映画大学が教授に求めた誓約書 「表現の自由」はどうなる?
2013年07月02日 16時30分

国内初の映画単科大学である日本映画大学(神奈川県川崎市)が、「(学内において)一切の政治活動を行わない」とする誓約書への署名を教授たちに求めていたことが、このほど発覚した。映画関係者などからは、「表現規制ではないか」と疑問の声が上がっている。

同大学は2011年設立だが、報道によると、誓約書は前身である日本映画学校時代から存在していたという。しかし今回、教授に就任予定だった講師が誓約書を拒んで学校を去り、公開質問状を大学に提出したことで問題が表面化、大きな騒動となった。

神奈川新聞によると、大学側は「政治活動とは、特定の政治団体や宗教団体の考え方を学内に持ち込まないとの趣旨。教育現場の表現の自由を妨げるものではない」と主張している。しかし、映画関係者や他の芸術大学関係者たちは「表現の自由を捨てる自主規制だ」など、厳しいコメントを寄せている。

大学側は今後も誓約書を求め続けるかどうか検討中だというが、大学がこのような「誓約書」を教授に求めることは、どのような問題があるといえるのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●今回の誓約書は「大学のあり方」と根本的に矛盾する

「『(学内において)一切の政治活動を行わない』という誓約書を、教員になる者に対して求めることは明らかに、憲法で保障されている表現の自由や学問の自由との関係で問題があるといえます」

猪野弁護士はこのように明言する。

「映画大学という大学で、研究教員に対してそのような制約を科すこと自体が、大学のあり方と根本的に矛盾するのです」

なぜ、そのように言えるのか。猪野弁護士は次のように説明する。

「大学の研究者には『学問の自由』が保障され、それには、どのように学生に教授するのかという自由も含まれます。そもそも、『表現の自由』によって当然に保障されている『学問の自由』があえて憲法で規定されているのは、学問研究が政治的対立を生む関係にあるからです。

それを大学が自ら否定して、教員に政治活動を行わない誓約書を求めるなどは言語道断です。表現の自由、学問の自由をあからさまに侵害するものです」

今回は、日本映画大学という私立大学で起きている騒動だが、私立の学校でも、憲法で保障された人権が問題になるのだろうか。

「このことは映画大学が私立であっても、結論が異なるものではありません。その私学の校風自体は尊重されるべきであったとしても、一律に政治活動を禁止することは、学問の自由や表現の自由を侵害するもので、明らかに公序に反するといえます。大学側がこのような規制をかけることは不当で、私学助成金を受けている立場とも相容れません」

●誓約書に署名させられた教員には「萎縮効果」が生じる

このように猪野弁護士は述べながら、次のように続ける。

「今回の誓約書で規制している『政治活動』とは、特定の政党や宗教団体のビラを学内で配布することだけを想定しているとはいえません。そのような誓約書ではないからです。そうなると、実際には、社会の矛盾を指摘するだけで政治活動と言われかねず、講義する内容の1つ1つに神経をとがらせることにならざるを得ません。

そもそも映画は、それ自体に社会的な問題意識が反映されたものです。ノンポリ映画だけが存在しているわけではありません。このような政治活動の禁止を求める誓約書というものは、署名させられた人に大きな萎縮効果を生み出すでしょう」

なぜ、萎縮効果が生まれるのだろうか。

「大学当局による教員に対する不利益処分は、些細なことを口実に使われる場合もあります。このような誓約書があるときは、そのような不利益処分を恐れて、萎縮してしまうのです」

最後に、猪野弁護士は大学がとるべき姿勢について、次のように述べている。

「内容がおかしければ、それは禁止という方法で対処するのではなく、批判によって対処するべきです。それが、表現の自由のあるべき姿です。映画という表現活動そのものを教育しようとする大学であれば、なおさら、そういえるのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

国内初の映画単科大学である日本映画大学(神奈川県川崎市)が、「(学内において)一切の政治活動を行わない」とする誓約書への署名を教授たちに求めていたことが、このほど発覚した。映画関係者などからは、「表現規制ではないか」と疑問の声が上がっている。

同大学は2011年設立だが、報道によると、誓約書は前身である日本映画学校時代から存在していたという。しかし今回、教授に就任予定だった講師が誓約書を拒んで学校を去り、公開質問状を大学に提出したことで問題が表面化、大きな騒動となった。

神奈川新聞によると、大学側は「政治活動とは、特定の政治団体や宗教団体の考え方を学内に持ち込まないとの趣旨。教育現場の表現の自由を妨げるものではない」と主張している。しかし、映画関係者や他の芸術大学関係者たちは「表現の自由を捨てる自主規制だ」など、厳しいコメントを寄せている。

大学側は今後も誓約書を求め続けるかどうか検討中だというが、大学がこのような「誓約書」を教授に求めることは、どのような問題があるといえるのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●今回の誓約書は「大学のあり方」と根本的に矛盾する

「『(学内において)一切の政治活動を行わない』という誓約書を、教員になる者に対して求めることは明らかに、憲法で保障されている表現の自由や学問の自由との関係で問題があるといえます」

猪野弁護士はこのように明言する。

「映画大学という大学で、研究教員に対してそのような制約を科すこと自体が、大学のあり方と根本的に矛盾するのです」

なぜ、そのように言えるのか。猪野弁護士は次のように説明する。

「大学の研究者には『学問の自由』が保障され、それには、どのように学生に教授するのかという自由も含まれます。そもそも、『表現の自由』によって当然に保障されている『学問の自由』があえて憲法で規定されているのは、学問研究が政治的対立を生む関係にあるからです。

それを大学が自ら否定して、教員に政治活動を行わない誓約書を求めるなどは言語道断です。表現の自由、学問の自由をあからさまに侵害するものです」

今回は、日本映画大学という私立大学で起きている騒動だが、私立の学校でも、憲法で保障された人権が問題になるのだろうか。

「このことは映画大学が私立であっても、結論が異なるものではありません。その私学の校風自体は尊重されるべきであったとしても、一律に政治活動を禁止することは、学問の自由や表現の自由を侵害するもので、明らかに公序に反するといえます。大学側がこのような規制をかけることは不当で、私学助成金を受けている立場とも相容れません」

●誓約書に署名させられた教員には「萎縮効果」が生じる

このように猪野弁護士は述べながら、次のように続ける。

「今回の誓約書で規制している『政治活動』とは、特定の政党や宗教団体のビラを学内で配布することだけを想定しているとはいえません。そのような誓約書ではないからです。そうなると、実際には、社会の矛盾を指摘するだけで政治活動と言われかねず、講義する内容の1つ1つに神経をとがらせることにならざるを得ません。

そもそも映画は、それ自体に社会的な問題意識が反映されたものです。ノンポリ映画だけが存在しているわけではありません。このような政治活動の禁止を求める誓約書というものは、署名させられた人に大きな萎縮効果を生み出すでしょう」

なぜ、萎縮効果が生まれるのだろうか。

「大学当局による教員に対する不利益処分は、些細なことを口実に使われる場合もあります。このような誓約書があるときは、そのような不利益処分を恐れて、萎縮してしまうのです」

最後に、猪野弁護士は大学がとるべき姿勢について、次のように述べている。

「内容がおかしければ、それは禁止という方法で対処するのではなく、批判によって対処するべきです。それが、表現の自由のあるべき姿です。映画という表現活動そのものを教育しようとする大学であれば、なおさら、そういえるのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

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