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突然のクビ通告、法律相談でたらい回し…20代男性が労働弁護士に出会って解決するまで
2023年12月22日 11時25分
#法曹 #転機のロースクール

「二割司法」という言葉がある。法的支援を必要とする人のうち2割しか司法サービスにアクセスできず、8割は泣き寝入りを余儀なくされている状態のことだ。

1990年代から始まった司法制度改革では「二割司法」の解消を目指し、法曹の質と量を改善しようとする試みが進められた。

この20年で弁護士人口は増えた。しかし、すべての人にとって司法は本当に身近になったのだろうか。

弁護士ドットコムニュースは、あるトラブルに巻き込まれた公務員の井田さんと斎藤さん(いずれも仮名)を取材。真っ先に法律事務所を訪れたふたりにとって、“弁護士”とはーー。

「二割司法」という言葉がある。法的支援を必要とする人のうち2割しか司法サービスにアクセスできず、8割は泣き寝入りを余儀なくされている状態のことだ。

1990年代から始まった司法制度改革では「二割司法」の解消を目指し、法曹の質と量を改善しようとする試みが進められた。

この20年で弁護士人口は増えた。しかし、すべての人にとって司法は本当に身近になったのだろうか。

弁護士ドットコムニュースは、あるトラブルに巻き込まれた公務員の井田さんと斎藤さん(いずれも仮名)を取材。真っ先に法律事務所を訪れたふたりにとって、“弁護士”とはーー。

●法律相談でことごとく断られ続け…

東北地方の役場で働いていた井田さん(20代・男性)は、ある日突然勤務中に呼び出され、上司らに「明日から来なくていいよ」と言われた。手渡された免職通知書には「条件付採用期間の勤務成績不良」が理由として書かれていた。

コロナ禍のストレスで体調を崩して休職した事実はあるものの、動揺せずにはいられなかった。すでに一般職員の立場だったため「条件付」の文言にも戸惑った。しかし、上司らには「あなたは条件付採用職員だから不服申し立てはできない」と念押しされたという。

頼るならば弁護士だ。難しい事案でも解決してくれるーー。そう期待し、気を奮い立たせて法律相談に足を運んだ。

「公務員なので、民間と違って労基署に駆け込むことはできません。真っ先に弁護士が思い浮かびました」

画像タイトル 井田さんは公務員も労基署のように気軽に駆け込める場所があると語る(K,Kara / PIXTA)

ところが、自治体の無料相談では「条件付きだと審査請求ができないし、行政処分は覆せない。やるのであれば、裁判するしかない」と言われた。裁判といえば刑事事件のイメージが強かった井田さんは「お互い言い合う難しい訴訟をするなんて」と実感が湧かなかった。

その後も法テラス(日本司法支援センター)やインターネットで探した法律事務所を3、4カ所めぐったが、行く先々で「公務員の事件(行政事件)はやっていない」「普通の労働者と違うから難しい」などと断られ続けた。弁護士に期待していた分、不信感が膨らんでいったという。

●次に進みたいが、経済的な不安も…

それでも井田さんは諦めなかった。日本労働弁護団のLINE相談を利用したことで、ようやく引き受けてくれる弁護士をみつけた。

「『いけると思う』と言われた時はホッとしました。自分が悪いのではないかと落胆していましたが『代替案を示さず、いきなり免職はひどい』などと言葉をかけてもらい、味方になってくれていると感じました」

弁護士から県の人事委員会に審査請求をおこなうと、役場側は一転して免職処分が違法だったと認めた。その後、処分は取り消された。相談から約半年後のことだ。役場とその弁護士は誤りを認めて謝罪したが、処分を言い渡した上司らはその場に現れなかったという。

免職通知をきっかけに体調が悪化したため、自力で公務災害を申し立てた。弁護士に相談しながら自分で文書を作り、約1年半後に認められたが、職場からは今も音沙汰なしだという。

井田さんは「せめて謝罪をしてほしい」と現状に納得はしていないが、紆余曲折の末に弁護士に出会えたことには感謝していると語る。

「行政処分の取り消しは難しいと聞きます。ただ、弁護士を簡単につけられないのは、公務員の厳しい現状なのではと思いました」

●「弁護士パワー」を実感

同じく公務員として関東地方で働く斎藤さん(仮名・20代女性)は直属の上司から暴言などのパワハラを受け、精神疾患を発症した。上層部に相談しても相手にしてもらえず「何もしないよりは、戦って苦しんだほうがマシ」と自らを鼓舞し、弁護士を探し始めた。

インターネットでみつけて相談に向かった弁護士事務所では、井田さんと同じように「公務員は難しい」と言われた。法律のことはよくわからず、国を相手とする国家賠償請求になると知った。

画像タイトル 斎藤さんが弁護士に依頼するにあたり、友人らも金銭的な心配をしていたという(写真はイメージ:Graphs / PIXTA)

いくつか回ったうち、ある法律事務所の弁護士が引き受けてくれることになった。ただ、費用は膨大だった。全部で約20万円支払った。

弁護士からは、国家賠償請求の前に内容証明を出すことを提案された。慰謝料の支払いを求める文書を作成し、パワハラをした直属の上司、報告しても対応しなかった上層部の2人に送った。2人はハラスメントの調査段階で「自分は悪くない」「知らない」と主張していたが、内容証明が届くと態度が一変。事実を認め始めたという。

「弁護士パワーだと思いました。弁護士から職場に電話がかかってきたので、周囲も何事かと2人を見ていたようです」

●懲戒処分を「お金で買ったのかも」

斎藤さんによると、現在はハラスメント加害者の懲戒処分手続き中で、結論が出るまでにあと3、4年はかかる見込みだという。慰謝料は払われておらず、今も精神安定剤を飲む日々を送っている。

「お金で懲戒処分を買ったことになるのかもしれない」と複雑な心境を吐露する一方、戦ってくれた弁護士には感謝していると語る。

「弁護士がいなければ嘘つきと言われ、ハラスメント認定されなかった可能性もあります。ただ、依頼するお金がなかったり探せなかったりしたら、どうなっていたかは分かりません。誰にでも簡単に勧められることではないと思います」

弁護士に相談する前にセクハラホットラインにも通報した。話は聞いてもらえたが、具体的な解決にはつながらなかったという。公務員のための相談窓口はあるものの、メールアドレスが機能していなかったり、営業時間が勤務時間と重なっているために相談自体が現実的に困難な機関もあるとのことだ。費用対効果を考えれば、コスパもタイパも悪く、賠償請求訴訟までは考えられないという。

2人が解決の糸口を見つけることができたのは、トライ&エラーを繰り返しながら諦めなかったからだ。根気よく探さなければ、8割の泣き寝入り事例になっていたことだろう。「誰もがアクセスしやすい司法」という未来は、まだまだ遠いのかもしれない。

弁護士ドットコムニュースは、開学20年を迎えるロースクール設立のきっかけとなった「平成の司法制度改革」を振り返る企画を連載しています。司法や法曹は身近になったのかーー。学者や弁護士、政治家インタビューやデータ分析を通じて考えます。

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