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大谷翔平と妻の「婚前契約」報道に弁護士業界も騒然「守秘義務はどうなってる?」
2024年03月23日 10時27分
#大谷翔平 #婚前契約 #守秘義務 #真美子夫人

米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の結婚をめぐり、弁護士業界がざわついている。

発端となったのは、3月21日に公開された現代ビジネス(週刊現代)のウェブ記事。「日本の大手法律事務所の関係者」によるものとして、次のようなコメントが紹介されていた。

これが弁護士の「守秘義務」違反なのではないかというのだ。弁護士が勝手に情報を漏らしてしまえば、依頼者は事実を包み隠さず伝えることができなくなるし、そうすると弁護士も依頼者の利益を実現できなくなってしまう。

仮に当該記事の内容が事実だった場合、どうなるのか、弁護士不祥事に詳しい伊藤諭弁護士に聞いた。

米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の結婚をめぐり、弁護士業界がざわついている。

発端となったのは、3月21日に公開された現代ビジネス(週刊現代)のウェブ記事。「日本の大手法律事務所の関係者」によるものとして、次のようなコメントが紹介されていた。

「1年ほど前、事務所内で『大谷翔平』を相手とした契約書を目にしたのですが、その中身が『婚前契約』だったんです。〔略〕結婚発表前から所内はその話で持ちきりでした」

これが弁護士の「守秘義務」違反なのではないかというのだ。弁護士が勝手に情報を漏らしてしまえば、依頼者は事実を包み隠さず伝えることができなくなるし、そうすると弁護士も依頼者の利益を実現できなくなってしまう。

仮に当該記事の内容が事実だった場合、どうなるのか、弁護士不祥事に詳しい伊藤諭弁護士に聞いた。

●「婚前契約」情報はトップシークレット

私もこの記事をネットで見ましたが、その内容に大変驚きました。一流の週刊誌の記事ですので、綿密な取材もなく報じているはずがないと思われる一方、トップシークレット中のトップシークレットであるはずの大谷選手関連の「婚前契約」に関する話を口外する法律事務所があるとも思えません。

これらは両立しないので残念ながらどちらかの懸念は当たっていることにはなるのですが、私は、当然どちらが正しいかを判断する情報を持ち合わせていないので、あくまでも「万が一このような情報を口外する弁護士ないし法律事務所があったら」という仮定のもとでご説明します。

弁護士には依頼者の利益と相反する事案について受任してはならないルールがあります(弁護士職務基本規程27条及び28条)。これは、同じ法律事務所に属する他の弁護士が受任している事件においても同様です(同57条)。

この利益相反を防ぐため、複数の弁護士が所属する法律事務所においては、弁護士がある事件を受任しようとする際に、他の弁護士がその相手方の事件を既に受任していたり過去に法律相談を受けたりしたことがないかをチェックする必要があります。これを利益相反(コンフリクト)チェックと言ったりします。

したがって、当該記事にも「仕事の概要を互いに確認できるようになっている」とあるように、どの法律事務所でも、所属する弁護士が誰の事件を受任しているかということは確認すれば分かるようになっており、かつそのような体制が求められているとも言えます。

一定規模以上の法律事務所においては秘書や事務員がこれら受任事件の管理をしていることがほとんどだと思います。

他方、弁護士には極めて厳重な守秘義務が課せられています(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。

事務職員など自分の職務に関与させた者に対しても、法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らさないよう指導及び監督をしなければならない義務があります(弁護士職務基本規程19条)。

こうした厳重な守秘義務があることにより、法律事務所内の受任事件の管理を弁護士や事務員等の間で共有できるわけです。

ところで、婚姻にまつわることなどは、ご本人が公表しない限り、その内容はもちろん、交渉や契約があること自体も守秘義務の対象です。

●「弁護士やその事務員の守秘義務は、職務の根幹をなすもの」

なお、週刊現代の記事中「日本国内で1年間に結ばれる婚前契約は数十件にすぎない」とありますが、これはやや不正確です。

いわゆる「婚前契約」自体はどこかに届け出る必要がある訳ではなく、当事者間にしか分からないため統計的な意味における件数など分かるはずがありません。

「婚前契約」には「夫婦財産契約」(民法755条)を含むことが多いのですが、政府統計の総合窓口(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003268738)によれば、「夫婦財産契約登記」の件数が2022年は39件、2021年は21件であることが分かるくらいです。

ただ、「婚前契約」自体が極めて珍しい契約であることは確かです。こうした契約をしている事実が公表されてしまえば、興味本位でその内容を詮索されることが目に見えています(現にそうなっています)。

大谷選手の妻がこうした事態を許容していたとは到底思えず、契約を担当した法律事務所は、絶対に外に漏らしてはいけない秘密であったはずです。

間接的にせよ有名人に関与した事実を他人に自慢したくなる心情は理解できないわけではありません。

しかし、軽々に依頼者の秘密を漏らしてしまえば、その弁護士や法律事務所の信頼は失墜してしまいますし、弁護士一般の信頼をも危うくしかねません。

弁護士やその事務員の守秘義務は、職務の根幹をなすものです。この記事にあるような「法律事務所」が存在しなかったというオチを祈るばかりです。

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