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名古屋「ゆとりーとライン」バス専用高架に乗用車進入 適用される法律は?
2022年06月07日 11時08分

愛知県名古屋市と春日井市を結ぶ「ゆとりーとライン」で、専用のバスしか入れないガイドウェイに乗用車が進入するという出来事が発生した。

報道によると、5月30日午前6時過ぎ、小幡緑地駅(名古屋市守山区)付近を走行していた乗用車が遮断機を押しのけてガイドウェイに進入。

約6.5キロ先にあるガイドウェイの終点にあたる大曽根駅まで走行し、職員の制止にも応じず同駅でUターンしたのち、小幡緑地駅まで戻ると、一般道へ出て走り去ったという。けが人はなく、バスの運行にも支障は出なかったようだ。

「ゆとりーとライン」は、鉄道とバスを組み合わせたようなシステムで運用されている。道路の中央分離帯上に設けた高架化されたガイドレールのあるガイドウェイでは、鉄道のようにハンドル操作をせずに走行でき、ガイドウェイ以外の区間は通常のバスと同様に一般道路を走ることができる。

一般的な道路と似たような作りのガイドウェイではあるものの、走行が許されているのは専用のバスのみ。ガイドウェイへの入り口には一般車の立ち入りを禁止する看板や遮断機が設置されているといい、自由に進入していい場所ではないことは明らかだろう。

「ゆとりーとライン」のような線路でも一般道でもない専用のガイドウェイに許可なく車で進入した場合、どのような違反行為になるのだろうか。甲本晃啓弁護士に聞いた。

(【編集部より】2022年6月7日11時10分:最初の配信時(6月3日)、「ゆとりーとラインには『鉄道営業法』が適用される」としておりましたが、読者からの指摘を受け、再度検討したところ、正しくは「軌道法」であったため、記事を大幅に修正いたしました。お詫び申し上げます)

愛知県名古屋市と春日井市を結ぶ「ゆとりーとライン」で、専用のバスしか入れないガイドウェイに乗用車が進入するという出来事が発生した。

報道によると、5月30日午前6時過ぎ、小幡緑地駅(名古屋市守山区)付近を走行していた乗用車が遮断機を押しのけてガイドウェイに進入。

約6.5キロ先にあるガイドウェイの終点にあたる大曽根駅まで走行し、職員の制止にも応じず同駅でUターンしたのち、小幡緑地駅まで戻ると、一般道へ出て走り去ったという。けが人はなく、バスの運行にも支障は出なかったようだ。

「ゆとりーとライン」は、鉄道とバスを組み合わせたようなシステムで運用されている。道路の中央分離帯上に設けた高架化されたガイドレールのあるガイドウェイでは、鉄道のようにハンドル操作をせずに走行でき、ガイドウェイ以外の区間は通常のバスと同様に一般道路を走ることができる。

一般的な道路と似たような作りのガイドウェイではあるものの、走行が許されているのは専用のバスのみ。ガイドウェイへの入り口には一般車の立ち入りを禁止する看板や遮断機が設置されているといい、自由に進入していい場所ではないことは明らかだろう。

「ゆとりーとライン」のような線路でも一般道でもない専用のガイドウェイに許可なく車で進入した場合、どのような違反行為になるのだろうか。甲本晃啓弁護士に聞いた。

(【編集部より】2022年6月7日11時10分:最初の配信時(6月3日)、「ゆとりーとラインには『鉄道営業法』が適用される」としておりましたが、読者からの指摘を受け、再度検討したところ、正しくは「軌道法」であったため、記事を大幅に修正いたしました。お詫び申し上げます)

●威力業務妨害罪にあたる可能性

——今回のような進入行為は、どのような法令違反に当たるのでしょうか。

今回のガイドウェイへの車での乗り入れは、威力業務妨害罪(刑法234条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたる可能性があります。

——「ゆとりーとライン」にはどのような法令が適用されるのでしょうか。

「ゆとりーとライン」は、法令上は「無軌条電車」とされ、軌道法が適用されます。軌道法は、典型的には路面電車を想定した法律です。

列車が線路の上を走る鉄道には、鉄道事業法が適用される「普通鉄道」と、軌道法が適用される「軌道」があり、どちらの法律の免許(特許)を受けているかによって決まります。

前者は専用の線路を敷設して大量・高速の輸送手段、後者は路面電車のように一般の道路上に線路を敷いて小規模な輸送手段というすみ分けだったようですが、ともに明治時代にできた法律であり、現在ではその区別は曖昧になっています。

たとえば、路面電車のように一般の道路の上も走ることのある江ノ島電鉄が「普通鉄道」であるのに対し、全線が普通鉄道と同じ規格の車両で専用の線路が敷かれている名鉄豊川線は「軌道」であったりします。

また、「東京モノレール」や「湘南モノレール」は鉄道であるのに対し、沖縄の「ゆいレール」やガイドウェイ方式の新交通システム「日暮里・舎人ライナー」は軌道に分類されます。「ゆりかもめ」に至っては、鉄道として建設された区間と、軌道として建設された区間が混在しており、鉄道か軌道かを区別することは難しいといえます。

なお、鉄道営業法37条の線路などの用地内への立ち入りについての罰則と同じような規定が、軌道法の下位法令(軌道運輸規程20条)にあります。

しかし、この規定は軌道法に根拠規定がないため、法律による委任のない罰則規定として無効(憲法73条6号、国家行政組織法12条3項)であると解されていますので、軌道への立ち入りについて、軌道法令による処罰はありません。

——運行に支障が出なかったようですが、業務妨害罪になるのでしょうか。

判例上、業務妨害に関する罪は「抽象的危険犯」といって、実際に運行業務が妨害されたかどうかに関わらず成立する罪です。

ですので、車で乗り入れてはいけない場所に職員の制止を振り切って入れば、威力業務妨害罪にあたる可能性があります。

なお、制止した職員に怪我をさせたり、ゲートを壊したりすれば、別途、傷害罪や器物損害罪が成立します。

また、事故を起こして乗り入れた自動車が動けなくなるなどしてガイドウェイをふさぐようなことになれば、往来妨害罪(刑法124条1項等)が成立するものと考えられます。

——「無軌条電車」として扱われる乗り物は他にありますか。

「無軌条電車」の典型は、道路上の架線からの電気で走るトロリーバスで、ヨーロッパでは多くの都市で現在でも活躍している交通手段です。

日本では、立山黒部アルペンルートでは「立山トンネルトロリーバス」が運行されており、山岳部の専用トンネルを走っている路線です。一般車では到達困難な場所にあり、故意・過失問わず、誤進入は起こりにくいものと考えられます。

●「設備に問題があるようには思われない」

—— 専用道路への侵入対策で参考になる事例はありますか。

山口県に「宇部興産専用道路」というセメント輸送のための専用道路があります。

全長約32キロメートルの「日本一長い私道」として知られていますが、一般道との交差部分もあり、「ゆとりーとライン」と同じように専用道側の出入り口には簡易な遮断棹が設けられているだけですが、誤進入について今まで大きな問題になったという話は聞きません。

——「ゆとりーとライン」のガイドウェイに乗用車が進入するのは、2001年の開業以来初めてのようです。

今回の事件は、高齢と思われる運転者が係員の制止も聞かずに故意に強硬突破したものだと報道されています。動機はわかりませんが、単に道に不案内で誤って進入したというものではないように思います。

このような特殊性や、いままで20年以上にわたり誤進入がなかったことからすると「ゆとりーとライン」の設備に問題があるようには思われません。

また、「ゆとりーとライン」は、コロナ禍の影響もあり、1億7千万円の赤字を計上(令和3年6月決算報告)していますが、公共交通機関としての持続可能性を考慮しつつ、特殊なケースにどこまで費用をかけて対応するべきかという観点からも、対策の要否について合理的な議論がされるべきだと考えられます。

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