7278.jpg
ワタミ執行役員「11月は残業して」報道で物議 本当に「ブラック」なのか?
2021年12月05日 07時31分

大手外食チェーン「ワタミ」の執行役員が、社内ネットで配信された動画で「残業を増やしてください」「一番の優先順位を営業活動に」などと発言していたことが、文春オンライン(11月16日)と週刊文春(11月25日号)で報じられた。

過去に過労自殺事件を起こすなどしていることもあり、記事が配信先のヤフートピックスに採用されると、コメント欄やSNSで「ブラック企業」などの批判も多く見られた。しかし、本当にそう言えるだろうか。

大手外食チェーン「ワタミ」の執行役員が、社内ネットで配信された動画で「残業を増やしてください」「一番の優先順位を営業活動に」などと発言していたことが、文春オンライン(11月16日)と週刊文春(11月25日号)で報じられた。

過去に過労自殺事件を起こすなどしていることもあり、記事が配信先のヤフートピックスに採用されると、コメント欄やSNSで「ブラック企業」などの批判も多く見られた。しかし、本当にそう言えるだろうか。

●「45時間を超えても良い」

文春報道によると、この執行役員は「ワタミの宅食」事業を担当する肱岡彰彦氏。10月末に配信された動画で次のような発言があったという。

「11月の残業が〔……〕増えるということは問題がありませんし、逆に言うと、増やして下さい」

「(編注:残業の上限は)皆さんの健康を考えて45時間というのを目安にしてます。ですから45時間というのを一つの目安として、上長とご相談をしてみて下さい。ただ11月はですね、強化月間ということで、45時間を超えるということがあってもいいというふうに考えてます。どうしても労働基準法に触れるので80時間というのはできませんけれども、45時間超えるということも、会社としては構いませんので」

文春記事では、「上限は原則的に月45時間」だとして、「労働基準法で定められた残業時間の上限を超える労働を求めたと受け取れる発言」と指摘している。一方、「ワタミ宅食事業の今年度の平均残業時間は法令を下回る水準」だというワタミ側のコメントも添えられた。

●群馬の事業所が受けた是正勧告

ワタミの宅食をめぐっては、群馬県にある営業所の女性所長が違法な長時間労働をさせられているなどとして労基署に申告。2020年9月に残業代未払い、2021年3月に36協定の上限75時間(当時)を超える違法残業について、それぞれ是正勧告を受けている。

ワタミが「ブラック企業」のイメージを払拭するため労務改善をアピールしてきたこともあり、事件は話題を呼んだ(ワタミと当該所長とは和解済み)。

その意味で、ワタミが公表した平均残業時間の信憑性や群馬の事例が本当に例外的なのかについて、文春記事のように厳しい視線が注がれるのは仕方がない部分もある。

画像タイトル 是正勧告を受け会見したA氏(2020年10月2日、厚労省記者クラブ)

●記事になかった「36協定の特別条項」

ただ、今回の記事はワタミに対して、少し「悪意」のある書き方をしている部分もありそうだ。労使協定(36協定)の「特別条項」に言及がないからだ。

労働基準法は、第二次安倍政権時代の「働き方改革」で改正され、文春記事が指摘する通り、残業時間の上限は「原則月45時間」となった。

しかし、これには例外があり、36協定の特別条項を結んでいれば、臨時的な業務に対応するため年間最大6回まで45時間を超えた残業ができる。

原則を守る努力は必要だとして、メディアの報道でも残業上限は▼単月100時間▼複数月平均80時間▼年間720時間――などと特別条項を前提とした表現になっていることが多く、月45時間を超えること自体は珍しいことではない。

画像タイトル 厚労省の冊子から、特別条項の制限について(https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf)。

 ●「おせち営業」で11月は最繁忙期

ワタミ・ブランド広報室によると、現在同社の36協定では残業上限は月80時間になっているという。紘岡氏が「80時間は労基法に触れる」と話しているのは、この点を指しているとみられる。

一方、社内ルールとしては75時間を設定しており、今年度75時間を超えた社員はいないという。また、宅食事業における1カ月の平均残業時間は法定水準を下回っており、今年4〜9月は15.9時間、10月は14.7時間だったとする。

「ワタミの宅食の11月は、おせちの営業などがあり、一年で最も忙しい時期にあたることから、月45時間以上の残業が生じる可能性がある旨を、事前に労働組合に届け出ています」(ワタミ・ブランド広報室)

使用者側で労働問題に取り組む藥師寺正典弁護士は次のように語る。

「実際に会社のレピュテーションにも影響があったようですし、ワタミのこれまでの歴史からすると、誤解を招きかねない不適切な発言だったとは思われます。

一方で、発言内容自体からは、特別条項も含めて36協定の範囲内で働いてくれといった趣旨とも解釈でき、労働基準法の上限時間を超える労働を推奨したとは直ちには評価できないと思われます。

その意味では、文春記事はやや誇張している印象も受けますが、特に役職者はレピュテーションや部下の受け取り方にも配慮して適切な発言を心掛ける必要があるということを再認識させてくれたとも言えるでしょう」

当たり前だが、ポイントは実際に法令を守れているか。「文春砲」のことだから、違法行為がないかに目を光らせているだろうし、今回の報道を受けて、ワタミ側も気を引き締めたのではないだろうか。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る