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築112年京大「吉田寮」めぐる6年半の異例裁判で和解成立、学生側が「存続」勝ち取る
2025年08月25日 22時09分
#京大 #吉田寮

京都大学が、築112年の学生寮「吉田寮」の現棟と食堂の明け渡しを求め、寮生・元寮生40人以上を訴えた裁判。前代未聞とも言える大学と学生の法廷闘争は8月25日、大阪高裁で和解に至った。

一審の京都地裁は2024年2月、寮自治会の法的な主体性を認めて、在寮中の17人のうち14人について「立ち退く必要がない」と判断。寮生側の主張をほぼ認めたが、大学側と一部寮生が控訴していた。

この日の協議でまとまった合意は(1)一審で勝訴した寮生に「在寮契約」が認められる(2)来年3月末までに一時退去するが、建替・耐震工事後に再入寮できる(3)食堂は明け渡し不要──。

寮生側が「現棟」と「食堂」の存続を勝ち取ったかたちだ。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

京都大学が、築112年の学生寮「吉田寮」の現棟と食堂の明け渡しを求め、寮生・元寮生40人以上を訴えた裁判。前代未聞とも言える大学と学生の法廷闘争は8月25日、大阪高裁で和解に至った。

一審の京都地裁は2024年2月、寮自治会の法的な主体性を認めて、在寮中の17人のうち14人について「立ち退く必要がない」と判断。寮生側の主張をほぼ認めたが、大学側と一部寮生が控訴していた。

この日の協議でまとまった合意は(1)一審で勝訴した寮生に「在寮契約」が認められる(2)来年3月末までに一時退去するが、建替・耐震工事後に再入寮できる(3)食堂は明け渡し不要──。

寮生側が「現棟」と「食堂」の存続を勝ち取ったかたちだ。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●吉田寮は「国内最古」の学生自治寮

画像タイトル 大阪高裁の入る建物

吉田寮は1913年建築の国内最古の学生自治寮。寮費は月額400円で120室を備える。

寮自治会と大学の間では、2015年まで「運営について一方的な決定を行わず、合意の上で決定すること」などとする確約書が交わされていた。

現棟の耐震工事については、2000年頃から寮自治会と大学側の団体交渉で話し合われてきた事項だった。

ところが、大学が2017年12月に方針を転換。老朽化の下で「可能な限り早急に学生の安全確保を実現する」ことが喫緊の課題であるとして、新規入寮の停止と全寮生の退去を求め始めた。

寮自治会は大学に話し合いの継続を求めたが、大学は応じず、寮の自治が「不適切」だと断定し、入寮募集をおこなわないよう求めるなど強硬姿勢を強めた。

寮自治会は2019年2月食堂の使用継続を条件として、安全対策のために現棟での居住を停止する譲歩案を示して、話し合いの再開を求めた。

しかし、大学側は受け入れず、2019年4月と2020年3月の2回にわたって、寮生や元寮生合わせて45人を提訴した(その後、一審判決時点で被告は40人となっている)。

●控訴審では「和解協議」が続けられてきた

一審は、在寮中17人のうち14人の立ち退き不要と判断する一方で、すでに退寮していた元寮生23人には明け渡しを命じた。この判決を不服として、在寮中の3人と元寮生3人が控訴。大学側も控訴した。

控訴審は2024年10月から始まり、寮生側の弁護団によると、裁判長が当初から「大学と学生の紛争であり、和解で解決したい」と提案したこともあり、和解協議が続けられてきた。

そして、7回目の協議となった8月25日午後、和解が成立した。

●寮の存続を勝ち取ったことが「大きな成果」

画像タイトル 記者会見の様子

この日、和解成立後、寮生と弁護団は大阪市内で記者会見を開いた。

森田基彦弁護士は「吉田寮の機能が存続することを勝ち取った」と強調する。

「我々は現棟は明け渡しをほするほどの老朽化には至っていないという評価で、今もそのままなのですが、補修したほうが間違いはないですし、寮の機能が存続することを勝ち取ったというのが1つの大きな成果だと考えております。

これまで寮生が頑張って、寮を残そうという運動が、この和解で結実したと思っています。

訴訟になったことは、原告の京都大学が褒められることは全然ないと思いますし、話し合って解決するのが本筋だと思います。和解をしたこと自体、評価すべきことではないかと考えています」

●寮生「大学は真摯に反省してほしい」

画像タイトル 記者会見の様子

和解内容は、寮自治会が2019年2月に示した譲歩案とほぼ一致する。

大学が方針を変えた2017年以前から寮で暮らしている大隈楽さん(博士課程)が、裁判で戦わざるを得なかった6年半近くを振り返った。

「裁判にとても長い時間がかかっただけではなくて、口頭弁論や和解協議に出席するときには授業やゼミを休まないといけないこともあるなど、生活への影響も大きなものでした。裁判で争うために弁護団にはご尽力いただきましたが、同時に寮生もさまざまな準備のために時間と労力を割かざるを得ませんでした。

本来であれば、使う必要のなかった時間や労力を裁判に使わざるを得なかったのが、この6年半なのです。

しかし、結果として和解した内容は、もともと私たちが提案していた『条件付きで現棟を退去する案』と骨格は同じです。そうすると、私たちの提案を無視して裁判が起こされたこの6年半は本当に必要だったのかと思わざるをえません。

結局、現棟の老朽化という目下の課題については、大学が強権的な態度を改めて寮生と話し合いのテーブルにつくことが必要だったし、本当ならそうした協議はこの6年半の間にも進められたはずなのです。この間、寮生との対話を一切拒否し、裁判という手段に訴えたことについて京大当局には真摯に反省をし、対応を改めてほしいと思います」

●寮生「対話こそが、具体的な課題を解決に導く唯一の道だ」

和解によって寮の存続は確保されたが、課題は残る。耐震工事をめぐって、寮自治会と大学側が建設的に話し合いができるかどうかだ。

会見では、寮に住む中国人留学生でハン・イーファンさん(修士課程)が、話し合いの再開などを求める署名活動を始めることを明らかにした。

「大学と寮自治会は、食堂の補修や新棟の建設など、これまでも話し合いを通じて合意を重ねてきました。

裁判ではなく対話こそが、具体的な課題を解決に導く唯一の道だと思います。

また、現棟の建築的、歴史的価値を尊重した耐震補修を実施することも、署名を通じて求めていきます」

●大学と寮自治会が対話を再開できるかどうか

京都大学もコメントを発表した。和解について「寮生らは令和8年3月31日を期限に吉田寮現棟を退去し、本学に明け渡すことが約束されました」と退去を成果のように記載している。

一方で「本件寮生らの一部の者に対して一定の条件の下で、代替宿舎を提供し、また同工事後の新たな建物への入寮を認めることとしました」とも示した。

大学が学生を訴えるという異例の裁判は、学生の権利を一定程度認める形で終結した。しかし、2017年から続く混乱を終わらせるためには、大学と寮自治会が対話を再開できるかどうかが焦点だ。

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