8333.jpg
ギャンブル依存症の「自死遺族」が自助グループ立ち上げ「悲しい思いする人が増えないように」
2024年07月26日 10時03分
#ギャンブル依存症 #自死遺族 #ギャンブル依存症自死遺族会

ギャンブル依存症で自殺した人たちの遺族がこのほど、自助グループ「ギャンブル依存症自死遺族会」を立ち上げた。これまでも自死遺族の自助グループは全国にあったが、ギャンブル依存症に絞った団体は初めて。厚生労働省・依存症民間団体支援事業の一つで、7月20日に設立セミナーが東京都内で開かれ、代表をつとめる神原充代さんが講演した。(ライター・渋井哲也)

ギャンブル依存症で自殺した人たちの遺族がこのほど、自助グループ「ギャンブル依存症自死遺族会」を立ち上げた。これまでも自死遺族の自助グループは全国にあったが、ギャンブル依存症に絞った団体は初めて。厚生労働省・依存症民間団体支援事業の一つで、7月20日に設立セミナーが東京都内で開かれ、代表をつとめる神原充代さんが講演した。(ライター・渋井哲也)

●長男は電車に飛び込んで亡くなった

神原さんの長男は2022年4月3日、29歳の若さで亡くなった。

この日、埼玉県警から神原さんに電話があり、長男が事故か自殺で亡くなったことを直感したという。すぐに二男に連絡して、大阪から埼玉に向かった。

長男の死因は轢死だった。電車に飛び込んで亡くなったので、神原さんは「最後の姿」に対面できず、遺骨となった翌日に会えたそうだ。

「亡くなった姿を見ていないので、今でもどこかで生きているんじゃないか、どこかで元気に生きているんじゃないか、ギャンブルしているんじゃないかと思っています」

神原さんは、自分の両親、つまり長男の祖父母に直接会って伝えるかどうか迷った。埼玉から遺骨を持って帰りながら考えていると、二男が「俺が言う」と代わってくれたという。

●なかなか「居場所」を見つけられなかった

「お金を渡していれば。友だちを作ることができていれば。私がついていれば。施設に行かせた私が悪かったんじゃないか。一人暮らしをさせたのが悪かったんじゃないか。連絡を取っていれば。もうこればっかり毎日考えていました」

大阪に戻ってからも苦しんだ神原さんだが、話を聞いてくれる友人がいたので、少しずつ元気を取り戻した。

しかし、もっと楽になりたいと期待して、ギャンブルの問題の影響を受けた家族や友人の自助グループや自死遺族の会に行ってみたところ、逆に辛くなって「私の居場所はここじゃない」と思ったという。

その後、仕事に没頭して、長男のことを忘れる時間が長くなった。生活も落ち着いて、再び自助グループへ行ったが、やはり涙が溢れた。ある仲間は「無理して来なくていい」ということを言ってくれたという。

「私は救われました。仲間に恵まれていました。みんなが私のことを気にしてくれ、長男の命日には自宅まで手を合わせに来てくれました。本当にうれしかった」

●「悲しい思いをする人が増えないようにしたい」

そんな中で、ギャンブル依存症自死遺族会の設立の話が浮上した。

「私の経験が誰かの役に立てるのであればいいと思いました。(ギャンブル依存症の家族が)死んでしまうと、こんな悲しい思いをする。そういう人が増えないようにしたい。そして、私自身が話せる場がほしいと思いました。

何よりもギャンブル依存症で自死する人がいるということを伝えたい。そして、ギャンブル依存症で自死する人をなくしたい、撲滅したいという思いが一番にあります。

正しい知識を持てば、ギャンブル依存症は回復できます。しかし、死に至る病気でもあります。まずは当事者や家族も仲間につながってほしい。

恥ずかしいことではありません。隠さずに助けを求めてください。そして、仲間を信じて行動してください」

●専門家「依存症が自殺関連行動を引き起こす」

画像タイトル 精神科医の松本俊彦さん

ところで、なぜギャンブル依存症が自殺に結びつくのかだろうか。精神科医の松本俊彦さんが設立セミナーの講演で解説した。

自死遺族に聞き取りをする「心理学的剖検」調査を松本さんたちがおこなったところ、自殺既遂者の21%がアルコールの問題を抱えていたことがわかったという。そのすべてが男性で、中高年の有職者だった。

中には、返済困難な借金や事業の失敗、失業、ギャンブルの問題を抱えていた人もいた。あるいは、うつ病の問題が関連して、それらが男性の自殺の要素になっているそうだ。

また、松本さんの臨床経験によると、依存症によって借金や多重債務となり、職場で横領したり、失職したりすることで失踪につながるという。そのような中で、自殺をくわだてるパターンがあった。

また、子ども時代の暴力被害によるフラッシュバックがあり、その中で死にたい気持ちが湧き、それらの感情を紛らわせるためにギャンブルにおぼれて、経済的な困窮が訪れて、やはり自殺をくわだてるパターンがあったという。

これらを踏まえて、松本さんは下記のように分析して、依存症者本人だけでなく家族の自殺リスクも高めると注意を呼びかけている。

(1)依存症が衝動性を高め、直接的に自殺関連行動を引き起こす
(2)依存症によって人間関係が破綻するなどで孤立を深め、間接的に自殺を引き起こす
(3)依存症によって短期的には自殺を抑止するが、長期的には自殺リスクを高める

●タレントの高知東生さんも登壇した

画像タイトル タレントの高知東生さん(真ん中)

設立イベントのあとにおこなわれたパネルディスカッションでは、タレントの高知東生さんも登壇した。高知さんは高校生の頃、母親が自殺している。

当時を振り返り、高知さんは「お袋が死んだあとも、その気持ちに触れないでいました。だから、そのときの出来事が第三者に起きているような感じで日々を過ごしていた」「何気ない、よかれと思う言葉が、そのたびに突き刺さり、苦しかった。感情にフタをし、なんでもないふりをして、高校を卒業すると喧嘩三昧になっていった」などと話した。

イベント終了後、筆者の取材に対して、神原さんはこう答えた。

「現在のメンバーは全国バラバラに住んでおり、今日初めてつながった人もいます。私自身、まずは話すことで楽になるという経験をしています。話していい場所の提供が一番です。

もちろん、ギャンブル依存症の当事者本人や家族も(考える会などに)繋がってもらい、死ななくていいようにしてほしい。それでも不幸にして自死した人の家族は、私たちにつながってほしいです」

現在、ギャンブル依存症自死遺族会のメンバーは6人。当面は、オンラインのミーティングで痛みや苦しみを共有したり、全国各地で設立セミナーを開いて体験を発表する。さらに相談窓口や法的なサポートもしていく。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る