8386.jpg
過労自死した若手医師の遺族「息子が命と引き換えに投げかけた」 医師の労働環境の改善うったえ
2023年12月15日 17時17分
#過労死

「息子はもう患者の命を救うことはできませんが、息子がその命と引き換えに投げかけた、過酷な医師たちの労働環境の問題が、少しでも改善されてほしいです」

そう訴えているのは、長時間労働の末に26歳という若さで自ら命を断った医師、高島晨伍(しんご)さんの母、順子さんだ。

晨伍さんは2022年5月に亡くなる前の1カ月間に、時間外労働時間が約208時間あったなどとして、労災認定された。「過労死ライン」とされる月80時間の残業時間を大きく上回っていた。100日間、休みなく働き続けていたことも明らかになっている。

しかし、いまだ医師の労働環境は改善されているとはいえず、少しでもこの問題を広く知ってもらおうと、晨伍さんの遺族は12月15日、東京・丸の内の外国特派員協会で記者会見を開いた。

「息子はもう患者の命を救うことはできませんが、息子がその命と引き換えに投げかけた、過酷な医師たちの労働環境の問題が、少しでも改善されてほしいです」

そう訴えているのは、長時間労働の末に26歳という若さで自ら命を断った医師、高島晨伍(しんご)さんの母、順子さんだ。

晨伍さんは2022年5月に亡くなる前の1カ月間に、時間外労働時間が約208時間あったなどとして、労災認定された。「過労死ライン」とされる月80時間の残業時間を大きく上回っていた。100日間、休みなく働き続けていたことも明らかになっている。

しかし、いまだ医師の労働環境は改善されているとはいえず、少しでもこの問題を広く知ってもらおうと、晨伍さんの遺族は12月15日、東京・丸の内の外国特派員協会で記者会見を開いた。

⚫️最期の手紙に「限界です」

晨伍さんは当時、神戸市の甲南医療センターに勤める医師だった。記者会見で、自らも医師である兄は「弟は、患者さんの命を救ってきた医師である父の姿をみて、医師になりました」と明かした。

父と同じように、患者の命を救える消化器内科医への道を歩んでいたという晨伍さんだが、患者への対応や学会発表の準備などに忙殺され、徐々にすり減っていったという。

順子さんは記者会見で、その様子をつぶさに語った。

「亡くなる1カ月前には、趣味の野球観戦や音楽も楽しめなくなり、顔色が悪くなりました。『頭がまわらない』『誰も助けてくれない』と言っていました。私は『働きすぎはよくないよ』と言いました。

息子は『そんなことはわかってる。休みたいけど休めないんや。それならば仕事を減らして助けてくれ。もう明日起きたら、全てがなくなっていたらいいのに』と言っていました」

順子さんは「このとき、力づくでも下宿先から連れて帰るべきでした」と悲痛な思いを語った。その後、晨伍さんが下宿先で亡くなっているのを、心配になって訪ねた順子さんが発見したという。

晨伍さんが最期に残した手紙には、家族への感謝とともに、次のように書かれていた。

「知らぬ間に一段ずつ階段を昇っていたみたいです。おかあさん、おとうさんの事を忘れてこうならないようにしていたけれど限界です」

また、「病院スタッフの皆様」に宛てた手紙には、「さらに仕事を増やしご迷惑をおかけしてすみません」と気遣う言葉が記されていた。

⚫️若手医師が日本の医療の犠牲に

この日の記者会見には、厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」で副座長をつとめた渋谷健司医師(東京財団政策研究所)も同席し、医師の過酷な労働環境について述べた。

「日本では、勤務医の超過勤務の時間が突出しており、過労死の危険性が高まっています。日本医師会がおこなった2022年の調査では、『自殺や死を毎週/毎日具体的に考える』と回答した勤務医は4%にのぼっています。

日本の救急医療や地域医療は、従事する医師の時間外労働によって支えられており、勤務医が犠牲を払っていると言わざる得ません」

画像タイトル 渋谷健司医師(中央)

また、晨伍さんの兄も、医師という立場から次のように指摘した。

「患者の命を救わなければならない、自分の医療の技術を上げないとならないという、医師の使命感のもと、いつでも高度な医療を受けられるという医療が、日本ではギリギリ成り立ってきました。

しかし、その裏では私の弟のような若い医師が命を落としてきたという現状があります。まずは、各病院がしっかりと若手医師を守るための取り組みができると現場の医師として思っています」

一方で、「私も弟が亡くなるまでは、何が労働で、何が労働じゃないのかもわかりませんでした。患者に向き合うことで頭がいっぱいで、どれぐらい自分が働いていているかは、後回しになってしまっていました」とも語った。

「それが一番の問題で、医者の間で労働への意識があまりに低い。たくさん働いているということがある種の美徳になっています。その根本は、労働について医師が研修や教育を受けたことがないからです。

だからこそ、学生や医師に対して、研修や教育をしっかりと義務付けていく必要があるのではないかなと思っています」(兄)

順子さんたち遺族は、甲南医療センターを運営する法人を労働基準法違反で刑事告訴しているほか、国などに働きかけ、医師の労働環境改善を訴えている。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る