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ブラック誓約書「会社がセミナー費用払うから2年間は退職しない」、法的に有効?
2018年04月02日 09時51分

会社がセミナー費用を負担するから、2年間は退職しない――。そんな内容の誓約書にサインを求められたという投稿が、このほどSNS上で話題になりました。

この投稿者によると、会社側に対して、「該当の部分を変更するならば、セミナーに参加する」ということを伝えたところ、(1)実際に誓約書にサインした人でも退職した人はいる、(2)セミナーを受けないことは昇進で不利になる可能性もある――などと示唆されたそうです。

会社がセミナー費用を負担するから、2年間は退職しない――。そんな内容の誓約書にサインを求められたという投稿が、このほどSNS上で話題になりました。

この投稿者によると、会社側に対して、「該当の部分を変更するならば、セミナーに参加する」ということを伝えたところ、(1)実際に誓約書にサインした人でも退職した人はいる、(2)セミナーを受けないことは昇進で不利になる可能性もある――などと示唆されたそうです。

●「こんな誓約書は無効だ」

投稿者は誓約書へのサインは断ったということですが、もし仮にサインしたら、退職できなくなるのでしょうか。労働問題にくわしい竹花元弁護士に聞いてみたところ、「このような誓約書は無効である」ということです。

「労働者には『退職の自由』があります。『退職の自由』は、憲法上の『職業選択の自由』に裏付けられたもので、強く保護されています。会社との間で『退職しない』という合意を取り交わしても無効です。仮に、会社が誓約書を盾にして『2年間退職しない約束だ』と主張しても、労働者は退職することができます」(竹花弁護士)

●「セミナー費用」を返すよう求められたら

セミナー費用をめぐっては、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも「退職後に会社から返還を求められた」という相談が寄せられています。セミナー受講後に退職できたとして、その費用を返すよう求められた場合はどうでしょうか。

「セミナー費用の返還について、会社と労働者の間で特別な合意をしていない場合、会社はいったん支出したセミナー費用の返還を求めることはできません。返還を求める根拠がないからです」(同上)

●「退職したら返還する」という誓約書にサインしていたら

それでは、「セミナー受講後の2年以内に退職した場合は、会社が負担したセミナー費用相当額を返還しなければならない」という約束を、会社と労働者の間で取り交わした場合はどうでしょうか。

「労働基準法は、使用者(会社)は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない、としています(労働基準法16条・賠償予定の禁止)

この条文のねらいは『違約金や損害賠償額の予定のような金銭的支払いを背景に、労働者の自由意思を拘束して、<退職の自由>を奪うのを防ぐこと』にあります。

そうすると、『一定期間経過前に退職したらセミナー費用を返す』という合意は、この条文に違反することになります。労基法に違反する約束は無効なので、この合意はなかったことになります。結局、会社はセミナー費用の返還を求めることはできません」(同上)

●「セミナー費用」の返還が認められることも

会社側は、労働者の在職中のセミナー費用(「研修費用」「資格取得費用」「留学費用」など)の返還を求めることは一切できないのでしょうか。

「会社が、労働契約とは別に(1)セミナー費用相当額を従業員に貸し付けて(金銭消費貸借契約)、(2)セミナー受講後一定期間を経過したら、返還義務を免除するという合意(『免除特約付金銭消費貸借契約』)をすれば、一定の場合にセミナー費用の返還が認められます」(同上)

●セミナーと業務の「関係性」がポイントとなる

竹花弁護士によると、セミナーや研修、資格などの「業務性」がもっとも重要なポイントになるそうです。

「セミナーが主に会社利益のためであり、業務との関連性も強い場合は、本来、その費用は会社が負担すべきものです。『免除特約付金銭消費貸借契約』も、労基法16条により無効とされます。

一方、セミナーと業務の関連性が弱く、主に従業員の個人的利益に資するようなものであるときは、『免除特約付金銭消費貸借契約』が有効と判断されます。この点に照らすと、会社の業務を遂行するために必要不可欠なセミナーを受けたり、資格を取得する費用については、『業務性』が強く、会社は返還を求めることができません。

一方、海外のMBA(経営学修士)を取得したり、大学院で教育を受けるという場合は、その会社独自の業務との関連性は低く、従業員のキャリアアップという側面が強くなります。『免除特約付金銭消費貸借契約』をきちんと結んでいれば、会社は費用の返還を求めることができる場合が多いでしょう」(同上)

●それでも「あまりに長期にわたって退職を妨げること」はできない

返還免除の期間や方法については、どう考えればいいのでしょうか。

「業務との関連性が弱く、費用の返還が認められる場合であっても、あまりに長期にわたって退職を妨げることはできません。返済するまでの期間が長いと、事実上、退職が妨げられることになるからです。これまでの裁判例をみると、返済を免除するまでの一定期間は、1〜3年間にとどめるのが適切であると考えられます。

また、セミナー費用の返還が認められる場合であっても、返還金額が高額に及ぶ場合には、現実的可能性のある返済期間内の返済方法によらないと、事実上『退職の自由』が制限されるとして、労基法16条違反の疑問が出てきます」(同上)

(弁護士ドットコムニュース)

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