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ネットにあふれる個人情報 「忘れられる権利」はなぜ必要か?
2013年06月22日 11時23分

インターネットに情報が集約されてきた現在、個人のプライバシーにかかわるような情報が、ちょっと検索するだけでずらずらと出てくる。なかには、必ずしも本人が公開してほしくない情報も含まれているだろう。そういったプライバシー情報がネットで公開されていたとき、掲載サイトの管理者に削除を要求できる権利、それが「忘れられる権利」だ。

今はまだ「人権」として広く認められているとまでは言えないが、インターネット上のアンケート投票サイト「ゼゼヒヒ」では、実に83%もの人が「忘れられる権利が必要」と回答している(6月20日現在)。ヨーロッパなどでも同種の議論は活発化している。誰しも「忘れてほしい話」の一つや二つはあるということだろう。

だが「ネットは広大」だ。サイト管理者の責任や、権利の及ぶ範囲などを定め、権利の実効性を確保するためには、まだ様々なハードルがあるように思われる。いま日本では「忘れられる権利」について、どのような議論が行われているのだろうか。ネット情報の削除問題に取り組んでいる神田知宏弁護士に聞いた。

●現状では、「誰に連絡すれば消してもらえるのか」さえ、なかなかわからない

「『忘れられる権利』は、インターネット時代の新しい権利のアイデアであり、昨年EUで提案されました。プライバシー権に近いとも捉えられますが、人の名誉権や、刑事手続の対象となった者が『更生する利益』なども含んでおり、憲法上は『幸福追求権』『人格権』の1つと考えられます」

――なぜいま、それが問題なのか。

「インターネットは『決して忘れてくれない』。つまり、ずっと情報が残ってしまうからです。個人の名前で検索すれば、その人に関するいろいろな情報が表示されます。たしかに、中には重要な話(公益性の高い話)もあるでしょうが、井戸端会議や単なる噂話レベルのものも、個人名検索でどんどん出てきます。

『忘れてほしいのに、忘れてもらえない』のは、つらいことだと、みなさん異口同音に話します。ネットの情報が気になって眠れない人や、心の病気・体調不良を訴える人が『どうすれば削除してもらえるのか』と、私のところへ相談にやってきます」

――忘れられる権利を使うためには、誰に対して、どういう要求をすればいいのか。

「要求の内容は、個人の情報をネットから削してもらうことです。そのための方法は、裁判所の『削除仮処分』や、テレコムサービス協会(テレサ協)の『送信防止措置依頼書』を使った削除請求です。

ただ、誰に対して、というところが問題です。インターネットの情報発信者の多くは匿名だからです」

――その場合、どうする?

「情報発信者が分からない場合は、ブログや掲示板の管理会社、サーバー管理会社に削除依頼を送ることになりますが、場合によってはそれらの会社さえ不明というケースもあります。また、外国企業の管理しているサイトであれば、ハードルはさらに高くなるため、問題は深刻です。

現行法では、サイトに連絡先を表示する義務はありません。いったい誰にどうやって削除請求を送ればよいのか。これが分かるだけでもずいぶん見通しが違います。私は、このあたりの法整備が急務と感じます」

●インターネット時代に合った判断が求められている

――どんな場合なら「消してくれ」と要求できるのか。

「これは、一方で表現の自由があり、他方で忘れられる(表現されたくない)権利があるとき、どちらを優位させるかという問題です。はたして削除してよいのか、削除請求された人が迷うケースもあるはずです。一般的な『プライバシー侵害』の裁判では、いまでも『宴のあと』事件判決が示した以下の3要件が使われている印象です。

(1)私生活上の事実、または、それらしく受け取められるおそれのある事実

(2)その人の立場なら公開されたくないだろう、と一般人が思うような事実

(3)まだ、一般に知られていない事実

これらの全てに当てはまれば『プライバシー侵害』となりますが、インターネットの情報では、この(3)が大きな争点となります」

――その理由は?

「インターネットに書いてある情報は、すでに『一般に知られていない事実』とは言えないのではないか、ということです。『インターネットに出ていた情報のコピペであり、(3)には当てはまらず、プライバシー侵害にならない』と、そういう主張をされることも珍しくありません。

しかし、ネットのどこかにその情報があったというだけでは、実際にどのくらいの人がその情報に接していたかはわかりませんし、『みんなが知っている』とまで断言するのは疑問です。高裁レベルの判決では、(3)に当てはまるという判断も、当てはまらないという判断も両方でています」

――インターネット時代にふさわしい新基準はある?

「私が“ここに行き着くだろう”と考えているのは、和歌山カレー事件の被疑者・被告人の法廷内での様子を隠し撮りなどした事件の民事裁判で、最高裁が示した基準です。

それは、(不法行為法上)違法かどうかは、さまざまな事情を総合考慮し、『人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える』かどうかで判断するという基準です。要するに、諸事情から考えて、我慢すべき限度を超えているかどうかがポイントです。

これを『忘れられる権利』に当てはめると、一方で心身の不調を訴え平穏な生活を脅かされている人がいること、他方で情報の持つ公益性・社会的重要性があることなど、諸事情を考慮したうえで、それが我慢すべき限度を超えていれば、情報を削除してよいということになります」

神田弁護士は「結局のところこの分野では、判例も法整備も、インターネット時代に追いついていないというのが実情です」と指摘。「この夏からのネット選挙運動解禁は、ネット時代の表現問題を検討する良い機会ですので、ぜひ立法、行政、司法で取り組んでほしいと思います」と、期待を込めていた。

(弁護士ドットコムニュース)

インターネットに情報が集約されてきた現在、個人のプライバシーにかかわるような情報が、ちょっと検索するだけでずらずらと出てくる。なかには、必ずしも本人が公開してほしくない情報も含まれているだろう。そういったプライバシー情報がネットで公開されていたとき、掲載サイトの管理者に削除を要求できる権利、それが「忘れられる権利」だ。

今はまだ「人権」として広く認められているとまでは言えないが、インターネット上のアンケート投票サイト「ゼゼヒヒ」では、実に83%もの人が「忘れられる権利が必要」と回答している(6月20日現在)。ヨーロッパなどでも同種の議論は活発化している。誰しも「忘れてほしい話」の一つや二つはあるということだろう。

だが「ネットは広大」だ。サイト管理者の責任や、権利の及ぶ範囲などを定め、権利の実効性を確保するためには、まだ様々なハードルがあるように思われる。いま日本では「忘れられる権利」について、どのような議論が行われているのだろうか。ネット情報の削除問題に取り組んでいる神田知宏弁護士に聞いた。

●現状では、「誰に連絡すれば消してもらえるのか」さえ、なかなかわからない

「『忘れられる権利』は、インターネット時代の新しい権利のアイデアであり、昨年EUで提案されました。プライバシー権に近いとも捉えられますが、人の名誉権や、刑事手続の対象となった者が『更生する利益』なども含んでおり、憲法上は『幸福追求権』『人格権』の1つと考えられます」

――なぜいま、それが問題なのか。

「インターネットは『決して忘れてくれない』。つまり、ずっと情報が残ってしまうからです。個人の名前で検索すれば、その人に関するいろいろな情報が表示されます。たしかに、中には重要な話(公益性の高い話)もあるでしょうが、井戸端会議や単なる噂話レベルのものも、個人名検索でどんどん出てきます。

『忘れてほしいのに、忘れてもらえない』のは、つらいことだと、みなさん異口同音に話します。ネットの情報が気になって眠れない人や、心の病気・体調不良を訴える人が『どうすれば削除してもらえるのか』と、私のところへ相談にやってきます」

――忘れられる権利を使うためには、誰に対して、どういう要求をすればいいのか。

「要求の内容は、個人の情報をネットから削してもらうことです。そのための方法は、裁判所の『削除仮処分』や、テレコムサービス協会(テレサ協)の『送信防止措置依頼書』を使った削除請求です。

ただ、誰に対して、というところが問題です。インターネットの情報発信者の多くは匿名だからです」

――その場合、どうする?

「情報発信者が分からない場合は、ブログや掲示板の管理会社、サーバー管理会社に削除依頼を送ることになりますが、場合によってはそれらの会社さえ不明というケースもあります。また、外国企業の管理しているサイトであれば、ハードルはさらに高くなるため、問題は深刻です。

現行法では、サイトに連絡先を表示する義務はありません。いったい誰にどうやって削除請求を送ればよいのか。これが分かるだけでもずいぶん見通しが違います。私は、このあたりの法整備が急務と感じます」

●インターネット時代に合った判断が求められている

――どんな場合なら「消してくれ」と要求できるのか。

「これは、一方で表現の自由があり、他方で忘れられる(表現されたくない)権利があるとき、どちらを優位させるかという問題です。はたして削除してよいのか、削除請求された人が迷うケースもあるはずです。一般的な『プライバシー侵害』の裁判では、いまでも『宴のあと』事件判決が示した以下の3要件が使われている印象です。

(1)私生活上の事実、または、それらしく受け取められるおそれのある事実

(2)その人の立場なら公開されたくないだろう、と一般人が思うような事実

(3)まだ、一般に知られていない事実

これらの全てに当てはまれば『プライバシー侵害』となりますが、インターネットの情報では、この(3)が大きな争点となります」

――その理由は?

「インターネットに書いてある情報は、すでに『一般に知られていない事実』とは言えないのではないか、ということです。『インターネットに出ていた情報のコピペであり、(3)には当てはまらず、プライバシー侵害にならない』と、そういう主張をされることも珍しくありません。

しかし、ネットのどこかにその情報があったというだけでは、実際にどのくらいの人がその情報に接していたかはわかりませんし、『みんなが知っている』とまで断言するのは疑問です。高裁レベルの判決では、(3)に当てはまるという判断も、当てはまらないという判断も両方でています」

――インターネット時代にふさわしい新基準はある?

「私が“ここに行き着くだろう”と考えているのは、和歌山カレー事件の被疑者・被告人の法廷内での様子を隠し撮りなどした事件の民事裁判で、最高裁が示した基準です。

それは、(不法行為法上)違法かどうかは、さまざまな事情を総合考慮し、『人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える』かどうかで判断するという基準です。要するに、諸事情から考えて、我慢すべき限度を超えているかどうかがポイントです。

これを『忘れられる権利』に当てはめると、一方で心身の不調を訴え平穏な生活を脅かされている人がいること、他方で情報の持つ公益性・社会的重要性があることなど、諸事情を考慮したうえで、それが我慢すべき限度を超えていれば、情報を削除してよいということになります」

神田弁護士は「結局のところこの分野では、判例も法整備も、インターネット時代に追いついていないというのが実情です」と指摘。「この夏からのネット選挙運動解禁は、ネット時代の表現問題を検討する良い機会ですので、ぜひ立法、行政、司法で取り組んでほしいと思います」と、期待を込めていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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