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スパイ疑惑の中国の外交官を、日本は罪に問うことができるのか
2012年07月19日 14時03分

中国の外交官がスパイ活動をしていた疑惑が浮上した。

報道によると、2007年より在日中国大使館の1等書記官に赴任した人物が、2008年4月頃に身分や住所を偽った虚偽の内容で外国人登録証明書の更新を東京都葛飾区に申請し、その後不正に更新された証明書を利用して銀行口座を開設していたことが明らかになった。この銀行口座には中国への事業展開を検討していた企業からの顧問料の振込があり、この人物が外交関係に関する基本的な多国間条約であるウィーン条約で禁じられている商業活動を行なっていた疑いがある。

●公安部では当初から注意していた人物

振込金がどのように使われたのかは警視庁公安部が捜査しているとのことだが、この人物は日本の政財界の要人と接触していたようで、ただの商業活動に留まらずスパイ活動を行なっていた疑惑がもたれている。もともと中国人民解放軍の情報機関「総参謀部」の出身で、来日当初から公安部では注意していた人物だったようだ。

公安部は外務省を通じてこの人物の出頭を中国側に要請していたが、中国側は出頭を拒否し、この人物は既に中国に帰国していると報じられている。

それではこの人物に対して、日本としてはどのような追及が可能なのだろうか。

●外交官には裁判を免除されたり、逮捕されない特権がある

国際法に詳しい松野絵里子弁護士によると、
「関係する条約に、外交関係に関するウィーン条約という条約があります。これは、古くから外交官の特別な地位については各国が承認してきたので、それを明文化して整理するために、外交官の特権について規定した条約です。」

「外交官というのは、正式には、自国を代表し、外交任務を行う資格を持つ公務員のことをいいます。その外交官の任務を遂行させるため歴史的に通常の国民にはない特権が認められてきたのですが、その特権によって、刑事裁判を免除されたり、抑留し又は拘禁が禁止されたりということになります。つまり、犯罪を犯してもその国で刑事裁判の対象にならないし、警察も逮捕できないのです。」

「そうなると、例えば外交官が犯罪者の時、全く裁かれないの?ということになりますが、外交官を派遣した国のほうで、その外国の裁判権の免除を放棄することができますので、そうなれば通常の人と同じ扱いになります。」

●日本は抗議しかできない

つまり今回のスパイ疑惑の場合、この外交官に対して日本には逮捕権や裁判権がなく、中国側が裁判権の免除を放棄しない限りは、外交において抗議することしかできないというのが実状のようだ。

現在も尖閣諸島の領有権を巡る問題など、決して穏やかとはいえない状態にある日中関係だが、外交官のスパイ疑惑という極めて異例の事態について今後の捜査により事実関係が明らかになること、そして二度とこのような疑惑が生じることがないことを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

中国の外交官がスパイ活動をしていた疑惑が浮上した。

報道によると、2007年より在日中国大使館の1等書記官に赴任した人物が、2008年4月頃に身分や住所を偽った虚偽の内容で外国人登録証明書の更新を東京都葛飾区に申請し、その後不正に更新された証明書を利用して銀行口座を開設していたことが明らかになった。この銀行口座には中国への事業展開を検討していた企業からの顧問料の振込があり、この人物が外交関係に関する基本的な多国間条約であるウィーン条約で禁じられている商業活動を行なっていた疑いがある。

●公安部では当初から注意していた人物

振込金がどのように使われたのかは警視庁公安部が捜査しているとのことだが、この人物は日本の政財界の要人と接触していたようで、ただの商業活動に留まらずスパイ活動を行なっていた疑惑がもたれている。もともと中国人民解放軍の情報機関「総参謀部」の出身で、来日当初から公安部では注意していた人物だったようだ。

公安部は外務省を通じてこの人物の出頭を中国側に要請していたが、中国側は出頭を拒否し、この人物は既に中国に帰国していると報じられている。

それではこの人物に対して、日本としてはどのような追及が可能なのだろうか。

●外交官には裁判を免除されたり、逮捕されない特権がある

国際法に詳しい松野絵里子弁護士によると、
「関係する条約に、外交関係に関するウィーン条約という条約があります。これは、古くから外交官の特別な地位については各国が承認してきたので、それを明文化して整理するために、外交官の特権について規定した条約です。」

「外交官というのは、正式には、自国を代表し、外交任務を行う資格を持つ公務員のことをいいます。その外交官の任務を遂行させるため歴史的に通常の国民にはない特権が認められてきたのですが、その特権によって、刑事裁判を免除されたり、抑留し又は拘禁が禁止されたりということになります。つまり、犯罪を犯してもその国で刑事裁判の対象にならないし、警察も逮捕できないのです。」

「そうなると、例えば外交官が犯罪者の時、全く裁かれないの?ということになりますが、外交官を派遣した国のほうで、その外国の裁判権の免除を放棄することができますので、そうなれば通常の人と同じ扱いになります。」

●日本は抗議しかできない

つまり今回のスパイ疑惑の場合、この外交官に対して日本には逮捕権や裁判権がなく、中国側が裁判権の免除を放棄しない限りは、外交において抗議することしかできないというのが実状のようだ。

現在も尖閣諸島の領有権を巡る問題など、決して穏やかとはいえない状態にある日中関係だが、外交官のスパイ疑惑という極めて異例の事態について今後の捜査により事実関係が明らかになること、そして二度とこのような疑惑が生じることがないことを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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