「モテたいと思って弁護士になりましたが、弁護士になる前からモテないやつは弁護士になってもモテないんですよ」
厳しい司法試験をくぐりぬけた松澤勇弥弁護士(31歳)はこう言う。昨年、民放の婚活番組に出演した。年上の女性とカップル成立したが、すぐにお別れして今も婚活を続けている。
日弁連の調査(2020年)によれば、7割以上の弁護士が結婚している。だからといって、望めば容易く結婚できるというわけではない。
「弁護士ではなく、自分という人間を見てほしい」 「同業者はNG」 「家事がうまい人がいい」 「まわりの弁護士はマッチングアプリを使っている」
法曹界の“n=1”にすぎない話ではあるが、リアルな恋愛観と婚活事情を赤裸々に語ってもらった。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●男性弁護士も共働きが増加、女性弁護士は弁護士と結婚する傾向にある
松澤弁護士は昨年、婚活応援番組『セ婚ド!』(フジテレビ系)に出演した。各6人、計12人の“訳あり”男女が婚活アドバイザーの助けを借りながら、2泊3日の婚活キャンプを通じて、カップル成立を目指す。
「早稲田大学卒、年収1000万円、弁護士」の肩書きを用意されて臨み、30代後半の女性とカップル成立した。
少し古いデータになるが、弁護士のライフスタイル(2019年時)について日本弁護士連合会(日弁連)が弁護士を対象とした調査がある(2020年3月19日〜同年6月3日実施)。
この調査によれば、結婚している弁護士は71.2%、結婚経験者は75.2%(男性76.0%、女性71.9%)。
配偶者の仕事としてもっとも多いのは、男性弁護士では「専業主婦(専業主夫)・無職」が41.6%。女性弁護士では「弁護士」が45.6%となり、同調査では、男女の弁護士でライフスタイルの違いがある傾向がうかがわれると指摘されている。
一方、男性弁護士では配偶者が「給与所得者」と回答したのは、6.4%(2010年調査)から23.2%に増えた。
修習期が59期(=司法修習期2005年)以前では配偶者の仕事は「専業主夫・専業主婦・無職」が最多だったが、60期以降は給与所得者が最多となっていることもあり、世代が進むにつれ、共働きの傾向が進んだとも捉えられそうだ。
弁護士の結婚をめぐる状況の概要をざっくりさらったところで、松澤弁護士(73期=司法修習期2019年)の話を聞いていく。
●松澤弁護士「モテる人は弁護士になってもモテる。その逆も真なり」
——ご自身や周りの弁護士の婚活事情を聞いていきます。
まず最初に結論から申し上げると「モテる人は弁護士になってもモテる、モテない人は弁護士でもモテない」とわかりました。
——それは「モテない側」からの見解でしょうか?
はい。私が弁護士になろうと思った動機の一つが「モテたい」でした。ほかの先生(弁護士)だって、聞かれたりしないし、自ら言わないだけであって、モテたいから弁護士になった人もいるんじゃないでしょうか。社会正義の実現や困っている人の役に立ちたいという思いもありますし、モテたいという気持ちも、偽らざる本心です。
●弁護士の肩書きは恋愛・結婚市場において「強いカード」か?
——「弁護士」の肩書が恋愛に良い影響を与えた実感はないのでしょうか。
2021年4月に弁護士登録して現在5年目ですが、モテたと感じたことはあまりありません。女性とお会いするときにアドバンテージになることもあるんですけど、相手にフィルターがかかって弁護士としてしか見てくれず、人として見てもらいにくいと感じています。やはり「私」を見てほしいという気持ちがあります。
——「モテ」以外に弁護士を志望したきっかけを教えてください。
珍しいケースですけど、高校生のころ、母から「性格はこの業界向いてるんじゃないか」とすすめられたからです。私もこれといって他にやりたいこともなかったので、流されるままに。
松澤勇弥弁護士(2025年7月/弁護士ドットコム)
——交際のご経験は。
大学時代に出会った同級生の彼女、アルバイト先の方など数人です。あのころの出会いは「自然な形」でしたね。それ以降の出会いですが、マッチングアプリは使ったことがありません。あとは飲み会。いわゆる合コンですね。男性側は弁護士だけだったこともあります。
お相手はCA(キャビンアテンダント)さんとか、美容などをやっているかたです。あとは企業にお勤めのかたも。
仲の良い飲食店さんから「女性のお客さんが1人で飲みに来ていて、誰かと飲みたいと言っているからどう?」と電話で呼んでくれるような出会いもあります。
両親が結婚した30歳までに結婚したいと思っていたんですけど、今は35歳までにできればと考えています。
——インタビューが始まる前に女性の弁護士は結婚相手として遠慮したいと言っていました。弁護士や裁判官、検察官は考えていますか。
考えていません。現在50歳くらいの先生(弁護士)たちは裁判所の職員さんと結婚したこともあったそうですけど、若手ではあまり聞きません。
どんな仕事であっても、同業者はちょっとイヤだというのがあります。お互いの仕事に理解があるほうがよいとか聞きますが、逆に理解があるから互いの仕事に口出ししちゃうこともあると思うんです。僕はあまり口を出されたくないので、そういう意味で。
●アプリに頼る弁護士たち
——まわりの婚活中の弁護士はどうやって出会うのか聞いていますか。
ほとんどアプリです。アプリで出会って結婚まで行き着いた人もいます。私の期ぐらいの弁護士でも、大学時代や修習同期のうちに付き合ってそのまま結婚する例もありますが、今はアプリでの出会いが主流ですね。お見合いとかも聞きません。結婚相談所に登録している弁護士もいるとは思いますが、私は登録していません。
——マッチングアプリ利用者の中に結構な数の弁護士がいるということでしょうか
はい。弁護士はめちゃめちゃ多いと思います。私も弁護士向けの婚活アプリがあれば登録したいです。いいかたがいれば結婚したいという気持ちはあります。
——巷のアプリには「ニセ弁護士」もいることがあるそうなので、日弁連のサイトなどで氏名を検索するなど確認が必要ですね。
はい。逆に、弁護士になるまでに勉強ばかりでまったく恋愛や遊んでこなかった男性のなかには、婚活で出会った女性にうまいことだまされているんではないかと感じるようなかたもいます。
私の先輩弁護士のケースでは、数十万円の高級ブランド品をプレゼントしたのに、自分の誕生日のプレゼントは1万円だったかたも。ご本人たちがよければいいんですけど。大丈夫なのかなと思います。
——結婚経験のある先輩弁護士からアドバイスは?
精神的に安定した女性がいいよと言われますね。家を守ってもらわなきゃいけないので、精神的に自立している人がいいよと。
勢いも大事だと言われます。選んでいると結婚できなくなるからですかね。
●土日も関係ないので家事をやってもらえるとありがたい
——現実的にはどのような結婚生活を想像しているでしょうか。男女共働き、家事育児の夫婦共同参加の広がりやライフスタイルの多様化が言われますが、弁護士も企業に所属したり(インハウス)、さまざまなスタイルが選べます。
弁護士はある程度は時間を自由に使えるという面もありますが、逆に言うと今は土日も関係ないので、共働きでもそうでなくても、家事をやってもらえると助かります。こんなことを言うと「お前がやれよ」とまた炎上しそうですが。
お相手は専業主婦でも共働きでも構いませんが、同じくらい忙しいとすれ違うかもしれないので、働き方は相談したいですね。
僕は片付けができないので、片付けができる女性だとうれしいですね。育児も、たとえば土日で私が休みのときには面倒を見られると思うんですけど、平日は家にいてもらえるとありがたい。
弁護士って、自分たちで仕事をコントロールできることもあり、できないこともあり、急に仕事がいっぱいもらえるときもあると思います。そういうときに頑張らないと、(売上が)小さくなってしまう。
——個別の状況で異なると思いますが、忙しさに着目すると、結婚相手として敬遠される仕事なのかもしれませんね。相手に理解してもらうか、弁護士側が妥協ラインをみつけて仕事と家庭を調整する努力をすることになりますね。
そうですね。
●本質的なことを女性から突っ込まれる
——先ほど、「弁護士」の肩書きはモテに関係ないといったことを話していましたが、婚活市場においても良い方向に作用しなくなったということでしょうか。
もちろん、プラス側には作用するとは思いますが、まわりを見ても、弁護士になる前からモテるやつは、弁護士になってからもモテる。そうでない人間は弁護士になってもモテないと感じます。
僕自身、本質的なところを女性から突っ込まれることがあります。
人間として器量が狭いと言われます。嫉妬しやすいんです。好きな女性が他の男性と仲良く話していると、態度に出ていることがあるらしくて。僕は出していないつもりなんですけど。付き合っていた女性からも、付き合っていない女性からも「小さい」と言われたことがあります。
自分が好きなんですよ。だからあまり気にしてないんだと思うし、自分が好きなのってとてもいいことなんですけど、自分のことしか考えてないということもよく指摘されるんです。
相手からLINEのメッセージがくると、早く返してほしいのに、自分の返したいタイミングで返しちゃうとか。
おそらく、僕は自分のことしか考えてないんですよ。あまり人を助けたいとかない。本当に自分が幸せに生きたいだけなんです。
●ぜんぜん立派ではない弁護士の自分も好き
刑事事件や少年事件なども担当していますが、だからと言って何も立派じゃないし。
少年事件で担当する少年から「僕は先生みたいに立派な大人になれないんで」と言われることもあるんですけど、見てわかるでしょ。全然立派な大人じゃないからと答えます。
出演した婚活番組の切り抜き動画がSNSでバズって、「デブおまえは痩せろ」などひどいことも言われましたが、それも見せます。
弁護士があまりに立派とか神格化されているのは違うと思っています。もちろんすごい人もいっぱいいるんですけど、そんなことはなくて、立派でもないですし、立派でもない自分のことが好きだし、普通に君たちと同じ人間なんだと伝えています。
被告、被疑者って我々と本当に何も変わらなくて、ちょっとしたボタンのかけ違いで犯罪をしちゃっていることが多い。逆に言えば、ちょっとしたきっかけがあれば、元の社会生活を送ることができるんです。
私にできることは限られていますけど、一生懸命に仕事に向き合いたいと考えています。
●「私はユウヤ派」の声も寄せられた
——婚活中のかたや弁護士にメッセージはありますか。
婚活番組に出たことで、誹謗中傷も受けたんですけど、私に好意的なことをおっしゃってくださる方も若干数いました。「私は断然、ユウヤ派でした」「弁護士じゃなくてもよかった」と。
婚活にうまくいかず、もしかしたら自分を好きになってくれる人はいないんじゃないかと思ってる方もいるかもしれないんですけど、自分に好意的な意見のかたは一定数います。絶対にいい人、自分に合う人はいるので行動してほしいです。一緒に頑張りましょう。
——結婚したからといってそれが必ずしもよいわけでもゴールでもないと思いますが、うれしい報告があればまた取材をさせてください。
こちらこそありがとうございました。
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