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4月から中小企業も残業代の割増率引き上げ、働く人が気をつけるべきポイント
2023年03月08日 10時02分
#知っておいて損はない!労働豆知識

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知ってほしい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第28回は「4月から中小企業も残業代の割増率引き上げ」です。これまでは大企業だけが対象でしたが、2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間を超える時間外労働をした場合、残業代の割増率が50%に引き上げられます。

笠置弁護士は「働き方改革を進める会社がたくさん出てくることが期待されますが、労働時間の隠ぺいを行い、残業代を支払わないという会社も残念ながら存在します」と注意を呼びかけます。

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知ってほしい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第28回は「4月から中小企業も残業代の割増率引き上げ」です。これまでは大企業だけが対象でしたが、2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間を超える時間外労働をした場合、残業代の割増率が50%に引き上げられます。

笠置弁護士は「働き方改革を進める会社がたくさん出てくることが期待されますが、労働時間の隠ぺいを行い、残業代を支払わないという会社も残念ながら存在します」と注意を呼びかけます。

●残業月60時間を超えると割増率が50%に

2023年4月1日から、月60時間を超える時間外労働をした場合の残業代の割増率が変更されます。

1カ月の時間外労働時間(1日8時間、週40時間を超える分)が60時間を超える場合の割増率につき、これまでは大企業のみが50%で、中小企業は25%のままだったのですが、これからは中小企業も50%となります。

たとえば、月60時間超の残業が深夜時間帯に行われた場合には、深夜割増分25%と合計して75%の割増分を加えた残業代を支払わなければなりません。

このような制度変更に合わせて、各企業では就業規則の変更作業が進められていると思われます。企業によっては、厚労省が進める働き方改革推進支援助成金制度を活用し、新制度に合わせて勤怠管理システムや就業規則を整備したというところも多いでしょう。

●長時間労働を抑えるための制度

今回の制度変更の趣旨は、言うまでもなく中小企業も含めた長時間労働の抑制です。月45時間を超える残業をしている場合、十分な休息が取れなくなってくることから健康リスクが高まり、脳心臓疾患や精神障害などにり患する可能性が出てきてしまいます。

月60時間超となると、いわゆる過労死ラインに匹敵する長時間労働となってしまうことから、ペナルティとして割増率をさらに引き上げることで、長時間労働をより強く抑制しようということになっているわけです。

さらに厚労省は、働き方改革推進支援助成金制度を作り、働き方改革を進める意欲のある企業に対し、一定の要件をクリアすることで助成金を出すという形で、働き方改革へのインセンティブを与える政策を進めています。

ところが、労基法で定められた労働時間の上限規制の適用が猶予になっている業界(建設、運輸、医師、鹿児島県及び沖縄県における製糖業)など、長時間労働が見込まれてしまっている職場は数多く存在します。そのような会社では、残業代の割増率が上がることで、人件費負担が大幅に増加してしまうことになります。

このような事態に直面し、法律の趣旨を踏まえ、働き方改革を進める会社がたくさん出てくることが期待されます。

しかし、中には働き方改革を進めるポーズだけをとり、改革を進める気もないのに助成金の不正受給を行いつつ、労働時間の隠ぺいを行い、残業代を支払わないという会社も残念ながら存在します(悪質な不正受給の事例は何件も公表されています)。

●労働時間の記録を忘れずに

ご自身の勤務先がこのようなタイプの会社であった場合、気をつけるべきポイントが2つあります。

1つは、これまでにも増して労働時間を隠ぺいさせようとしてくることです。助成金の不正受給をしている場合には、不正を隠したいことに加え、割増率が大幅に上がって人件費負担が増えることになるわけですから、「労働時間を申告するな」「仕事の途中でもタイムカードを切れ」などと言われる可能性がますます高まります。

これに対しては、あくまでも本当の労働時間を申告し続けたほうが良いのですが、それが現実問題なかなか難しいという場合でも、ご自身のスマホのGPS機能を使って行動履歴を残したり、ご家族にLINEを定期的に送るなどして、いざというときのために労働時間の記録に努めましょう。

●長時間労働による健康リスクも

もう1つは、法律を無視したりすり抜けようとする会社では、長時間労働が抑制されないことで、ご自身に精神疾患などの健康リスクが生じることです。

統計上、コロナ禍の中で労働時間が減った業界もあるのですが、職場によってはむしろ労働時間が増大しています。その中で、法律の改正によっても長時間労働が抑制されないとなれば、健康が損なわれるような事態が生じかねません。

たとえば、2012〜17年度に労災認定された過労自殺のおよそ半数が、精神疾患の発症から6日以内に起きていることが統計上明らかにされています。いったん過重労働によって精神疾患にかかってしまうと、正常な判断能力を失い、かなり早期の段階で最悪の結果につながりかねないことがわかります。

かなりのストレスがかかっていると自覚した場合には、法律を無視し働き方改革を進めようとしない会社に見切りをつけ、病状が本格的に進行しないうちに休んだり、場合によっては脱出(退職)することも検討しましょう。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

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