飲みの席で交わした何気ない会話が、後日、まさかの「請求」に発展するなんて——。
野球チームの立ち上げを話していた男性から、「ユニフォームを注文したから代金を払って」と突然連絡が来たという相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者によると、「その場で希望の背番号は言ったが、正式に参加を表明したつもりはない」といいます。勝手に注文されたユニフォーム代を請求されることに疑問を抱いているようです。
具体的な金額も提示され、一度は「払う」と口にしてしまったものの、冷静になったあと「やはり払いたくない」と考え直しています。このようなケースで、法的な支払い義務が生じる可能性はあるのでしょうか。齋藤裕弁護士に話を聞きました。
●背番号の希望だけでは「購入する意思表示」とは言いにくい
──飲み会で「希望の背番号」を伝えた場合、それが野球チームへの参加やユニフォーム購入に「同意した」ことになる可能性はあるのでしょうか。
契約は、2人以上の当事者が合意することで成立し、法的な効力を持ちます。ただし、その効力を持たせるには、法律効果を与えるにふさわしい「効果意思」が明確に示されている必要があります。
飲み会では、その場の雰囲気や冗談で発言されることも多く、通常は真剣に受け取られないでしょう。今回のケースでも、相談者は「希望の背番号」を伝えただけで、ユニフォームの注文や金額の確認といった具体的なやり取りはしていません。
そのため、契約が成立したと認められる可能性は低く、ユニフォーム代を支払う法的義務が発生するとは考えにくいでしょう。
●「払う」と言ったことで契約が成立する可能性も
──酒に酔っていなかった場合、「払う」と口にしただけで、支払い義務が確定してしまうことはありますか。
相手から具体的な金額を提示され、それに対して「払う」と明確に応じた場合、その時点で契約が成立する余地があります。
ただし、その一言だけで契約内容が確定したと評価できるかは微妙です。たとえば支払時期や方法、数量の確認など、契約に必要な要素が欠けていれば「契約が成立していない」と判断される可能性もあります。
結論としては、「払う」と言ったことによって、必ずしも法的義務が生じるわけではなく、状況によって判断が分かれるでしょう。
●飲み会での「同意」は要注意
──今後、同じようなトラブルを避けるために、飲み会での会話にどう対応すべきでしょうか。
飲み会のような場では、軽いノリで交わした言葉も、相手が真に受けてしまうことがあります。とくに冗談や曖昧な発言が伝わりにくい相手との会話では、誤解を招くおそれがあります。
参加の意思がない場合や、負担するつもりのない費用について話が出た場合は、その場ではっきりと「今回は参加しないつもりです」と伝えておくことが大切です。
気まずさを避けようとして曖昧な返答をすると、後々トラブルになるリスクもあるため、場の雰囲気に流されず、自分の意思をきちんと示すことが重要です。