941.jpg
「送料無料」はフィクション、店頭の欠品や遅配が起きる「物流危機」が間近に 2024年問題を議論
2023年05月28日 09時31分
#日本の雇用と労働

「物流の2024年問題」を知っていますか。2024年4月からトラックドライバーの長時間労働が見直され、物流が滞る可能性がある問題です。物流の停滞は消費者にとって大きな影響があります。

スーパーやコンビニの商品が欠品したり、宅配の翌日便の対象外になる地域が増えたりといったことが考えられるためです。5月23日に都内で開かれた、全日本交通運輸産業労働組合協議会(交通労協)のシンポジウムでは、消費者の行動変容をどう促すかについて関係者が話し合いました。(ライター・田中瑠衣子)

「物流の2024年問題」を知っていますか。2024年4月からトラックドライバーの長時間労働が見直され、物流が滞る可能性がある問題です。物流の停滞は消費者にとって大きな影響があります。

スーパーやコンビニの商品が欠品したり、宅配の翌日便の対象外になる地域が増えたりといったことが考えられるためです。5月23日に都内で開かれた、全日本交通運輸産業労働組合協議会(交通労協)のシンポジウムでは、消費者の行動変容をどう促すかについて関係者が話し合いました。(ライター・田中瑠衣子)

●長時間労働なのに低賃金のトラックドライバー

国土交通省「トラック運送事業の働き方をめぐる現状」によると、トラックドライバーの労働時間は全産業平均より約2割(300~400時間)長いです。それにもかかわらず、年間の賃金は全産業平均より1、2割低いのです。人手不足や高齢化も深刻な問題です。




働き方改革で、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限は、年間960時間に規制されます。上限を超えた場合は、運送事業者に罰則が課されます。

以前から問題だったドライバーの長時間労働が是正される一方で、輸送の見直しが課題になっています。また、長時間労働でも低賃金だったドライバーの収入が、上限規制されることでさらに減ってしまうのではないかという問題もあります。荷主にとっても輸送方法の見直しが迫られています。

2024年問題は物流事業者やドライバー、荷主、消費者に大きな影響がある問題なのです。シンクタンクの推計では、ドライバー不足と「2024年問題」の影響で、2030年にはおよそ34%の輸送能力が不足する可能性があります。このため国や業界団体が対策を話し合っています。

●スーパーで欠品、希望日に荷物届かない可能性も

ただ、2024年問題は、消費者に認知されているとは言い難い状況です。2022年の博報堂の調査では「物流が危機的な状況に陥りつつある」ことを見聞きした人は全体の53%でした。

消費者にはどんな影響が出るでしょうか。考えられることは、スーパーやコンビニで欠品が起こりやすくなり、遠隔地の野菜や魚介が入手しづらくなる可能性です。また、コロナ禍で通販の利用が増えましたが、希望日に荷物が届かなくなったり、配送料が上がるかもしれません。

●「当日配送など過剰なサービスを見直す必要がある」

5月23日のシンポジウムには国土交通省や物流事業者でつくる労組の代表らが出席し、消費者の行動変容の促し方などを話し合いました。

「物流の2024年問題」の対策や消費者への行動変容について討議した交通労協のシンポジウム 「物流の2024年問題」の対策や消費者への行動変容について討議した交通労協のシンポジウム

消費者がすぐに取り組めるのが、再配達を減らすことです。タワマンは、セキュリティーの高さなどから1つの荷物を運ぶために、30分以上かかることもあるといいます。政府は再配達を減らすために、まとめ買いや宅配ボックスや置き配、コンビニ受け取りの活用を呼び掛けています。

本来、配送は送料がかかるものですが、通販サイトの多くが「送料無料」をうたっています。交通労協の慶島譲治事務局長は「『送料無料』の表記は、配送の労働への想像力を欠如させる問題をはらんでいます」と指摘しました。全日本トラック協会では消費者に現状を知ってもらうために「送料無料じゃありません!」という主張を載せたインターネット広告を掲示しています。慶島事務局長は、当日、翌日配送など過剰なサービスを見直す必要性についても触れました。

全日本トラック協会のメッセージ 全日本トラック協会のメッセージ

運輸労連の福本明彦中央書記次長は「消費者にとって物流は空気のような存在で、何を運んでいるか分からないトラックがたくさん走っているように見えるかもしれません。でも、ペットボトルのお茶一つでも多くのトラックが関わっています。(2024年問題も)何とかなるんじゃないかという風潮が世間にはあるので、訴えていきたい」と言います。

トラックの代替として考えられるのが貨物列車です。JR連合の森安祐貴・産業政策局長は、人気のないダイヤを中心に貨物列車の3割は空いていると説明し、「通販ではお急ぎ便がありますが、逆の急がないという選択ができれば貨物列車を活用しやすくなるのでは。貨物鉄道の価値を世間に理解してもらうのが大事だと考えています」と話しました。

国交省「再配達削減PR月間」資料より https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000667.html 国交省「再配達削減PR月間」資料より https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000667.html

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る