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原発事故後に甲状腺がん、東電を提訴 原告女性「普通の大学生活、就活をしてみたかった」
2022年05月27日 16時43分

東京電力福島第一原発事故当時、福島県内に住んでいた当時6歳から16歳の甲状腺がんに罹患した子どもたちが原告となり、東京電力を提訴した裁判。甲状腺がんは原発事故の影響だとして、因果関係を明らかにするよう訴えている。

その裁判の第一回期日が5月26日、東京地裁で開かれた。傍聴整理券の配布に226人が並んだ注目の裁判。法廷では、原告の陳述に、あちこちから啜り泣く声が漏れていた。(ライター・吉田千亜)

東京電力福島第一原発事故当時、福島県内に住んでいた当時6歳から16歳の甲状腺がんに罹患した子どもたちが原告となり、東京電力を提訴した裁判。甲状腺がんは原発事故の影響だとして、因果関係を明らかにするよう訴えている。

その裁判の第一回期日が5月26日、東京地裁で開かれた。傍聴整理券の配布に226人が並んだ注目の裁判。法廷では、原告の陳述に、あちこちから啜り泣く声が漏れていた。(ライター・吉田千亜)

●「原告100人超の訴訟が起きてもおかしくない」

第一回期日の冒頭、原告側の河合弘之弁護士は、「本来であれば(原告)100人超の訴訟が起きてもおかしくない」と意見を述べた。

福島県内では、被ばくによる健康影響について意見が分かれ、自由にものが言えない空気がある。甲状腺がんに罹患した子どもたちは、家族にだけしか言えない、という人も多いと語った。

また、同じく原告側の熊澤美帆弁護士は、「人生の夢をあらかじめ奪われ、人生を制約されながら生きていかなくてはならない原告の苦しみを知ってほしい」と、裁判官の目を見て訴えた。

●医師が「手術しないと23歳までしか生きられない」

原告の1人の陳述は、7枚のパーテーション越しに原告が移動し、着席してから、一部のパーテーションが戻され、原告の姿は終始見えない形でおこなわれた。

陳述は、卒業式の様子から始まった。部活の友だちや後輩とたくさん写真を撮った3月11日。その後、友だちとビデオ通話をしている時に、激しい地震が起きた。

原告は、その後、原発事故が起きたことを知っていても、危機感はほとんどなかったという。そのため、3月16日の高校の合格発表には歩いて学校に行き、友だちと昇降口の外で長い間、立ち話をしていた。

「その日、放射線量がとても高かったことを私はまったく知りませんでした」(原告)

甲状腺がんは、福島県民健康調査で見つかった。検査の日は、新しい服とサンダルを履き、母の運転で検査会場に向かった。

「母に『あなただけ時間がかかったね』と言われ、『もしかして、がんがあるかもね』と冗談めかしながら会場を後にしました。この時はまさか、精密検査が必要になるとは思いませんでした」(原告)

この陳述のところで、原告は声をつまらせた。当時を思い出したのかもしれない。

その後、血液検査、エコー、穿刺細胞診をする頃には、「やっぱり何かおかしい」と思い、この頃には、「私は甲状腺がんなんだ」と確信があったという。3回も針をさされ、ようやく細胞をとることができた。

「医師は、甲状腺がんとは言わず、遠まわしに『手術が必要』と説明しました。その時、『手術しないと23歳までしか生きられない』と言われたことがショックで今でも忘れられません」(原告)

●大学に進学後に再発、2度目の手術

手術の前日の夜は、全く眠ることができず、泣きたくても涙も出なかったという。それでも原告は、「これで治るなら」と思い、手術を受けた。

病気の心配をした家族の反対もあり、第一志望の東京の大学をあきらめ、近県の大学に入学。しかし、その大学も、大学に入って初めての定期検診で再発が見つかり、大学を中退せざるをえなかった。

「『治っていなかったんだ』『しかも肺にも転移しているんだ』とてもやりきれない気持ちでした。『治らなかった、悔しい』この気持ちをどこにぶつけていいかわかりませんでした。『今度こそ、あまり長くは生きられないかもしれない』そう思い始めました」(原告)

2回目の手術は予定した時間よりも長引き、リンパ節への転移が多かったため、傷も大きくなってしまった。再び麻酔が合わず、夜中に吐き、痰の吸引も苦しかった。鎖骨付近の感覚もなくなり、今も違和感が残ると原告は訴える。

「手術跡について、自殺未遂でもしたのかと心無い言葉を言われたことがあります。自分でも思ってもみなかったことを言われてショックを受けました。手術跡は一生消えません。それからは常に、傷が隠れる服を選ぶようになりました」(原告)

●将来の夢よりも治療を最優先

手術後、肺転移の病巣を治療するためにアイソトープ治療も受けることになった。高濃度の放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲み、がん細胞を内部被ばくさせる治療だ。

アイソトープ治療は2回、外来で行ったが、がんは消えず、3回目はもっと大量のヨウ素を服用するために入院。過酷な隔離生活が待っていた。 しかし、その治療はうまくいかず、効果が出なかった。

「以前は、治るために治療を頑張ろうと思っていましたが、今は『少しでも病気が進行しなければいいな』と思うようになりました」(原告)

将来の夢よりも、治療を最優先してきたという原告。

「本当は大学を辞めたくなかった。卒業したかった。大学を卒業して、自分の得意な分野で就職して働いてみたかった。新卒で『就活』をしてみたかった。友だちと『就活どうだった?』とか、たわいもない会話をしたりして、大学生活を送ってみたかった」

再び涙声でそう語った。

同級生をみても、病院で同年代の医大生をみても、羨望の眼差しでみてしまう。そのことがつらい、と原告は訴えた。

「もとの身体に戻りたい。そう、どんなに願っても、もう戻ることはできません。この裁判を通じて、甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います」(原告)

第二回口頭弁論期日は、東京地方裁判所にて、9月7日14時の予定となっている。

【筆者プロフィール】吉田 千亜(よしだ ちあ):フリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材を続ける。著書に『ルポ母子避難』(岩波新書)、『その後の福島──原発事故後を生きる人々』(人文書院)、『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)、共著『原発避難白書』(人文書院)。

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