ものを食べるときに出る「咀嚼音」が気になるという人は、一定数います。
男性ばかりの職場で働く50代女性は「麺類ばかり昼に食べる男性の咀嚼音が気になって耳栓をしている」と言います。楽しいはずのランチの時間が近づくと憂鬱になるそうです。
「人を不快にしていることに気づいてもらいたいが、あくまでマナーの問題。会社にも相談しにくい」
最近では、職場の「音ハラ」(ノイズハラスメント)という言葉も聞かれるようになりました。同僚のタイピング音などが耳障りだとして「ハラスメント」だというのです。
はたして、職場での咀嚼音はハラスメントなのでしょうか。そして、こうした問題を解決するためには、どのように動くべきでしょうか。
●麺ばかり食べる男性は口を閉じずに食べる
弁護士ドットコムニュースのLINEに「咀嚼音」の悩みを寄せたのは、製造業で働く大橋聡美さん(50代・仮名)。職場では、自分の席で食事をとるルールとなっているそうです。
この職場では、女性は大橋さんだけで、あとは年配の男性ばかり。「お茶をすする音や舌で挟まった食べ物を探す音」が当たり前に生じるといいます。
その音の中でも「ひと際不快」に感じているのが、「麺」ばかり食べる50代後半の男性です。
「食事直前までタバコを吸っていて匂いをプンプンさせながら登場し、食べるときにもズルズルピチャピチャと音をたてます。
麺が好きなようで、毎日担々麺やカレーうどん、ペペロンチーノなど匂いのきついものを食べていて、それが何であろうと啜りながら食べます。もちろんパスタもです。
口を閉じて食べないので、クチャクチャと噛む音が聞こえます。耐えがたいです」
この男性に悪気がないことは理解していますが、「毎日昼食が嫌で仕方ありません」という憂鬱な状況にまで追い込まれているようです。
大橋さんは「食事のマナーが嫌だと思うのは、私の主観」でもあると考えていて、また、職場で最も社歴が浅いこともあって、当事者にも会社にも相談しにくいと話します。
「最近は耳栓をするようにしています。食べたらすぐに部屋を出て、皆が食べ終わって人がいなくなったら残りの匂いを飛ばすため窓を全開にしています。自分が不快感を与えていることに気づいてくれるといいなとも思います」
咀嚼音はハラスメントになるのでしょうか。そして、どのような対処法があるのでしょうか。労働分野の問題にくわしい村松由紀子弁護士に聞きました。
●咀嚼音もハラスメントになりえるが、会社側に対応まで求められるのか
ーー咀嚼音はハラスメントになるのでしょうか
最近は、典型的なパワハラ以外にさまざまなハラスメントが言われるようになりました。
ノイズハラスメントの中でも、麺類をすするときの「ずるずる」という音によって不快感を与える「ヌードルハラスメント」(ヌーハラ)という言葉も生まれてきました。
咀嚼音もハラスメントになるケースもありうると思います。
ーー職場の同僚のランチの咀嚼音が不快で「耳栓」をつけるほど困った場合、会社側に対応を求められるのでしょうか
ハラスメントの認定に加害者の意図は不要で、加害者に嫌がらせの意図がなくても、ハラスメントは成立します。
ただし、厚労省のパワハラ指針は、パワハラに該当するかどうかは「社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とするのが適当」と述べています。
上記はパワハラについての基準ではありますが、他のハラスメントも同様であると考えられるでしょう。会社側が対応すべきものかどうかは、相談者が不快であると感じただけ、すなわち主観だけでは不十分で、一定の客観性が必要です。
相談者のケースについては、不快なことは十分理解できます。ただ、昼休みという休憩時間中のことでもあり、「社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動」とまではいえないように思います。
●ではどうしたらいいの? 具体的な対処法方法は
ーー同僚の咀嚼音に困っている人に現実的な対応のアドバイスをお願いします
男性側に悪気はないことが多いことから、仮に会社を通じて注意してもらうと、相手が不満に思い、職場の雰囲気が悪くなる可能性もあります。
それよりは、例えば、音楽が流れていれば咀嚼音が聞こえにくくなると思いますので、昼食時に音楽をかける提案をする、あるいは、自分の席ではなく、別の場所で食べても良いように会社に認めてもらう、などはいかがでしょうか。