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横浜小1死亡事故、「高齢ドライバー」不起訴の見通し…「認知症」立件が困難な背景
2017年03月01日 09時44分

横浜市港南区で2016年10月、集団登校していた児童の列に軽トラックが突っ込み、小学生ら7人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の容疑で逮捕された88歳の男性について、横浜地検は処分保留で釈放した。

報道によると、男性には認知症の疑いがあるが、これまで運転をやめるよう家族から注意されることも、認知症の通院歴もなかった。事故の発生を予見できなかった可能性があることから、捜査当局は不起訴処分を視野に在宅での捜査を続ける方針だという。

警察の調べでは、男性は2016年10月27日の朝に自宅を出発し、神奈川県内と東京都内の高速道に出入りを繰り返しながら断続的に走り続け、28日の午前8時ごろに事故を起こした。小学校1年の男子児童1人が亡くなり、6人が重軽傷を負った。

事故が不起訴となる可能性が高まっていることについて、責任が問えないのはおかしいとの声もある。背景にどんな理由があるのか。刑事事件に詳しい藤本尚道弁護士に聞いた。

横浜市港南区で2016年10月、集団登校していた児童の列に軽トラックが突っ込み、小学生ら7人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の容疑で逮捕された88歳の男性について、横浜地検は処分保留で釈放した。

報道によると、男性には認知症の疑いがあるが、これまで運転をやめるよう家族から注意されることも、認知症の通院歴もなかった。事故の発生を予見できなかった可能性があることから、捜査当局は不起訴処分を視野に在宅での捜査を続ける方針だという。

警察の調べでは、男性は2016年10月27日の朝に自宅を出発し、神奈川県内と東京都内の高速道に出入りを繰り返しながら断続的に走り続け、28日の午前8時ごろに事故を起こした。小学校1年の男子児童1人が亡くなり、6人が重軽傷を負った。

事故が不起訴となる可能性が高まっていることについて、責任が問えないのはおかしいとの声もある。背景にどんな理由があるのか。刑事事件に詳しい藤本尚道弁護士に聞いた。

●近代刑法の大原則「責任なければ刑罰なし」

「たとえ刑罰法規に触れる行為をしても、精神障害等の事由によって『事理弁識能力(ものごとの是非善悪を判断する能力)』または『行動制御能力(その判断に従って行動する能力)』に問題がある場合には、刑罰について通常人とは異なる取扱いがなされます。

これらの能力がまったくない人は『心神喪失者』として処罰されませんし、その能力が通常人より著しく劣っている人は『心神耗弱者』として刑が軽減されることになります。

このような取扱いは、近代刑法の大原則である『責任主義(責任なければ刑罰なし)』という考え方に基づくものです」

藤本弁護士はこのように指摘する。今回のケースでは、検察が処分保留で釈放したことで、不起訴の見通しが高まったとされているが、どんな点がポイントになったと考えられるのか。

「本件では、車を運転していた88歳の男性が、少なくとも事故の時点では認知症によって『心神喪失』の状況にあったとの疑いが強まり、刑事責任を問うことが困難ではないかとの結論に至ったものでしょう。

それで、横浜地検は不起訴処分も視野に入れたうえで『処分保留』のまま男性を釈放したのではないかと推測されます。

実は、検察官が立件(起訴)した事件が『心神喪失』で無罪になることはさほど多くありません。『公判維持が困難』と判断される事件を検察官があえて起訴することはないからです。そのような場合は、検察官の裁量で不起訴処分にされるのが通常です」

●「年齢だけを指標に運転者を一律に取り扱うことはできない」

重大事故を起こした男性が刑事罰を受けない可能性が高まったことに、違和感を覚える声もあがっている。

「『責任主義』を前提とする限り、責任能力に問題がある人を、通常人と同様に処罰することはできません。

近年、高齢者による交通事故の増加が社会問題になっていますが、安全運転の技量や能力については個人差が大きいので、年齢だけを指標に運転者を一律に取り扱うことはできません。

他方、少子高齢化・老々介護などの事情から高齢者がハンドルを握る必要があったり、過疎地での交通手段の確保も深刻な問題となっています。

今後、年を追う毎に『認知症ドライバー』による重大事故の発生が増加することが懸念されますが、それに対する効果的な解決方法は見当たりません。

たとえ事故が起きても『心神喪失』のために不起訴という事案が増えるものと思われます。その意味で、社会全体が抱えるリスクやダメージには計り知れないものがあります。

道路交通法規の厳格化や運転免許制度の改正といった『従来型対策』にすぐ限界が訪れることは、火を見るよりも明らかと言うべきでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

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