タレントの中居正広さんと女性とのトラブルに、フジテレビの社員が関与していたと報道された問題を受け、フジテレビは1月27日午後、記者会見を行い、嘉納修治会長、港浩一社長が辞任し、新社長としてフジ・メディア・ホールディングスの専務取締役である清水賢治氏が就任することを発表した。
フジテレビのこれまでの対応について、企業法務に詳しい中村健三弁護士は「後手後手にまわっている上、付け焼刃の対応になっている。港社長、嘉納会長の辞任だけでは不十分であり、不適切な対応が続けば、経営陣刷新に向けた流れがさらに加速する」と批判する。中村弁護士に詳しく聞いた。
●「不適切な対応が続けば、経営陣刷新に向けた流れがさらに加速」
中村弁護士は27日の記者会見について、次のように指摘する。
「フジテレビは嘉納会長と港社長の辞任を発表しました。
フジ・メディアHDの大株主のダルトンは、以前から87歳の日枝久相談役が40年以上も取締役を務めて長期支配をしているというガバナンスの問題を指摘しています。
しかし27日の会見には、日枝相談役は出席せず、取締役の辞任もしませんでした。日枝氏に関する質問については、経営陣は企業風土に対する日枝氏の影響力を認めながらも、言葉を濁すような回答が続きました。
会長・社長辞任後も、日枝氏の影響を排除し、体制が刷新できたという印象はありません。フジテレビ側が本気でガバナンスに取り組む姿勢を示すためには、日枝氏からの説明や日枝氏の進退についての対応が求められるでしょう。このまま、不適切な対応が続けば、経営陣刷新に向けた流れがさらに加速すると考えます」
さらにトラブル発覚後の対応にも問題があったという。
「フジテレビがこれまで明らかにした話からは、本件トラブル発覚後に社長ら限られたメンバーのみで対応しており、コンプライアンス推進室への共有などの然るべき対応しなかったとことがうかがわれます。『特殊な案件』であることを理由としていますが、その特殊性や判断の過程も不明確でした。
経営陣のコンプライアンス意識が欠如し、ガバナンスが機能していなかったように思います。これら対応の経緯や原因についても、第三者委員会の調査で明らかにする必要があると考えます。
また会見では、社長はプライバシーを理由として事案詳細については説明を避ける一方で、トラブル関与疑惑のある社員について現時点でも改めて関与を否定しました。
しかし、第三者委員会において事実認定を委ねていることから、安易に関与の否定を繰り返す発言をすべきではなく、当該社員を守ろうとする姿勢が読み取れました。未だに危機管理意識が欠如しているように見えます」
●企業の致命傷は「二発目轟沈の原則」
今後の焦点は、昨日の記者会見でも経営陣が述べたように第三者委員会でどのような調査結果が出るか、だ。
第三者委員会をめぐっては、大株主である米投資会社のダルトン・インベストメンツとその関連会社が、フジ・メディア・ホールディングスの取締役会に対し、外部の専門家からなる第三者委員会の設置を強く求める書簡を2度にわたり、送っている。
「フジテレビ側が第三者委員会の設置を決めたのは、この書簡よりも自社の対応への反省の方が理由としては大きかったはずです。
港社長をはじめとする経営陣が1月17日に会見を開きましたが、この時の不誠実な姿勢が導火線となって、トヨタ自動車に端を発する各スポンサーのCM差止め、総務省からの独立性確保による調査要求等の一連の動きがありました。フジテレビ側がようやく日弁連ガイドライン準拠の第三者委員会設置に踏み切ったのは、こうした動きを受けてのもの」
中村弁護士は続けて「フジテレビは、不祥事対応の“地雷”を踏み続けている」とも指摘する。
「企業の致命傷になるのは、当初問題となった不祥事ではなく、その後の経営陣による隠蔽等の不適切な対応によるものです(これを『二発目轟沈の原則』といいます)。フジテレビは、不適切な会見により、二発目轟沈でとどめを刺された格好です。ここから失われた信頼の回復を行うのは困難と言わざるを得ません」
●第三者委員会の調査を阻害するような行為はNG
では今後、フジテレビ側経営陣には、どのような対応が求められるのか。
「内外の批判を真摯に受け止めて、さらなる地雷を踏まないことが求められます。まず、今後は第三者委員会による調査が適切、円滑に進むように協力することが重要であり、決して調査を阻害するような行為をしないことです。
例えば、調査途中で報告書案の開示を求める、4月の番組改変時までに調査を終えるように急かす、調査対象の社員に回答内容を確認したり圧力をかけたりする等の行為をしてはいけません」
フジテレビが設置予定の「第三者委員会」は、親会社であるフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビの臨時取締役会で決議されたもの。2010年に日本弁護士連合会(日弁連)が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、ガイドライン)に準拠する。
第三者委員会は、竹内朗弁護士(委員長)、五味祐子弁護士、寺田昌弘弁護士で構成され、フジテレビおよびフジ・メディア・ホールディングスとの間に利害関係を有していないという。
●不祥事の背景まで調査対象に
日弁連の第三者委員会ガイドラインの基本原則には、「第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析する」ことが掲げられている。
また、調査対象は、不祥事の事実関係だけに止まらず、その経緯や背景、類似事案の有無、さらには不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンスの問題点、企業風土にも及ぶ。
その指針では、第三者委員会は、「調査により判明した事実とその評価を、企業等の現在の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する」「調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない」といったことも定められている。