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入社直前の「内定辞退」 学生は賠償金を払わないといけないか?
2013年01月29日 19時10分

冬から春にかけて大学生の就職活動が本格化するが、不況の影響であいかわらず厳しい状況が続いている。その一方で、一部の優秀な(要領がいい?)学生に内定が集中する「就活格差」が存在するのが現実だ。

そんな「内定長者」の学生でも、実際に入社できる会社は一つしかない。そこで、内定を「辞退」する学生が続出することになるのだが、なかには入社直前に内定辞退を申し出る人もいる。

このような場合、会社によっては、入社前研修で発生した費用などの支払いを学生に求める場合もあるという。そのような賠償請求は認められるのか。労働問題にくわしい秋山直人弁護士に聞いた。

●「内定」は法律的にいうと、「始期」と「解約権」がついている労働契約

「会社が学生に対して、採用内定通知書などで正式な『内定』を出す場合、会社と学生との間でどのような法律関係が発生するのかというと、最高裁の判例は、『始期付き解約権留保付きの労働契約』であるとしています」

「始期付き解約権留保付きの労働契約」とは、ちょっと難しい言葉だが、どういうことだろうか。

「簡単にいうと、入社日(例えば4月1日)から働くという『期限』が付いており、かつ、従業員として不適格であることが入社日前に分かった場合には、会社の側から『解約権』を行使して内定を取り消すことがあると『留保』している労働契約、ということです」

では、どんな場合に、会社は「解約権」を行使できるのだろう?

「その点については、『客観的に合理的で、社会通念上相当として是認できる理由があるとき』と解釈されており、恣意的な理由で内定を取り消すことはできないとされています」

逆に、学生から内定を「辞退」しようとする場合、どう考えたらいいのだろうか。「内定関係は、期限や留保が付いているものの、労働契約であることには変わりがありません。そして、新卒の学生が正社員になるという場合は、契約期間の定めのない労働契約であることが通常です」

つまり、内定も、一般的な雇用契約と同じように考えることができるということだ。

●2週間の予告期間を置いて「内定辞退」するのならば、損害賠償義務は生じない

「契約期間の定めのない労働契約においては、労働者は2週間の予告期間を置けば、特段の理由を必要とせずに労働契約を一方的に解約できるとされています(民法627条1項)。したがって、内定関係の場合でも、学生は、2週間の予告期間を置いたうえで内定辞退をすれば、有効に労働契約を解約できます。この場合、会社に対する損害賠償の義務は生じません」

では、入社日の直前になって内定を辞退したら、どうなるのか。「2週間の予告期間も置かないで、突然、内定を辞退して、会社に損害を与えてしまった場合には、会社に対して損害賠償義務を負うことがありえます」と秋山弁護士は指摘しつつ、次のように続ける。

「まだ働いていない入社前の学生が内定を辞退したからといって、直ちに会社に大きな損害が生じるかは疑問です。したがって、実際に裁判になったとしても、学生に対して損害賠償が命じられるケースは、レアケースだと思われます」

最近、一部で問題になっている会社側の強硬姿勢について、秋山弁護士は「会社側が内定者を引き留めようとして、『内定を辞退した場合には損害賠償を請求する』と脅しにかかる場合もあるかもしれませんが、法的にはあまり根拠のない話だろうと思います」と話している。

学生が入社直前に内定を辞退したとしても、会社に損害賠償しなければならないケースはまれだといえそうだが、社会の常識からいって、できるだけ早く会社に伝えるにこしたことはないだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

冬から春にかけて大学生の就職活動が本格化するが、不況の影響であいかわらず厳しい状況が続いている。その一方で、一部の優秀な(要領がいい?)学生に内定が集中する「就活格差」が存在するのが現実だ。

そんな「内定長者」の学生でも、実際に入社できる会社は一つしかない。そこで、内定を「辞退」する学生が続出することになるのだが、なかには入社直前に内定辞退を申し出る人もいる。

このような場合、会社によっては、入社前研修で発生した費用などの支払いを学生に求める場合もあるという。そのような賠償請求は認められるのか。労働問題にくわしい秋山直人弁護士に聞いた。

●「内定」は法律的にいうと、「始期」と「解約権」がついている労働契約

「会社が学生に対して、採用内定通知書などで正式な『内定』を出す場合、会社と学生との間でどのような法律関係が発生するのかというと、最高裁の判例は、『始期付き解約権留保付きの労働契約』であるとしています」

「始期付き解約権留保付きの労働契約」とは、ちょっと難しい言葉だが、どういうことだろうか。

「簡単にいうと、入社日(例えば4月1日)から働くという『期限』が付いており、かつ、従業員として不適格であることが入社日前に分かった場合には、会社の側から『解約権』を行使して内定を取り消すことがあると『留保』している労働契約、ということです」

では、どんな場合に、会社は「解約権」を行使できるのだろう?

「その点については、『客観的に合理的で、社会通念上相当として是認できる理由があるとき』と解釈されており、恣意的な理由で内定を取り消すことはできないとされています」

逆に、学生から内定を「辞退」しようとする場合、どう考えたらいいのだろうか。「内定関係は、期限や留保が付いているものの、労働契約であることには変わりがありません。そして、新卒の学生が正社員になるという場合は、契約期間の定めのない労働契約であることが通常です」

つまり、内定も、一般的な雇用契約と同じように考えることができるということだ。

●2週間の予告期間を置いて「内定辞退」するのならば、損害賠償義務は生じない

「契約期間の定めのない労働契約においては、労働者は2週間の予告期間を置けば、特段の理由を必要とせずに労働契約を一方的に解約できるとされています(民法627条1項)。したがって、内定関係の場合でも、学生は、2週間の予告期間を置いたうえで内定辞退をすれば、有効に労働契約を解約できます。この場合、会社に対する損害賠償の義務は生じません」

では、入社日の直前になって内定を辞退したら、どうなるのか。「2週間の予告期間も置かないで、突然、内定を辞退して、会社に損害を与えてしまった場合には、会社に対して損害賠償義務を負うことがありえます」と秋山弁護士は指摘しつつ、次のように続ける。

「まだ働いていない入社前の学生が内定を辞退したからといって、直ちに会社に大きな損害が生じるかは疑問です。したがって、実際に裁判になったとしても、学生に対して損害賠償が命じられるケースは、レアケースだと思われます」

最近、一部で問題になっている会社側の強硬姿勢について、秋山弁護士は「会社側が内定者を引き留めようとして、『内定を辞退した場合には損害賠償を請求する』と脅しにかかる場合もあるかもしれませんが、法的にはあまり根拠のない話だろうと思います」と話している。

学生が入社直前に内定を辞退したとしても、会社に損害賠償しなければならないケースはまれだといえそうだが、社会の常識からいって、できるだけ早く会社に伝えるにこしたことはないだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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