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取引先から繰り返された性暴力、逃げられないわけは 「無心でいるように努力」フリーランス女性が振り返る
2020年10月01日 10時39分

性暴力被害というと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。知らない人から突然押さえつけられて被害にあう、と想像する人も多いかもしれない。

しかし、実際には、知り合いからの被害が多く、被害者からは「暴行や脅迫を受けていなくても抵抗できなかった」という声が上がっている。さらに、被害が継続することもある。

いったいなぜ、逃げられないのか。性暴力被害の調査では「加害者との上下関係や職場の人間関係などによって、被害者が抵抗できなくなる場合がある」という分析結果が出ている。

取引先から継続的に性暴力を受けていたというフリーライターのAさん(20代女性)も、その一人だ。Aさんは7月13日、「自分が裁判をすることで新たな被害者を少しでも減らせるかもしれない」とエステ会社とその代表に対し、不払い報酬や慰謝料など約580万円を求めて裁判を起こした。

Aさんの思いを紹介するとともに、前述の調査をおこなった臨床心理士・公認心理師の齋藤梓さんに話を聞いた。

性暴力被害というと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。知らない人から突然押さえつけられて被害にあう、と想像する人も多いかもしれない。

しかし、実際には、知り合いからの被害が多く、被害者からは「暴行や脅迫を受けていなくても抵抗できなかった」という声が上がっている。さらに、被害が継続することもある。

いったいなぜ、逃げられないのか。性暴力被害の調査では「加害者との上下関係や職場の人間関係などによって、被害者が抵抗できなくなる場合がある」という分析結果が出ている。

取引先から継続的に性暴力を受けていたというフリーライターのAさん(20代女性)も、その一人だ。Aさんは7月13日、「自分が裁判をすることで新たな被害者を少しでも減らせるかもしれない」とエステ会社とその代表に対し、不払い報酬や慰謝料など約580万円を求めて裁判を起こした。

Aさんの思いを紹介するとともに、前述の調査をおこなった臨床心理士・公認心理師の齋藤梓さんに話を聞いた。

●「なかったことにすれば順調にいく」

フリーライターのAさんは、業務委託契約を結んだエステ会社代表取締役の男性に体を触られるなどの被害にあった。

Aさんは2019年3月、男性から直接「サロンの体験後の評価コメントをお願いしたい」と依頼を受け、体験施術のなかで裸になるよう言われたり、下半身を触られたりした。Aさんは混乱する中「嫌だ」と強く抵抗。男性はその場を離れた。

その後も、服の上から体を触られたり卑猥な質問をされたり、セクハラを継続的に受けながら、エステに関するコラム記事を書く仕事を続けていた。Aさんは「後からなぜ仕事を続けたのかと聞かれて自分でも混乱したし、外から見て一番疑問に思うところかもしれない」と振り返る。

「今の自分だったら、最初にセクハラ発言をされた打ち合わせを最後に会うのをやめたいと思う。セクハラを受けながら仕事をしてしまったのは、なかったことにすれば順調にいくのではないかと思い、我慢をした」

Aさんは、たびたび男性の発言を「セクハラです」といさめていたが、男性からは「うまく冗談か何か言って、セクハラをかわせる女になることがフリーランスや経営者として生きるため重要なスキル」と言われた。

「その考え自体には賛成できなかったけれど、何度も言われているうちに『世の中の現実としてそうなのかもしれない』と無意識に信じてしまったところがある。それでセクハラをされても、無心でいるように努力するようにしてしまった」

Aさんは、自分がされていることが何か考えないようにしていた。「代表との連絡が途絶えて外部の人に相談して初めて、自分のされたことが犯罪に該当することだと知りました。許可なくプライベートゾーンを触られたら、その足で警察に向かうべきだと伝えたいです」。

●された行為を性暴力と認識できず

性暴力被害にくわしい臨床心理士の齋藤梓さんは、Aさんのように、仕事の上下関係がある相手からの性被害はとても多いと語る。

「上司だけでなく、取引先のこともある。中でも、フリーランスは立場がとても弱く、依頼主や担当者と一対一の関係になることも多いので、被害にあいやすい」

「加害者が社会的に信頼されている人物で、被害者も仕事をする上で相手を尊敬していることはよくあります。そういう状態だと、余計に、被害者は抵抗をすることが難しい。被害者は見知った人からされた行為を性暴力と認識できず、断り切れなかった自分が悪いと思ってしまうことも多いです。しかし多くの被害者が、そうした関係性で起こる性暴力で、深刻な傷つきを負っています」

齋藤さんは研究チームを組んで2018年に「望まない性交」を経験した当事者への調査をおこない、分析結果を共著『性暴力被害の実際』(金剛出版)にまとめた。

本では、上下関係にくわえて、職場など社会生活の場での自分の役割や立場から、被害者は抵抗が困難になる場合があると明らかにしている。こうした心理状態は本の中で「社会的抗拒不能」と表現されている。

齋藤さんは「途中で自分の身に起きていることが性被害であることに気づいても、今まで従ってきてしまっているがゆえに断ることが難しかったり、会社での上司部下などの普段の関係を継続せざるを得ないために、抵抗できなかったりする」と被害が継続することもあると指摘する。

「相手は上司や雇用主で信頼関係もあるが、別の場所では性加害者である。社会生活をつづける中で、そこは矛盾するわけですよね。矛盾したときに、生活を続けるために、自分でこれは性暴力ではないと否定しないといられない。相手の方が社会的立場が高いなら、被害者は、それを暴力だと認識して告発すると、生活が壊されかねない。抵抗することは、自分の生活を引き換えにすることである場合もあります」

被害後も関係が継続したり警察への申し出が遅くなったりしたケースでは、立証が難しく、事件化されないことも多い。法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」では、地位・関係性を利用しておこなった行為について、新たな罪を創設するかどうかが議論されているところだ。

齋藤さんは、性暴力に対するイメージが狭く実態とずれていることも、支援までの大きな壁になっていると語る。

「性被害や性暴力がどのように起きるのか、その実態が社会に浸透していないことも問題だと思います。被害者は、自分の身に起きていることが性暴力だと認識できないあいだにも、性暴力にさらされ続け、深刻な傷つきを負います。どういった関係性だと被害者が抵抗しづらいのか。もっと日本社会で広く知られて、性暴力は身近な関係性の中でも起こるのだ、ということが共通認識になればと思っています」

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