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高裁で逆転したネット中傷「悪徳弁護士」事件、発信者情報が「別の裁判で証拠にできる」意義
2020年12月15日 10時15分

ネット上の中傷事件に関連して開示された「発信者情報」を、別の裁判で証拠として利用することが、違法かどうかが争われた裁判。東京高裁はこのほど「違法ではない」という判断を下した。一種の逆転判決だった。少しマニアックに聞こえるかもしれないが、この判決の影響は大きく、ネット中傷事件の被害者救済につながると言われている。どんな点が重要なのだろうか。

ネット上の中傷事件に関連して開示された「発信者情報」を、別の裁判で証拠として利用することが、違法かどうかが争われた裁判。東京高裁はこのほど「違法ではない」という判断を下した。一種の逆転判決だった。少しマニアックに聞こえるかもしれないが、この判決の影響は大きく、ネット中傷事件の被害者救済につながると言われている。どんな点が重要なのだろうか。

●「懲戒請求された悪徳弁護士」という書き込みがあった

今回の裁判は、かなり複雑な経緯をたどっている。ざっくりした内容は下記のようなものだ。

まず、ネット上で、ある人に対する誹謗中傷がなされたことから、S弁護士が被害を受けた人の代理人として、投稿者を特定すべく発信者情報の開示請求をおこなった。その後、発信者情報が開示されて、投稿者が判明。そこで投稿者に対する損害賠償請求をおこなった。

その後、ネット上で「懲戒請求された悪徳弁護士」とS弁護士の悪口が書き込まれた。S弁護士本人が、すでに開示されていた情報を利用して、投稿をおこなった人を特定。投稿者に対して損害賠償請求訴訟をおこなった。

すると、投稿者は、その発信者情報を利用することはプロバイダ責任制限法違反だとして、S弁護士を訴えたのだ。

●プロバイダ責任制限法が争点となった

プロバイダ責任制限法4条3項では、「発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉または生活の平穏を害する行為をしてはならない」と定められている。

つまり、S弁護士が発信者情報を証拠として利用したことが、許されるのかが争点となった。

1審・横浜地裁は、投稿者が「懲戒請求された悪徳弁護士」とネット上に投稿したことについて、名誉毀損が成立するとして、損害賠償33万円の支払いを命じた。

一方で、S弁護士による発信者情報の利用は、プロバイダ責任制限法に違反するとして、22万円の損害賠償請求を認めたのだ。

これに対して、控訴審・東京高裁は「懲戒請求された悪徳弁護士」というネット投稿は名誉毀損が成立するとして、1審・判決を踏襲しつつ、S弁護士の責任を認めた部分については1審・判決を取り消した。

どんな意義があるのか。インターネットの誹謗中傷問題にくわしい船越雄一弁護士に聞いた。

●1審は「プロバイダ責任制限法」に違反すると判断していた

「今回の控訴審判決における争点かつポイントとして最も重要な点は、プロバイダ責任制限法4条3項に関する判断および開示の目的外利用における不法行為の成否に関する判断部分です。

今回のケースでは、別の発信者情報開示請求において開示された発信者情報を、その開示を受けた被害者の代理人だった弁護士が利用した行為について、同法4条3項が規定する『発信者情報の開示を受けた者』が当該発信者情報を『みだりに用いて』、『不当に』『当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為』をしたか否かが問題となりました。

この点について、1審・横浜地裁(2019年12月11日)は、開示を受けた目的外で利用されれば、直ちに不法行為が成立するとし、また同法4条3項の規定が代理人にも適用されると判断しました」

●控訴審は「不法行為」の成立を否定した

「しかし、控訴審判決は、1審の判断を覆しました。

(1)同法4条3項の義務を負うのは、開示請求権の帰属主体たる被害者本人であり、本人が『委任をした訴訟代理人が同項の義務を負うものとは解されない』と判断しました。

また、(2)同法4条3項に違反する行為であるか否かは、『個別の事実関係を基に』判断されるべきであり、開示請求による開示を受けた発信者情報を『開示の目的外で利用したとしても』、そのこと自体が直ちに同法4条3項違反となって、不法行為が成立するものではなく、『違法性や権利侵害の有無の判断において考慮されるもの』と判断しました。

今回のケースでは、具体的な『発信者情報の取得経緯や利用の態様等』に照らして発信者情報を『みだりに』用いることにより『不当に』発信者の名誉または生活の平穏を害する行為をしたものとは認められないとして、発信者情報の開示の目的外利用について、個別具体的な事情を総合的に判断して、不法行為の成立を明確に否定したところに意義があります」

●「判決は非常に大きな影響がある」

「1審・横浜地裁の判断を前提とした場合、たとえば、ある集団に属する複数名に対して誹謗中傷がおこなわれたケースで、何らかの事情で集団に属する1人しか開示請求をおこなうことができないときに、事情の如何を問わず、ほかの被害者が一切、開示された発信者情報を利用できない結果となります。被害者の救済が図れない一方で、他人の権利を侵害した発信者を利する結果となるおそれがありました。

そのほかにも、別の人が開示を受けた情報を利用しなければ、発信者が特定できないようなケースも少なからず存在するのですが、このような場合に個別事情に応じて、開示の目的外利用も許容されうるという点は、被害者の救済につながり、実務上、非常に大きな影響があると考えられます。

この種の事案を取り扱う弁護士にとって、強い後ろ盾となる重要な高裁判決であると思います」

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