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潜伏数十年「桐島聡」とみられる男性死亡、「公安の敗北」「勝ち逃げ」と言えるのか 公安部元検事の視点
2024年01月29日 20時36分

1974~75年の連続企業爆破事件で指名手配されている過激派メンバーの「桐島聡」容疑者を名乗る男性(70)が1月29日、入院先の神奈川県内の病院で死亡したと報じられた。

長らく足取りが不明だった「桐島聡」とみられる男性を警視庁公安部が確保したとする突然のニュースは大きな話題になった。SNSには「公安の敗北」「勝ち逃げ」などの言葉も躍った。

一方、働いていた神奈川県の工務店では給与を現金で受け取っていたことや、保険証を持たず病院で自費診療の治療を受けていたとみられることも報じられている。

かつて東京地検公安部に在籍していた頃、このような「潜伏者」を取り調べた落合洋司弁護士は、彼らに「活動から離脱したいのでは」と感じたこともあったという。本名を名乗ることが許されず、身を潜めて生き続けたことは「勝ち逃げ」と言えるのだろうか。

1974~75年の連続企業爆破事件で指名手配されている過激派メンバーの「桐島聡」容疑者を名乗る男性(70)が1月29日、入院先の神奈川県内の病院で死亡したと報じられた。

長らく足取りが不明だった「桐島聡」とみられる男性を警視庁公安部が確保したとする突然のニュースは大きな話題になった。SNSには「公安の敗北」「勝ち逃げ」などの言葉も躍った。

一方、働いていた神奈川県の工務店では給与を現金で受け取っていたことや、保険証を持たず病院で自費診療の治療を受けていたとみられることも報じられている。

かつて東京地検公安部に在籍していた頃、このような「潜伏者」を取り調べた落合洋司弁護士は、彼らに「活動から離脱したいのでは」と感じたこともあったという。本名を名乗ることが許されず、身を潜めて生き続けたことは「勝ち逃げ」と言えるのだろうか。

●今から30年前、事件から20年後には、東京地検公安部でも名前が上がらない存在だった

——東京地検公安部(あるいは警視庁公安部)において、「桐島聡」という人間はどのような存在でしたか

私が東京地検公安部に在籍したのは地下鉄サリン事件のあった1995年から96年にかけてのことでしたが、公安部では当時、東アジア反日武装戦線の事件は過去のもので、逃亡中の被疑者、被告人が検挙されることもなく、桐島聡が話題にのぼることはありませんでした。街中の手配写真で見るだけの人物という状態でした。

——「桐島聡」を名乗る男性が見つかり、最期に本名を名乗り出て死んだことをどのように受け止めていますか

一連の事件から相当な年月が経ち、このような形で出現したことには驚きました。自ら名乗り出た理由は推測するしかありませんが、最期は本名で死にたいという気持ちはわからないでもありませんし、長い逃亡の日々には感慨深いものもありました。

——「死ぬまで逃げ切った」「勝ち逃げ」「公安の敗北」などとする指摘もあります

捜査機関としては、犯罪の嫌疑がある者は検挙し、起訴相当であれば起訴するのが責務ですから、それができないままこのような状態に至ったことは、捜査機関としてやるべきことをやり切ったとは言えないでしょう。今後、逃亡中の経緯を調べることで、捜査機関としてできることがあったと判明すれば、今後の反省材料、教訓とすべきだと思います。

●「活動から離脱したいのでは」これまで取調べてきた極左組織の活動家たちの素顔は…

——公安部在籍当時、潜伏者の取調べからみえてきた「潜伏生活」はどのようなものでしたか。彼らはどのような人生を送っていたのでしょうか

いわゆる極左組織の非公然活動家を複数、取調べたことがあります。その生活の実態は不明でしたが、自らの思想、信念に基づいて行動、生活しつつも、人によっては疑問を感じたり、活動から離脱したいと考えているのではないかと感じたこともありました。

そのような活動家は長い年月の中で高齢化しているのが実態で、そうした人の中に桐島聡もいたことになります。

——男性が桐島聡本人だとして、偽名で保険証も身分証もないまま数十年も生活することはどのように実現できるのでしょうか

報道されているように、建設会社に住み込みで働き、現金で給与を受け取るような生活をしていたのであれば、長年の潜伏生活も可能であったと思います。東アジア反日武装戦線は組織としては消滅していますが、個人的なつながりで支援してくれる人がいた可能性はあるでしょう。

——逃亡していたオウム真理教元信者の菊地直子氏や高橋克也無期懲役囚も潜伏先に神奈川県を選んだとされます。追われる手配犯が神奈川を目指すには何か理由があるのでしょうか

大人口を抱え、都市部であれば人に紛れて目立たずに潜伏しやすいことや、警視庁管轄外で警察による探索を逃れやすいといった事情が考えられるでしょう。

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