彼女には「東京のタワマンに住んでいる」と言ってるけど、本当は「地方の実家住まい」だったとしたら──?
嘘をついたまま彼女と婚約してしまったらどうなるか。そう不安を感じている男性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
男性は、住まいや職業、収入について本当のことを伝えないまま交際を続けていますが、彼女からは結婚をほのめかされているといいます。
たとえばの話として、自分の職業を「農家」ではなく「投資家」と偽り、年収も数億円あるとうそぶいたまま婚約した場合、彼女から婚約を破棄されるのではないかと心配しているそうです。
さらには「詐欺罪に問われてしまうのでは」という不安もあるようです。男性が嘘をついていたまま婚約した場合、法的な問題は生じるのでしょうか。川見未華弁護士に聞きました。
●お金を騙し取っていなければ「詐欺罪」は成立しない
——男性は「嘘」が詐欺などの罪にあたるのではないかと不安を感じているようです。
詐欺罪が成立するのは、最初から結婚する意思がないにもかかわらず、「結婚する」と嘘をつき、相手を信じさせてお金を騙し取った場合です。
結婚すると言ったのに結婚しなかっただけでも「結婚詐欺」という言葉が使われますが、それだけでは詐欺罪とはなりません。
したがって、住まいや職業、収入について嘘をついていたとしても、それがお金を騙し取るためではなく、見栄や体裁のためだった場合、詐欺罪は成立しません。
●「嘘」を理由に婚約破棄は可能
——では、こうした「嘘」が婚約破棄の理由になりえますか。
婚約が成立したあとでも、男性の「嘘」が判明し、相手と結婚したくないと考えたのであれば、女性は婚約を破棄することができます。
この場合、男性の責任で婚約を解消せざるをえなかったとはいえますが、慰謝料を認められるかどうかは総合的に判断されます。
嘘をついていたこと自体、信頼関係を損なう事情ではありますが、慰謝料が認められるかは「嘘」の内容(悪質性)も考慮されます。
たとえば、実は結婚しているのに「独身だ」と偽っていた場合は、悪質性が高いと判断されるでしょう。
一方で、住まいや職業、収入について偽っていた場合は、それが現実とどれだけ乖離しているか、女性が結婚にあたってどの程度重視していたかなどの事情も考慮されるでしょう。
そのほか、婚約期間がどれだけ長かったのか、婚姻に向けた準備がどれだけ進んでいたか、婚約解消に至った経緯などが考慮されることになるでしょう。
●婚約破棄されたら、男性は金品を返還してもらえる?
——男性は女性に「1億円以上」貢いできたといいます。婚約破棄された場合、返還してもらうことはできるのでしょうか。
婚約破棄の原因が男性の「嘘」であった場合、女性が損害賠償責任を負うことはありません。
また、婚約中にしたプレゼントや、ごちそう・旅行代金の支払いは「贈与」とみなされて、原則として返還を求めることはできません。
つまり、たとえ1億円以上を貢いでいたとしても、返還が認められる可能性は低いと考えられます。