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出所したら102歳!? 放火未遂の97歳男性に実刑判決…本当に刑務所入るのか
2021年07月08日 10時11分

放火未遂の罪に問われていた97歳の男性に、懲役5年の実刑判決が出された。満期で出所した場合には、102歳の「超高齢」となるため、本当に収監されるのかと疑問視する声も聞かれる。

放火未遂の罪に問われていた97歳の男性に、懲役5年の実刑判決が出された。満期で出所した場合には、102歳の「超高齢」となるため、本当に収監されるのかと疑問視する声も聞かれる。

●検察の建物内に火をつけて燃やそうとして5年の実刑判決

報道(朝日新聞デジタル・6月30日)によれば、高知地裁は6月29日、高知地検中村支部の建物を燃やそうとしたとして現住建造物等放火未遂罪に問われていた無職の男性(97)に、懲役5年(求刑7年)の実刑判決を言い渡した。

昨年8月、支部の男子トイレで、便器の中にガソリンなどの燃料入り容器を入れたうえ、ライターで火をつけ、便座を焼損させるなどしたという。

弁護側は、高齢による判断能力の低下などを理由に執行猶予をもとめていたようだ。この判決が確定して刑務所に入り、満期で出所したとき、男性は102歳になっている。

インターネット上では、高齢を理由として「収監されるのか?」との素朴な疑問をもつ声もある。実刑判決が出ても、刑事施設に収監されないことはあるのだろうか。元検事の荒木樹弁護士に聞いた。

●70歳以上であれば、刑の執行を停止できる制度がある

――実刑判決でも高齢を理由として刑事施設に入らない制度はありますか

法律では、懲役や禁錮など刑の言い渡しを受けた人について、検察官が任意で刑の執行を停止できる場合が定められており、その一つが「年齢70歳以上」であるときです(刑事訴訟法482条2号)。

ほかにも、祖父母または父母が70歳以上または重病もしくは体が不自由で、ほかに保護する親族がいないとき(同条6号)、子または孫が幼年で、ほかに保護する親族がいないとき(同条7号)を定めていますが、社会福祉制度が充実した現代において、その適用はほとんど考えられないと思われます。

法務省訓令の執行事務規程によると、刑事施設の長や、刑の言い渡しを受けた人などから刑訴法482条各号に規定する事由による自由刑の執行停止の上申があったときに、検察官は、その事由を審査するとされています。

検察官は、審査の結果、同項に規定する事由がある場合であって、刑の執行停止が相当と認めるときに、執行を停止するとされています(同規程31条)。

●制度はあるが、高齢受刑者は増加の一途をたどっている

――近年、高齢者による犯罪は増加しています

犯罪白書(令和2年版)によると、70歳以上の受刑者は、平成元年には全国で全入所者2万4605人中、90人しかおりませんでしたが、令和元年には、全入所者1万7464人中、1295人に達しています。

ほかの年齢層の犯罪が減少傾向であるのに、高齢者犯罪は一貫して増加し、受刑者も増えています。高齢者であることは、当然には、刑務所への収監を回避する理由になりえないのです。

平成29年において、70歳以上による殺人(未遂を含む)は14件、強盗は7件、放火は8件発生しており、このように、高齢者による凶悪犯罪も無視できる件数ではありません。

――とはいえ、高齢であれば、刑をまっとうできずに刑務所内で亡くなることもありそうです

高齢で服役した場合、受刑中に死亡する可能性は少なくなく、その点で、収監を回避すべき事情のように見えなくもありません。

ただ、受刑中に刑務所内で死亡した者は、令和元年には203人(年齢構成不明)いますので、高齢受刑者が刑務所で死亡する可能性があるからといって、刑の執行を停止する根拠としては薄弱であると思われます。

●執行停止のハードルは年々上昇。97歳でも認められるとは考えにくい

――近年は執行停止がどの程度認められていますか

令和元年に、懲役刑・禁固刑の執行を停止されたのは17件です。

昭和30年代初めには年間300件以上ありましたが、昭和60年ころから100件を下回るようになり、平成23年以降は、年間50件以下で推移しています。

受刑者が高齢化しつつあり、刑事訴訟法482条2項の適用され得る受刑者が著しく増えているにも関わらず、むしろ、刑の執行停止の件数は減少しており、執行停止の要件が非常に厳しくなっていることがうかがえます。

――放火未遂で懲役刑を言い渡された97歳の男性がもとめた場合、執行停止は認められるでしょうか

上申があれば、検察官は執行停止が「相当」か審査します。「相当」な場合とは、受刑者の心身の健康状態・治療の要否など、刑の執行を停止する必要性のほか、犯罪の性質、重大性、刑罰の内容はもちろん、社会的影響や被害者の処罰感情も当然に考慮されるものと思われます。

今回の事件は、検察庁支部の建物内に火をつけて放火しようとした重大事案であり、社会的影響が大きく、公判も通常通り進行していたのであれば、刑の執行停止は考えにくいと思われます。

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