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薬物容疑で逮捕された清水健太郎さん 「処分保留」で釈放されたのはなぜ?
2013年07月07日 15時11分

合成麻薬を使用したとして逮捕された元俳優の清水健太郎さん(60)が6月下旬、処分保留で釈放された。報道によると、東京地検は、処分保留の理由を明らかにしていないという。だが、清水さんは「違法とは知らなかった」と供述していたとされ、その主張が影響した可能性もある。

清水さんは5月下旬、渋谷区の路上でふらついていたところ、警視庁の捜査員から職務質問を受け、任意の尿検査で合成麻薬「α-PVP」の成分が検出されたという。清水さんが薬物関連の容疑で逮捕されたのは6度目。2010年には、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、実刑判決を受けていることなどから、ネット上では「またか」といった声も出ていた。

しかし、問題となった「α-PVP」は今年3月に厚生労働省によって麻薬に指定されたばかりで、清水さんは「違法とは知らなかった」と話したという。このように、最近指定された薬物を「違法」と知らずに使用した場合、法律的にはどのように扱われるのだろうか。刑事弁護のベテランである伊佐山芳郎弁護士に聞いた。

●「違法性の意識の問題」は、学説・判例が対立する刑法の重大問題

「今回のポイントは、厚生労働省が合成麻薬『α-PVP』を麻薬に指定したのが『今年3月』だったことです。違法麻薬の周知期間が短いことを考えると、『違法であることを知らなかった」という清水さんの弁解も理解できなくはありません。

検察側は『次は違法なものとは思わなかったという言い訳は通用しない』と厳しく言い渡しつつも、処分保留で清水さんを釈放したと報じられています。私は今回の処分は正しいと考えます。清水さんには、検察官の最後の温情と受け止めて、ぜひ立ち直ってもらいたいですね」

――では、「違法な薬物ということを知らなかった」という言い訳は、通用する?

「必ずしもそうではありません。刑法では、原則的に『罪を犯す意思がない行為は、罰しない』(刑法38条1項)とされていますが、一方で『法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない』(同条3項)とも定められているからです。

しかし、法律を知らなかったというだけでなく、その行為に全く『違法性』を感じていなかったらどうでしょう。実はこれは、『違法性の意識の問題』として、学説・判例がさまざまに対立するほど重大な刑法上の問題なのです」

――どんな議論がある?

「たとえば、違法性の意識がまったくなければ、法的・道義的に抑制感情にあわないはずですので、そのような状態にある人は非難できないという考え方があります。

しかし『違法性の意識』の強弱を問題にすると、『常習犯』をどう考えるかという問題が出てきます。常習窃盗などは実際には重く罰せられていますが、違法行為を繰り返すことにより、違法性の意識は鈍麻していると言うこともできるからです。

その点に関しては、『違法性の意識があるかないかではなく、違法性の意識が鈍麻するに至ったことじたいに、人格形成についての非難を受けるべきだ』とする有力な学説があります。私はこの学説を支持したうえで、その事情のもとでは、その行為が違法でないと信じてもまったく無理もないという場合には、非難可能性はなくなり、責任はなくなると考えるべきではないかと思います」

――判例は?

「最高裁は『犯罪が成立するためには、違法性の意識は不要』としています。ただ、下級審の判例には、これまで述べてきた見解と同じような判断をしているものも、かなりあります」

極端な話をすれば、昨日までは合法だったのに今日から違法という場合もある。そのような場合をどう扱うか――。専門家の間で、いろいろ議論がなされてきているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

合成麻薬を使用したとして逮捕された元俳優の清水健太郎さん(60)が6月下旬、処分保留で釈放された。報道によると、東京地検は、処分保留の理由を明らかにしていないという。だが、清水さんは「違法とは知らなかった」と供述していたとされ、その主張が影響した可能性もある。

清水さんは5月下旬、渋谷区の路上でふらついていたところ、警視庁の捜査員から職務質問を受け、任意の尿検査で合成麻薬「α-PVP」の成分が検出されたという。清水さんが薬物関連の容疑で逮捕されたのは6度目。2010年には、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、実刑判決を受けていることなどから、ネット上では「またか」といった声も出ていた。

しかし、問題となった「α-PVP」は今年3月に厚生労働省によって麻薬に指定されたばかりで、清水さんは「違法とは知らなかった」と話したという。このように、最近指定された薬物を「違法」と知らずに使用した場合、法律的にはどのように扱われるのだろうか。刑事弁護のベテランである伊佐山芳郎弁護士に聞いた。

●「違法性の意識の問題」は、学説・判例が対立する刑法の重大問題

「今回のポイントは、厚生労働省が合成麻薬『α-PVP』を麻薬に指定したのが『今年3月』だったことです。違法麻薬の周知期間が短いことを考えると、『違法であることを知らなかった」という清水さんの弁解も理解できなくはありません。

検察側は『次は違法なものとは思わなかったという言い訳は通用しない』と厳しく言い渡しつつも、処分保留で清水さんを釈放したと報じられています。私は今回の処分は正しいと考えます。清水さんには、検察官の最後の温情と受け止めて、ぜひ立ち直ってもらいたいですね」

――では、「違法な薬物ということを知らなかった」という言い訳は、通用する?

「必ずしもそうではありません。刑法では、原則的に『罪を犯す意思がない行為は、罰しない』(刑法38条1項)とされていますが、一方で『法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない』(同条3項)とも定められているからです。

しかし、法律を知らなかったというだけでなく、その行為に全く『違法性』を感じていなかったらどうでしょう。実はこれは、『違法性の意識の問題』として、学説・判例がさまざまに対立するほど重大な刑法上の問題なのです」

――どんな議論がある?

「たとえば、違法性の意識がまったくなければ、法的・道義的に抑制感情にあわないはずですので、そのような状態にある人は非難できないという考え方があります。

しかし『違法性の意識』の強弱を問題にすると、『常習犯』をどう考えるかという問題が出てきます。常習窃盗などは実際には重く罰せられていますが、違法行為を繰り返すことにより、違法性の意識は鈍麻していると言うこともできるからです。

その点に関しては、『違法性の意識があるかないかではなく、違法性の意識が鈍麻するに至ったことじたいに、人格形成についての非難を受けるべきだ』とする有力な学説があります。私はこの学説を支持したうえで、その事情のもとでは、その行為が違法でないと信じてもまったく無理もないという場合には、非難可能性はなくなり、責任はなくなると考えるべきではないかと思います」

――判例は?

「最高裁は『犯罪が成立するためには、違法性の意識は不要』としています。ただ、下級審の判例には、これまで述べてきた見解と同じような判断をしているものも、かなりあります」

極端な話をすれば、昨日までは合法だったのに今日から違法という場合もある。そのような場合をどう扱うか――。専門家の間で、いろいろ議論がなされてきているようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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