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<名張ぶどう酒事件>死亡した奥西死刑囚は一審無罪 「検察の上訴を認めるな」の声も
2015年10月16日 15時11分

54年前に起きた「名張毒ぶどう酒事件」の再審を請求していた奥西勝死刑囚が10月4日、収容先の医療刑務所で肺炎のため死亡した。今後は、奥西死刑囚の妹の岡美代子さん(85)が請求人となり、新たに再審請求を行うという。

「名張毒ぶどう酒事件」は1961年、三重県名張市の地区の懇親会で、ぶどう酒に農薬が入れられて、女性5人が死亡したという事件。奥西死刑囚への死刑判決が確定したあと、裁判のやり直し(再審)がいったん認められ、その後取り消されるという経過をたどっていた。

奥西死刑囚の死亡を受けて、「袴田事件」の再審開始決定で釈放された袴田巌さん(79)の関係者はメディアを通じて、「何度も救済機会があったのに見殺しにした」と司法を批判。「検察官の上訴を禁じるべき」と述べた。

袴田さんの裁判も、釈放までには長い時間がかかった。いまも、静岡地裁の再審開始決定に対して検察側が即時抗告し、東京高裁で争っている。再審をめぐる仕組みについて、えん罪事件に取り組む弁護士はどう見ているのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。

54年前に起きた「名張毒ぶどう酒事件」の再審を請求していた奥西勝死刑囚が10月4日、収容先の医療刑務所で肺炎のため死亡した。今後は、奥西死刑囚の妹の岡美代子さん(85)が請求人となり、新たに再審請求を行うという。

「名張毒ぶどう酒事件」は1961年、三重県名張市の地区の懇親会で、ぶどう酒に農薬が入れられて、女性5人が死亡したという事件。奥西死刑囚への死刑判決が確定したあと、裁判のやり直し(再審)がいったん認められ、その後取り消されるという経過をたどっていた。

奥西死刑囚の死亡を受けて、「袴田事件」の再審開始決定で釈放された袴田巌さん(79)の関係者はメディアを通じて、「何度も救済機会があったのに見殺しにした」と司法を批判。「検察官の上訴を禁じるべき」と述べた。

袴田さんの裁判も、釈放までには長い時間がかかった。いまも、静岡地裁の再審開始決定に対して検察側が即時抗告し、東京高裁で争っている。再審をめぐる仕組みについて、えん罪事件に取り組む弁護士はどう見ているのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。

●合理的な疑問が生じているかどうか

刑事訴訟法は、有罪判決が確定しても、「有罪判決に対し、無罪や軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」には、再審の請求ができるとしています(刑訴法435条6号)。

最高裁は、1975年の「白鳥決定」(最決昭和50年5月20日)と呼ばれる決定で、「再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、『疑わしいときには被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」と判示しました。

どういうことかというと、確定判決の基になった証拠を改めて評価しなおしたうえで、そこに新しい証拠を加味して、総合的に全証拠を評価したときに、被告人を有罪とすることに合理的な疑問が生じれば「無罪を認めるべき明らかな証拠」を発見したと言える、つまり再審を開始すべきだと判断したわけです。

新しい証拠を独立に評価するのではなく、確定判決の基になった証拠も洗い直しをして「合理的な疑い」を発見すべきとした白鳥決定は、再審を「えん罪者を救済するための制度」と位置付けたのです。

●開きかけた再審の扉は閉じられた

しかし、再審請求が認められ、再審開始決定がなされても、検察官は決定に対して不服を申し立てることができます。名張事件も、第7次再審請求で名古屋高等裁判所が再審開始決定を出しましたが(2005年)、この開始決定は、検察官の異議申立てにより名古屋高裁の別の部によって取り消されてしまいました(2006年)。

最高裁では、この取消決定は審理が不十分との理由で破棄され、名古屋高裁に差し戻されましたが(2010年)、差戻しを受けた名古屋高裁は、再び再審開始決定を取り消し(2012年)、弁護側は最高裁へ特別抗告しました。しかし今度は、最高裁も、再審開始決定の取消しを是認し(2013年)、開きかけた再審の扉は閉じられてしまいました。

●「検察官による上訴」は「二重の危険の禁止の原則」に反するのか

ところで、名張事件では、もともと最初の第一審判決は無罪でした(1964年)。ですから、この無罪判決に検察官が控訴しなければ、奥西さんは半世紀も前に自由の身になっていたのです。

憲法39条は「既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」と規定しています。これは、個人が、巨大な権限を持った国家による断罪の危険にさらされるのは1回だけに限るという英米法に由来する原則(二重の危険の禁止の原則)を規定したものです。

英米の判例は、無罪判決に対する上訴は「二重の危険の禁止の原則」に違反し許されないとしています。これに対して、我が国の最高裁は、無罪判決に対する検察官の上訴は、この憲法39条に違反しないとしています(最判昭和25年9月25日)。

しかし、捜査機関による捜査・起訴、第一審の公判手続はそれ自体、強大な国家権力によって個人を断罪し、有罪への危険にさらしつつ個人を心身ともに疲弊させる手続です。その手続を経て無罪とされたなら、さらなる重ねての断罪の手続(検察官による上訴)は「二重の危険の禁止の原則」に違反し許されない、とすべきではないでしょうか。2012年に再審無罪が確定した東電OL事件も、2000年の第一審判決は無罪でした。

世の中にやってもいないことで処罰されること以上の不正義はありません。「疑わしいときには被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則を重視するなら、第一審裁判所に市民が参加する裁判員制度が発足した今日、半世紀以上前の最高裁判決は、見直されるべきではないでしょうか。名張事件や東電OL事件は、そのことを我々に訴えていると言えるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

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