2676.jpg
「街の構造物」だったホームレス、接して気付いたことは? 支援団体の大西連氏に聞く
2015年09月11日 10時53分

「貧困は、すぐそばにある」と言われて、驚く人は少なくないはずだ。だが、日本人の6人に1人が相対的貧困状態にあるとされるなか、「僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっている」と訴えるのは、9月8日に発売された書籍「すぐそばにある『貧困』」(ポプラ社)の著者で、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長を務める大西連氏だ。この本で伝えたかったことはいったい何なのか、大西氏に話を聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

「貧困は、すぐそばにある」と言われて、驚く人は少なくないはずだ。だが、日本人の6人に1人が相対的貧困状態にあるとされるなか、「僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっている」と訴えるのは、9月8日に発売された書籍「すぐそばにある『貧困』」(ポプラ社)の著者で、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長を務める大西連氏だ。この本で伝えたかったことはいったい何なのか、大西氏に話を聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

●見た目では「生活困窮者」かどうか分からない

書籍の企画が立ち上がったのは、3年前のこと。

「貧困問題は、今や多くの人が知る日本の社会問題の1つになりました。書籍も、女性、あるいは子どもの貧困問題や、ホームレスなど、各論的なテーマを掘り下げたものが多数出版されています。

それでは、貧困とは一体何なのか。その全体像はぼやけてしまっている感があります。現場の立場で言えば、女性の貧困も子どもの貧困もバラバラに存在するのではなく、つながっているんです。1人1人のストーリーをていねいに追うことで、『貧困とは何か』が見えてくるのではないかと考えました」

昔から貧困問題に関心があったわけではない。中学、高校時代には、通学途中でホームレスを見かけることはあったものの、いわば『街の構造物』の一部としか思っていなかったという。

はじめてホームレスと言葉を交わしたのは2004年の冬、高校生のときだった。終電を乗り逃がした深夜の渋谷で、ホームレスに誘われて暖を囲み、話をした。「今まで無関心だったホームレスが、言葉を話す1人1人の人間であることを知ったことは、大きな経験でした」。

しかし、高校を卒業してフリーター生活に突入すると、いそがしい日々のなか、その記憶は薄れていった。

生活困窮者の支援に関わりはじめたのは、2010年3月のこと。バイト仲間から誘われて、新宿中央公園での炊き出しと夜回りにボランティアとして参加した。

目の前では、炊き出しを求めて集まった約500人が広場を埋め尽くしている。リアルな生活困窮者を、視覚や聴覚、嗅覚といった五感で生々しく感じ、衝撃を受けた。

慣れてくると、「1人1人を見ると、若者や女性、車いすの人など、よくイメージしがちな『ホームレス』の範囲に当てはまらない人々もいることに気付きました。また、見た目では生活困窮者かどうかわからない人もいました。とにかくいろんなクエスチョンが頭に浮かび、何だか不思議な感覚でした」

頭の中にあるたくさんの「?」をそのままにしたくない。浮かんだ疑問の答えを追い求めるため、活動を続けることになる。

●生活保護申請は通ったが、路上生活に戻ってしまった

その年の7月には、サトウさん(仮名)という男性の生活保護申請のため、新宿区の福祉事務所に同行。ここでも、想像と現実のギャップに気付かされる。

「困っている人が訪れると、大変でしたね、このような支援がありますよ、などと結構ウェルカム的な感じだと思っていたのです」。ところが、職員の対応は思いのほか冷淡で、同行者の存在を嫌がった。

懸命なやり取りの末、生活保護の申請は通り、サトウさんからはいったん感謝された。大成功か、と思いきや、紹介された宿泊施設が劣悪な環境だったため、結局、路上生活に戻ってしまう。再び路上で出会うと、サトウさんからは「あんたに頼んだのは失敗だった」などとののしられた。

書籍では、その他のエピソードも紹介されているが、結末はいずれも苦い。せっかく猫が飼える部屋が見つかったのにホームレスは河原に戻り、更正しかけていた元暴力団員はまた服役してしまう。

「きれいな結末のエピソードやかわいそうな人の話など、わかりやすい話は書きたくなかった。場合によっては本人にも少々問題があるような、リアルなエピソードを書きたかった。私が書く意味はそこにあると思うんです。

わかりやすい話は、貧困をどこか他人事で遠い話に思わせてしまうと思うのですが、貧困は本当に遠い話なんでしょうか。人の息吹を正直に描くことで、貧困は遠くにではなく、すぐそばにあること、自分たちの生活と地続きであることを書きたかったんです」

30~40の候補の中から、「すぐそばにある『貧困』」がタイトルに採用された理由も、そこにある。

大西氏自身、格好のよい書き方はしていない。問題に直面するたびに悩み、苦しむ様が率直に描かれている。

助言を求めるとていねいに応えてくれる先輩の稲葉剛氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事)については、「友であり、仲間であり、私を先導してくれる存在。困ったとき、身近に聞ける人がいるということは、とても恵まれていると思います」。周囲の人々にも育てられ、少しずつ成長してきた。

「様々な方々に読んでもらいたいのはもちろんですが、貧困問題に興味を持ったときに、入口となる本として選んでもらえればうれしいですね。まずこの本から読み進めて、その次にはより専門的な書籍に進んでもらえればと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る