6733.jpg
厳罰化した「災害時窃盗罪」をもうけるべきか 能登地震、高級ミカン泥棒など被害続出
2024年01月17日 11時52分
#令和6年能登半島地震

大きな災害があった時に話題となるのが「火事場泥棒」だ。能登半島地震の被災地でも空き家から高級ミカンを盗んだ疑いで大学生が逮捕される事件があった。石川県内では空き巣や置き引きなど、震災にまつわる犯罪が1月15日までに計22件と発表されている。

弱みにつけこむ悪質で卑劣な犯行ゆえに、かつて2016年の熊本地震では与党の一部から、窃盗罪より厳罰に処する「災害時窃盗罪」をもうけるべきとの声が上がり、国会で検討されたこともある。

刑法学者で、甲南大学名誉教授の園田寿氏は「余震が多く避難生活が長期化するにつれ、不安や恐怖が増大する。即座に厳罰化を求めるのではなく、冷静な対応が必要」と指摘する。

大きな災害があった時に話題となるのが「火事場泥棒」だ。能登半島地震の被災地でも空き家から高級ミカンを盗んだ疑いで大学生が逮捕される事件があった。石川県内では空き巣や置き引きなど、震災にまつわる犯罪が1月15日までに計22件と発表されている。

弱みにつけこむ悪質で卑劣な犯行ゆえに、かつて2016年の熊本地震では与党の一部から、窃盗罪より厳罰に処する「災害時窃盗罪」をもうけるべきとの声が上がり、国会で検討されたこともある。

刑法学者で、甲南大学名誉教授の園田寿氏は「余震が多く避難生活が長期化するにつれ、不安や恐怖が増大する。即座に厳罰化を求めるのではなく、冷静な対応が必要」と指摘する。

●体感治安の悪化が恐怖を増幅させる

2011年の東日本大震災では、原発事故の影響で多くの県民が避難した福島県で空き巣被害が相次いだ。また、2016年の熊本地震でも窃盗事件の認知件数は40件を超え、問題化。当時の国会で取り上げられ、窃盗罪の法定刑10年より重い刑罰を科すべきという意見も出ていた。

今回の能登半島地震でも、窃盗や詐欺などが発生。防犯カメラの設置やパトロール強化が報じられている。道路事情やインフラ復旧の遅れなどから、集団避難した集落では、住民が戻るまでの期間が決まっていないところもある。

園田氏は「普通の精神状態ではない上に、不安な事態が長く続けば体感治安が悪化していきます。1件の空き巣が重大な恐怖に感じます」と説明。しかし、熊本地震の時のように政治が冷静さを失い、実際の認知件数などの検証もせずに立法化を急ぐことは危険だという。

「もし災害時窃盗罪を立法するとなれば、宣言的な『象徴立法』にしかなりません。一度制定されると、なかなか変わらない刑事法としては好ましくない。世間に悪質さをアピールするだけで、根拠も効果も弱いものとなります」

●既存の窃盗罪で十分対処できる

そもそも、既存の枠組みのなかでも、常習累犯窃盗罪なら懲役20年まで求刑は可能だ。実際に熊本地震の「火事場泥棒」に対しては、厳しい処罰が下されている。

読売新聞の記事によると、熊本簡裁は、益城町の損壊した家屋からタブレット端末など7点(計約2万4000円相当)を盗んだ男性に「被災者の窮状につけ込んだ犯行で酌むべき点はない」として懲役2年6月、執行猶予3年(求刑・懲役2年6月)を言い渡した。検察側はこの事件で「被災者に追い打ちをかける行為」などと主張しており、他にも乾電池4本を盗んだ被告人に対し正式裁判を求めたケースもあったという。

園田氏は「この事例のように、検察側が論告求刑で悪質さについて意見を述べるなどの手段が考えられます。もしも立法するとなった場合、『災害時』『被災地』の適用範囲をどこで線引きするかの課題もある」と説明。避難所での強姦や詐欺など、被災地で懸念される犯罪はあるものの、客観的事実に基づいた報道が必要だと警鐘を鳴らす。

「窃盗や詐欺、強姦が横行しているといった不安をあおることによって、根拠のないデマが広がることのないよう注意が必要です。メディアや行政機関には、こうした点を勘案して冷静な呼びかけをしてほしいと思います」

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る