保育園の忘れ物を取りに行くわずかな間、自宅前に停めた車の中に子どもを残した──。
一見すると、日常の中でついやってしまいがちな行動ですが、「もし誰かに通報されていたら」と不安に感じた保護者から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
子どもの車内置き去りをめぐっては、全国で痛ましい事故が後を絶ちません。
炎天下の日も続きますが、たとえ「ほんの数分」「ほんの数秒」だったとしても、罪に問われる可能性はあるのでしょうか。河内良弁護士に聞きました。
●「わずかな時間だから大丈夫」とは言い切れない
──子どもを車内に残した場合、どのような罪に問われる可能性がありますか。
子どもが車内に残っていることを知りながら離れた場合には「保護責任者遺棄罪」が、もし子どもが車内に残っていることを忘れていた場合でも、死傷など重大な結果が生じれば「過失致死傷」や、状況によっては「自動車運転過失致死傷罪」に問われる可能性があります。
今回の相談は「忘れ物を取りに行く間に、子どもを残した」という内容であり、「知りながら残した」ケースに該当するため、保護責任者遺棄罪にあたる可能性があります。
過去の事例では、置き去りにした時間が長く、子どもが亡くなるなど重大な結果につながったケースが多く、相談者が懸念するような「わずかな時間」は事例化されていません。
しかし、日本自動車連盟(JAF)の調査によると、「エアコンで適温が保たれている車内でも、エンジンを停止させ5分経過した時点で車内温度はすでに約5℃上昇し、15分後には熱中症の指標である熱中症指数が危険レベルにまで達する」とされています。わずか5分でも命に関わるリスクがあるということです。
「家に忘れ物を取りに行って、戻ってくる」までの時間は、実際には思ったよりも長くなることもあります。「わずかな時間だから大丈夫」とは言い切れません。
なお、刑事責任に問われない場合でも、児童虐待防止法における「児童虐待」に該当すると認定されるおそれもあります。
●たとえ1秒でも車内に残すことは避けるべき
──第三者から通報された場合、警察や児童相談所が動くことはありますか。どのような事情が重視されるのでしょうか。
通報した第三者にとっては、「何分間置き去りにされているか」はわかりません。現場に駆けつけた警察や児童相談所の職員にとっても状況の詳細をその場で判断するのは困難です。
ましてや炎天下であれば言うまでもなく、たとえ短時間であっても人目につくところに置いた車の中に残しておくことは、車の錠を破壊して連れ去られるなどの危険も孕んでいます。公的機関としては、まずは「臨場する」という判断になりそうです。
──保護者として気をつけるべきこと、法的な観点からのアドバイスはありますか。
「少しの間だから」と思っても、家の中で荷物を探しているうちに時間が経ってしまったり、電話に出て長話になってしまったりして、子どもの存在を忘れてしまう危険があります。
その結果、万が一にも子どもが死傷するようなことが起きれば、法的責任は非常に重く問われます。責任以前に、そのような悲劇が起きてしまうこと自体が、何よりも避けなければならないことです。
「ほんの数秒だから大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態につながるおそれがあることを絶対に忘れないでください。たとえ1秒でも、子どもを車内に残すことは絶対に避けるべきです。
また、運転手には、車内外で事故が起きないように配慮する義務や責任があります。子どもの存在を「うっかり」忘れてしまうような状態では、そもそも、子どもを車に乗せて運転する資格はないと言えるかもしれません。
そのようなことがあった場合は、子どもが自分で安全に移動できる年齢になるまで、自動車での移動を控えるべきだと私は考えます。