人気キャラクター「アンパンマン」の子ども用乗り物に大人が乗って、滋賀県の琵琶湖を一周する「ビワイチ」に挑戦するという動画が話題を呼んでいる。
YouTubeチャンネル「動あり」に投稿されたもので、6月2日の公開以降、すでに193万回再生されている(6月21日現在)。
琵琶湖は日本最大の湖で一周は約200キロもあるが、今回はおそらく北湖(約150キロ)の一周とみられる。言うまでもなく、自転車でも大変な距離である。
動画内では、夜間走行のためにライトを取り付けたり、飲酒運転を避けるためにコンビニでビールの購入を思いとどまったりと道路交通法を気にする様子が随所に見られた。
ユーザーからは「車両扱いなの面白い」「無灯火に厳しかったりちゃんと車として扱うのカッコよすぎ」といったコメントが付いている。
そもそも"アンパンマン号"(動画内ではそう呼ばれている)のような、おもちゃに大人が乗って公道を走った場合、法的に問題ないのだろうか。
道路交通法にくわしい平岡将人弁護士に聞いた。
●"アンパンマン号"は道路交通法の対象にならない
道路交通法では、歩行者は歩道を通行しなくてはならないと定められていますが(10条)、小児用の車は歩行者とされています(2条3項1号)。したがって、大人が"アンパンマン号"に乗車しても歩行者なので、歩道を通行できます。
さらに道路交通法は、「車両等」に対して夜間は灯火しなくてはならない義務を定めています(52条)。ここでいう「車両等」とは、自動車や原動機付自転車、軽車両やトロリーバス、路面電車を意味しますので、歩行者と扱われる"アンパンマン号"は適用外となります。
つまり、大人が"アンパンマン号"に乗っても、ライトを灯火する義務はなく、飲酒運転の対象にもなりません。
●大人が乗っても「軽車両」にならない理由
道路交通法に「軽車両」の定義があります(2条1項11号)。
自転車や荷車のように、人の力で動くものであり、かつレールによらないで運転するものとされています。ただし、車椅子や小児用の車は「軽車両ではない」とも規定されています。
そのため、"アンパンマン号"が「小児用の車」に該当するならば「軽車両ではない」ということになります。
では「小児用の車」とは何なのか、ということが次の問題になります。
これは「軽車両」として「歩行者」と異なる規制を与えるにふさわしいか否かという観点から分類することになります。具体的には公道を走行したときに、歩行者とは異なる危険を及ぼすかどうかということです。
過去の裁判例では、歩行者との速度の比較や惰力行進(動力を加えない状態で進行すること)の程度、車輪の直径(40センチ以上は軽車両と認められやすい)や制動装置の有無などを摘示したうえで、「軽車両」なのか、そうでないのかを判断しています。
今回のケースもそれに倣って考えてみますと、歩行者との速度比については、むしろ歩行者より遅く、加えて「惰力でほとんど走行できず、車輪も小さく、制動装置がついていない──などを考えると、小児用の車に該当して「軽車両」とは言えないと考えられます。
商品の予定する対象年齢を超える大人が乗車したとしても、それによって商品そのものの性質が変わるわけではありませんので、誰が乗ったとしても軽車両にはなりません。
●違法ではないが「やめてほしい」
問題点としては、想定される制限体重を超える重量を乗せることによって、商品が破損するおそれがあることです。
このような想定していない使い方で、他人に損害を及ぼしてしまったような場合、不法行為責任を負うことになるでしょう。
「軽車両」として扱われたら、基本的に歩道を移動できません。
小児用の車や障害者用の車椅子などが「歩行者」とされるのは、子どもや障害のある方に、安全に歩道を移動してもらうためです。
歩行を自由にできる健康な成人が、あえて小児用の車で移動する合理的な理由は一切ないわけですから、違法とは言えませんでしたが、個人的にはやめてほしいと感じました。
このような想定外の利用が増えてしまったら、そして、何か危険な使い方が増えてしまったら、今まで許されてきたことまで、規制が入ってしまう可能性もあります。
その結果、散歩したり、出かけたりという、ささやかな権利が制限されてしまう人が出てしまうかもしれないわけですから。