12371.jpg
バレンティンの「56号ホームランボール」 所有権は誰にある?
2013年09月19日 19時16分

ついに「56号」が出た。ヤクルトのウラディミール・バレンティン選手が放った、日本プロ野球史上に燦然と輝くホームランボールは、スタンドでキャッチした阪神ファンの男性の手を経て、バレンティン選手に「返還」されたという。歴史的価値のあるこの記念球は、バレンティン選手の快諾で、野球殿堂博物館に寄贈されるようだ。

このニュースを聞き、アメリカでホームランボールの所有者を巡る訴訟があったという話を思い出した。日本ではどうなのだろうか。

プロ野球のボールは、ホーム側のチームが用意する。この日の試合は神宮球場で行われていたので、元々ボールを所有していたのはヤクルト球団だといえる。

ヤクルト球団広報によると、通常、ホームランボールやファウルボールについて、球団側での回収は行っていない。ただ今回の56号や、プロ初ホームランなどのような記念球は、「回収するというのが慣習」(広報)という。厳格なルールがあるわけでもないようだ。

日本では、ホームランボールが法的に「誰のもの」か、裁判で争われたことはあるのだろうか。また、もしそのような事態になった場合、裁判所はどのような判断をする可能性が高いだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。

●もともとボールは、ホームチームの所有物

「野球が好きな私ですが、ホームランボールが誰の所有に帰するかをめぐって、日本で裁判で争われたということは聞きません」

このように大久保弁護士は答える。では、もし日本で裁判が起きた場合、ホームランボールは誰のものとされるのだろうか。

「プロ野球の試合で使用されるボールは、『ホームチームがコミッショナーの承認印が捺された公認ボールを用意して、審判員に届ける』とされているようなので、『ホームチームの所有物』と思われます。したがって、もともとの原則からすれば、観客がホームランボールをキャッチして占有権を取得したとしても、所有権者たる球団から返還を求められれば、返還せざるを得なくなると考えられます」

●「長年の慣行」からすると、ボールは観客のもの?

ということは、ホームランボールの所有権は球団にあるといえるのだろうか。この点について、大久保弁護士は「長年の慣行」という観点から、次のような解釈を披露する。

「昔から、ファウルボールを回収することはあっても、ホームランボールを球団が回収することはありませんでした。この長年の慣行からすれば、ホームランボールについては、球団とそれをキャッチした観客のあいだで『暗黙の贈与契約』があるのだと解釈できるでしょう。

最近では、ファンサービスの充実強化策として、ファウルボールも回収しなくなりましたので、ファールボールについても、『暗黙の贈与契約』があると解釈できると考えます。したがって、ホームランボールやファウルボールについては、それをキャッチし、占有した人に所有権があるといえます」

アメリカでは、誰が最初にキャッチしたのかをめぐって、争いが生じることもあるようだ。たとえば、今回のようにオークションに出せば高値がつきそうな「記念ボール」をめぐって、最初にボールをキャッチした人が落球してしまい、コロコロと転がったボールを別の人がつかんだ場合、どちらの観客が「ボールの所有権」を手に入れらるのだろうか。大久保弁護士の回答は次のようなものだ。

「最初にボールをキャッチした人の落球が、最後にボールをキャッチした人の故意行為によるものか否かによって、結論が変わってくるでしょう。もし故意行為があれば最初にキャッチした人に、逆に、故意行為がなければ最後にキャッチした人に、所有権があると認められるのではないでしょうか」

今回は、ホームランボールをキャッチした観客が快くバレンティン選手に「返還」したため、このような問題は起きなかった。すがすがしい結末になって良かったと、多くの野球ファンは思っているのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

ついに「56号」が出た。ヤクルトのウラディミール・バレンティン選手が放った、日本プロ野球史上に燦然と輝くホームランボールは、スタンドでキャッチした阪神ファンの男性の手を経て、バレンティン選手に「返還」されたという。歴史的価値のあるこの記念球は、バレンティン選手の快諾で、野球殿堂博物館に寄贈されるようだ。

このニュースを聞き、アメリカでホームランボールの所有者を巡る訴訟があったという話を思い出した。日本ではどうなのだろうか。

プロ野球のボールは、ホーム側のチームが用意する。この日の試合は神宮球場で行われていたので、元々ボールを所有していたのはヤクルト球団だといえる。

ヤクルト球団広報によると、通常、ホームランボールやファウルボールについて、球団側での回収は行っていない。ただ今回の56号や、プロ初ホームランなどのような記念球は、「回収するというのが慣習」(広報)という。厳格なルールがあるわけでもないようだ。

日本では、ホームランボールが法的に「誰のもの」か、裁判で争われたことはあるのだろうか。また、もしそのような事態になった場合、裁判所はどのような判断をする可能性が高いだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。

●もともとボールは、ホームチームの所有物

「野球が好きな私ですが、ホームランボールが誰の所有に帰するかをめぐって、日本で裁判で争われたということは聞きません」

このように大久保弁護士は答える。では、もし日本で裁判が起きた場合、ホームランボールは誰のものとされるのだろうか。

「プロ野球の試合で使用されるボールは、『ホームチームがコミッショナーの承認印が捺された公認ボールを用意して、審判員に届ける』とされているようなので、『ホームチームの所有物』と思われます。したがって、もともとの原則からすれば、観客がホームランボールをキャッチして占有権を取得したとしても、所有権者たる球団から返還を求められれば、返還せざるを得なくなると考えられます」

●「長年の慣行」からすると、ボールは観客のもの?

ということは、ホームランボールの所有権は球団にあるといえるのだろうか。この点について、大久保弁護士は「長年の慣行」という観点から、次のような解釈を披露する。

「昔から、ファウルボールを回収することはあっても、ホームランボールを球団が回収することはありませんでした。この長年の慣行からすれば、ホームランボールについては、球団とそれをキャッチした観客のあいだで『暗黙の贈与契約』があるのだと解釈できるでしょう。

最近では、ファンサービスの充実強化策として、ファウルボールも回収しなくなりましたので、ファールボールについても、『暗黙の贈与契約』があると解釈できると考えます。したがって、ホームランボールやファウルボールについては、それをキャッチし、占有した人に所有権があるといえます」

アメリカでは、誰が最初にキャッチしたのかをめぐって、争いが生じることもあるようだ。たとえば、今回のようにオークションに出せば高値がつきそうな「記念ボール」をめぐって、最初にボールをキャッチした人が落球してしまい、コロコロと転がったボールを別の人がつかんだ場合、どちらの観客が「ボールの所有権」を手に入れらるのだろうか。大久保弁護士の回答は次のようなものだ。

「最初にボールをキャッチした人の落球が、最後にボールをキャッチした人の故意行為によるものか否かによって、結論が変わってくるでしょう。もし故意行為があれば最初にキャッチした人に、逆に、故意行為がなければ最後にキャッチした人に、所有権があると認められるのではないでしょうか」

今回は、ホームランボールをキャッチした観客が快くバレンティン選手に「返還」したため、このような問題は起きなかった。すがすがしい結末になって良かったと、多くの野球ファンは思っているのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る