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「Vtuber」に対する名誉毀損は成立するか? 「ネット人格」めぐる論点
2022年01月07日 10時00分

女子プロレスラーの木村花さんが自殺に追い込まれるなど、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化している。

被害を受けるのはテレビの有名人だけでなく、キャラクターのアバター(外見)で配信するVTuberや匿名のツイッターユーザーなど、顔出ししていない人であることも珍しくなくなってきた。

ところが、このような「ベールに包まれた人たち」が裁判を起こしても、被害回復は容易ではないという。一体なぜなのか、正体を明かしていない人が名誉を回復するためにはどうしたら良いのか、ネット中傷問題にくわしい中澤佑一弁護士に聞いた。

女子プロレスラーの木村花さんが自殺に追い込まれるなど、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化している。

被害を受けるのはテレビの有名人だけでなく、キャラクターのアバター(外見)で配信するVTuberや匿名のツイッターユーザーなど、顔出ししていない人であることも珍しくなくなってきた。

ところが、このような「ベールに包まれた人たち」が裁判を起こしても、被害回復は容易ではないという。一体なぜなのか、正体を明かしていない人が名誉を回復するためにはどうしたら良いのか、ネット中傷問題にくわしい中澤佑一弁護士に聞いた。

●「生身の人間や法人」が原則

――どうして正体を明かしていないと名誉毀損で争うのが難しいのですか?

現在の判例・裁判例の枠組みでは、生身の人間(自然人)や実在の法人が名誉権の帰属主体(名誉毀損の被害者になり得る)とされています。

よって、ネットのハンドルネームが独立して名誉毀損の被害者になることはなく、生身の人間や実在の法人を示すもの(あだ名のようなもの)としてハンドルネームが使われる場合に名誉毀損が認められます。

●「中の人」のリアルでの活動の有無がポイント

――正体は非公表でも、出版などをしているツイッターユーザーもいますし、VTuberの多くも事務所に所属していて、実世界の人間ともつながっていそうです

ネット以外の現実世界で、ハンドルネームを名乗って活動している実績がある場合には、名誉毀損が認められます。事務所に所属しているVTuberであれば多くの場合要件を満たすと思われます。

――裏を返すと、実世界とのつながりを持っていない「アルファツイッタラー」や「野良VTuber」には、名誉毀損は成立しないのでしょうか?

有名人でなく一般の方の趣味のアカウントなどでも、ハンドルネームを名乗ってオフ会に参加している、顔写真をネットに公開しており現実の知り合いが見れば誰のことかわかる、などの事情を主張して名誉毀損が認められた事例は経験があります。

しかし、そのようなリアルの活動が一切なく、完全に自分一人でかつネット人格とリアル人格を切り離している場合には、現在の裁判所の判断枠組みでは名誉毀損の成立は否定されるでしょう。

●「ネット人格にも名誉権を」

――2021年末、あるVTuberが別のVTuberを訴える準備をしていると発表しました

報道で原告の方のコメントを見ました。「中の人」に対する悪口ではなくVTuberのキャラに対する中傷で深く傷ついているようです。この事例はまさにこの点が被害の本質であろうと思います。

しかし、この構成は「名誉毀損の被害者になり得るのは生身の人間」という裁判所の考え方とマッチしておらず、チャレンジになります。無難にいくなら「VTuber活動を知っている周囲からは生身の私がいじめをしていたと思われてしまう」という構成になるでしょう。

ただ、インターネットが広く社会に浸透し、ネット内だけの人格を構築して活動するケースも増えています。この社会状況下において、あくまで名誉権の主体を生身の人間に限定し、ハンドルネームには法的保護が及ばないという枠組みを堅持すべきかは議論の余地があるのではないでしょうか。

ネットだけの活動でも収益を得ることが可能な仕組みも広がっており、フォロワー数などアカウント自体に経済的価値が認められることは誰もが認めるところでしょう。このように生身の人間から離れたネット人格にもリアルな裏付けが成立しつつあります。

今回のVTuberのケースで、「キャラへの中傷で現実の自分が傷ついた」という本質的な被害が裁判で審理されることになれば、ネット人格の法的保護について道が拓かれる可能性が出てきそうです。

●名誉毀損以外での被害回復は?

――今回のケースに限らず、名誉毀損以外の理屈で被害を回復することはできないのでしょうか?

報道の事例のように同業VTuberによる発信が事実無根であることを主張するのであれば不正競争防止法2条1項21号(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為)による救済は可能と思われます。

また、同業以外でも、社会的評価の低下を前提にしない名誉感情の侵害(侮辱)や、営業的な損害が出たということで営業権侵害は認められる可能性があります。

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