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韓国人元外資系証券マンの解雇、控訴審でも「有効」 人種的ハラスメント主張も認められず…東京高裁
2025年11月20日 19時40分
#レイシャルハラスメント #解雇無効

韓国人であることを理由に上司から「レイシャルハラスメント」(差別的な扱い)を受けたのに、会社に申し立てたところ、逆に解雇された──。

元外資系証券マンの40代男性が、会社を相手取り、損害賠償や解雇無効を求めた裁判の控訴審判決が11月18日、東京高裁であった。

水野有子裁判長は、一審・東京地裁の判断を支持し、原告側の控訴を棄却した。原告側は上告する方針を示している。(ライター・碓氷連太郎)

韓国人であることを理由に上司から「レイシャルハラスメント」(差別的な扱い)を受けたのに、会社に申し立てたところ、逆に解雇された──。

元外資系証券マンの40代男性が、会社を相手取り、損害賠償や解雇無効を求めた裁判の控訴審判決が11月18日、東京高裁であった。

水野有子裁判長は、一審・東京地裁の判断を支持し、原告側の控訴を棄却した。原告側は上告する方針を示している。(ライター・碓氷連太郎)

●解雇無効などを求めて提訴した

原告側によると、男性は日本の証券会社の海外支社勤務などを経て、2007年にモルガン・スタンレーMUFG証券へ転職。債券デリバティブなどを担当していた。

その勤務中の2012年、当時の上司が、韓国の李明博大統領(当時)が天皇に謝罪を求めると受けとれる発言をしたことをめぐり、「天皇を侮辱するな」などと述べたという。

このころ日本では、李大統領が竹島に上陸したのち「韓国に来るなら日王(天皇のこと)は独立運動家に謝るべきだ」と発言したことが大きく報じられていた。

原告側によると、上司はさらに、徴用工問題をめぐる韓国大法院の判決への不満を述べたり、韓国海軍が自衛隊の哨戒機に対してレーダーを照射した問題の際には「レーダー照射、どうにかしてくれ。あなたの先輩だろ」などと発言したという。

男性は2020年3月、これらの言動がレイシャルハラスメントに該当するとして、会社へ調査を求めたが、会社側は「威圧的、敵対的または不快な職場環境を作り出すほど悪質または蔓延している」という定義にあたらないと判断した。

さらに会社は、調査開始時に秘密保持契約を理由に、男性に守秘義務があるとして、社内外の第三者に話すことの一切を禁止。男性が納得できず、ハラスメント調査の担当者や米国本社CEOなどにメールを送ったところ、自宅待機を命じられた。

その後も、男性は調査の不当性を訴えるメールを本社経営陣らに送り続け、同年9月に「けん責処分」、そして2021年1月に解雇を通告された。

男性は、解雇無効だけでなく、ハラスメント調査義務に違反したとして、モルガン・スタンレーグループに損害賠償を求めて提訴した。

●一審の東京地裁は「解雇は正当だ」と判断した

一審の東京地裁は2024年6月、「社内で調査結果についての意見を述べたことは懲戒事由にあたる」「守秘義務は調査が終わった後も無期限に続き、被害事実も対象となる」と指摘。

そのうえで「会社側の『今後、他の人に言いふらすのではないか』というおそれがあることを理由に、解雇することは正当である」などとして、請求を棄却した。

また、差別的発言については「精神的苦痛を与えるものである」ことは認めたものの、「ハラスメントには該当しない」とした。

男性は判決を不服として控訴した。

●控訴審の証人尋問に元上司が出廷した

2025年5月の控訴審の証人尋問では、元上司が出廷。天皇発言については「ニュースを話題にしたに過ぎず、感想として友好国の大統領がプラスにならない発言をしたから」であり、決して強い口調などで話していないと証言した。

また、ハラスメント申し立てを知ったときには「かなり突っ込んだ発言ができていたと思っていたので、ショックを受けた。これまで一度も、周囲からハラスメント認定をされたことはない」と延べ、調査結果についても「自分の認識と違い残念と感じた」と話していた。

●男性「憤りというよりも絶望を感じた」

控訴審の判決を受けて、原告男性は次のように悔しさをにじませた

「私と私の家族にとって非常に重く、受け止めるのが苦しい結果となった。あえて5年間無職のまま、モルガン・スタンレーを変えようと戦ってきたのに、なぜこのような判決となったのか。

判決文には、私が署名をしていないにも関わらず、会社のポリシーによって被害事実を話さないという義務があったのにハラスメント調査の担当者や米国本社CEOなどにメールを送ったのは、命令違反で解雇は有効とある。また被害者が被害事実を告げることをルール違反としているが、これでは被害体験を家族にも誰にも話せなくなってしまう。

一審で負けたときは非常に失望したものの、二審を期待していた。少なくとも守秘義務についての判断には修正が入ると思ったし、人種的ハラスメントは有効な法律がないから変わらないかもしれないけれど、きちんと判断してほしいと思い高裁に臨んだ。

今感じているものは憤りというよりも絶望と言ったほうが、私にとっては正しい表現だ」

●控訴審判決のポイント

控訴審判決は次のような内容だ

・会社が提示した秘密保持契約書については署名をしなくとも、調査チームにメールで条件に合意する旨を送信すれば足りると会社側が伝えたところ、それにしたがっている。よって秘密時事契約書の合意は成立する。

・守秘義務は調査終了後にも及ぶと理解するのが自然かつ合理的で、時間的範囲が、調査期間中のみならず調査終了後にも及ぶと控訴人に表示されていたことは明らか。

・調査内容については担当者を除き、社内外の一切誰にも話してはいけないと記載されている。話す必要があればまず調査担当者に相談する旨も記載されている。ただし控訴人が弁護士に相談することは禁じていないから、正当な権利行使を制約する意図はない。

・調査チームの調査の公平性や中立性に疑義を抱いていても、それが秘密保持契約書の合意に違反していい理由にはならない。

・上司の一連の発言は、控訴人に不快感と精神的苦痛を与える行為ではあるものの、8年間に5回という頻度や韓国大統領や大法院への批判であり、韓国や韓国人一般や控訴人に対してのものではない。またうち7件は平穏な口調だったことから、就業する上で看過できない程度の支障を生じさせるものではない。よってハラスメントに該当しないし、人種的ハラスメントにより控訴人の就業環境が害された事実があるとはいえない。

●原告代理人「不当判決だ」

判決後の記者会見で、原告代理人をつとめる川口智也弁護士は「地裁判決の問題点を踏襲しただけではなく、人種的ハラスメントを認定していない点も不当判決だ」として、最高裁で争う意向を示した。

画像タイトル 「不当判決」を掲げる原告代理人の川口智也弁護士

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